名古屋のブルガリアショップで掘り出し物を探す

デイリーポータルZ

キリル文字の商品が想像力をかきたたせる

名古屋の東北、住宅が広がる守山区に、なんとも不思議な外国商品を扱う店がある。

名前は「コキーチェ」。

たまたま見つけてふらっと入ったその雑貨店は、小さな空間ながら濃い内容で、唯一無二のクセのある商品ばかり。

海外の庶民的な市場で買ったものを売っているだけあり、その商品ラインアップを見て、気軽に旅行をしてた頃を思い出した。

キリル文字の店に吸い寄せられる

キリル文字の店を突然見つけたら気になりませんか?

名古屋には他の街にはない乗物がある。バスのようなバスでないような「ゆとりーとライン」という乗物がそのうちのひとつ。高架の専用道路を一見普通のバスのような乗物が走っているが、写真を撮り忘れてしまった。

そのゆとりーとラインの「守山駅」で降りて、乗換駅である名鉄瀬戸線の「守山自衛隊前駅」にはじめて向かった時のことだ。

守山自衛隊前駅の近くにロシアで使う見慣れないキリル文字の雑貨屋があったのだ。スラブ文字の隣には「コキーチェ」とカタカナが添えられている。なんだこの店は。

吸い込まれるように扉を開けて入っていった。

お店は撮った立ち位置からすぐ。つまり駅からすぐだ。

「こんにちは……ここはなんの店ですか?」と聞くと、店長さんは「ここブルガリアのものを扱っている店なんですよ」という。日本人の店長さんは取材はOKだけど顔出しNGということで「店長さん」と表記する。

ブルガリア!僕の予想でもgoogleの検索サジェストでも「ヨーグルト」がまず出てくる国だ。僕らは明治乳業に刷り込まれてしまった。ブルガリアは東ヨーロッパに位置し、ギリシャやトルコが隣にある国だ。

キリル文字でコキーチェ。カタカナ表記がなくなってますます読めなくなり雰囲気が出る。

「ブルガリア語はまず文字がローマ字ではなくキリル文字を使うので、最初はとっつきにくいですね。一旦覚えてしまえば、意味は分からなくても読むことはできます(笑)。文法は覚えるまでは大変ですねえ」

「そうそうちょっと前ですが、トム・ハンクスが出た『ターミナル』という映画で、母国の政変でパスポートが無効になってアメリカの空港から出られなくなってしまった主人公が話していた言葉がブルガリア語でした。あれを見たときは、ブルガリア人の友人たちと大笑いしましたね」

な、なるほど。外国映画で突然出てくる、怪しい遠くの国として表現された「日本」のような。

「ヨーグルトが有名ですけど、ブルガリアに行くとものすごくたくさんの種類があり迷ってしまいます。ウォッカに似たラキヤという蒸留酒もいいですね」と店長さん。さすがに詳しい。

思わず買ってしまった水筒。ウォッカやラキヤを携帯して飲むことができる!

店長さんは早速ブルガリアを熱く語ってくれた。ブルガリアについて熱く語ってもらえる場所はそうそうないだろう。

店頭にならぶスラブ文字の書かれた商品、これらはブルガリアの商品だったのだ。いきなり店内で出会うブルガリアの商品の数々。と言われてもブルガリアの商品はわからないので新鮮だ。ぱっと見回して気になるものを詳しく聞いてみた。

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ソ連の水筒

巨大なオイルライターのようなこれは酒瓶なんだそうで。

――これは……

「ウォッカを携帯する水筒ですね」

――ウォッカ。強い酒ですよね。CCCPと書かれている。ソ連!(ソビエト連邦)

「ソ連です。そのブルガリア版もあります。お酒とか飲み物の携帯にいいんですよ」

――ウォッカに似たラキヤ用、というわけですか。のっけから濃い!

モスクワ五輪のバッチ

これまた読みなれていないキリル文字によるモスクワ五輪のバッジ。

――ブルガリアだけでなくロシアの商品もあるんですねえ。お、モスクワ五輪のバッチと書かれてますが……すごい!

「バッジも売ってますし、切手もたくさん集めてるんですよ」

キリル文字の看板

ブルガリアの日常にある看板まで売ってる。読めないが伝わる、まさにユニバーサルデザイン。

「これも売り物なんです」

――看板ですか!危険・近づくな感電するぞ、みたいな……

「そうですそうです」

――貴重なもの売ってますね!というより入手できるもんなんですね(笑)

コキーチェは雑貨屋ではあるが、輸入雑貨屋にありがちな「東欧ってかわいいよね」視点のザ・雑貨屋みたいな品揃えではなく、すごく庶民的なモノとかどこで入手したのかと思うようなものが売っていた。謎だ。

市場はこんな感じだろうか。(写真はロシアの市場)

「今はこんな状況ですけど、以前はブルガリアによく行っていました。蚤の市があって、そこで買うんです」という。それでこんな味のある商品が売られているのか。

「ロシアもドイツもむかしは東側の共産圏の国でしたよね。ブルガリアの市場では今でもロシア人が昔の東側の国のアンティークグッズを売ってるんですよ」

元共産圏南京錠

ここで南京錠を見せてくれた。
それにおもむろに店長は袋からボタンや鍵などを出して見せてくれた。

「お客さんに南京錠やボタンはありませんか?と聞かれたことがあって、ああ、そういうのがあるのかと思って次に蚤の市にいったときに買ってしまうんです」

――常連さんの注文で動くんですね。

「いや、そうではないんですけど、買ってしまいました(笑)」

己の趣味のために、新しいモノを教えてくれてありがとう、今度買って収集しますという、どこまでも追及していく店長さんなのだ。

キリル文字本

店にはブルガリアの本もある。海外旅行先で本屋に行くタイプの人には刺さる。

「蚤の市モノだけでなく、ブルガリアのお土産とか民族衣装も売ってるんですよ。あと本ですね」

――おお、本も売り物で。結構ありますね!

「キリル文字は日本人にはわからない文字ですから、まずは絵本から買ってみたんです。別の時に買い出しに行ったらデザインの本も手に取っていいなと思って買いました。ブックフェアみたいなところで気に入った本を買うんですよ」

――やはり地に足の着いた仕入れなんですね、すごい……。でも気に入った本がお店でお客さんに買われるの、惜しくないですか?

「それが、買われないので大丈夫なのです(笑)」

――そういうオチですか(笑)

キリル文字デザイン本。ニッチだが魅力的だ。

マトリョーシカにも変化球

「あとロシアのマトリョーシカとかもありますよ」

――おお、それはとっつきやすいですね。ほんとだマトリョーシカがある!

「モスクワオリンピックのマトリョーシカがあるんですよ。1980年開催ので、ねじをまわすと動くんですよ!くるっ、前進、くるっ、前進と進むんです。見せますね!」

やっぱりこの店ではただ者でないマトリョーシカも売られていた。店長さんはうれしそうにレトロソ連おもちゃが動くのを見せてくれた。

マトリョーシカにしてもそれぞれがなんだか年季があるのか味わいがある

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ソ連の技術による動くマトリョーシカ

運任せでブルガリア

ところでなんで店長さんはブルガリアを選んだのだろう。

「1994年くらいか、日本語教師ブームがおきたんですよ。今と違って日本では仕事がなかったので、中国で先生をやろうかなと思ってJICAに応募したら、ブルガリアになって。JICAってどこに行くかわからないんですよ(笑)」

「この年に、アメリカでサッカーのワールドカップがあったんですが、ブルガリアがベスト4になったんです。メキシコやドイツを破ってそのたびに学校中スゴイ騒ぎになってましたよ!」

ランダムな行き先がブルガリアに。そしてブルガリアにはまり、店を開くまでになってしまったわけだ。でもおかげで多くの人が見たことない商品ばかりの店ができたのだから人生面白い。

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