アパレル業界で広がる3D CG活用–現場でのツールの利用方法と課題

CNET Japan

 ファッションやファッション業界に関する学びの場を提供しているFashionStudiesのオンラインセミナー「SOuDAN オンライントーク」。10月に配信された第5回目は、「これからのデジタルファッション制作」と題し、アパレルデザインの現場で活用されている3D CGツールをテーマに開催した。


VR空間で実施されたFashionStudiesのオンラインセミナー「SOuDAN オンライントーク」第5回

 登壇者は、大伸社コミュニケーションデザインで3DCGディレクター/クリエイターを務める堀江雅也氏と、Apparel Play Office代表取締役の大橋めぐみ氏の2人。セミナーのテーマに合わせ、伊藤忠インタラクティブが提供するVR空間「VR VENUE」を用いたバーチャル風のオンラインセミナーとなった。

アパレルデザイナーが活用している3Dツールとは

 アパレルパタンナーとして、日常的に3Dモデリングを手がけている大橋氏がメインで使用しているのは、着装シミュレーションシステムの「CLO」。アパレルに特化した3Dソフトの代表的ツールの1つで、洋服などのモデリングに加え、アバターに洋服を着せて歩かせたときの生地の動きなどのアニメーション表現、生地にテクスチャーを貼り付けることによる柄合わせ、カラーバリエーションの生成などが行え、最終的にレンダリングして高精細画像で出力できるというものだ。


Apparel Play Office 代表取締役 大橋めぐみ氏

大橋氏がメインで使用しているという「CLO」の機能

 ただし、CLOはモデリングツールとしてとっつきやすいものの、あくまでも生地のシミュレーションが主体。洋服に付属するようなパーツまで網羅しているわけではない。たとえば生地以外のバックルなどパーツの種類が少ないため、大橋氏は「Autodesk Fusion 360」のような3D CADソフト、あるいは「Blender」や「ZBrush」といった汎用的な3D CGソフトを使ってパーツを作成し、CLOに読み込んで組み合わせることが多いという。

 また、生地の素材や柄についても、クライアント企業からデザイン依頼があったときに、CLOには含まれていない特定の種類のものを指定されるケースがあり、その場合も他のツールを使うことになる。たとえば「Adobe Photoshop」のテキスタイルシミュレーション用のプラグインである「Adobe Textile Designer」や、テキスタイルデザイン用のソフト「APEXFiz」などを活用するという。


洋服に付属するパーツ類は別途他の3D CG作成ツールで作り込み、CLOに読み込んで使用している

 社内の制作現場やクライアントとのコミュニケーションに使うサンプル3D CGのレベルでは、以上のようなツールで対応できる。ただし、最近では作成した3DデータをECサイトや商品のプロモーションで利用したい、という要望もクライアントから寄せられることが増えてきていると大橋氏。しかしその場合、制作段階で求められるレベルのものと、実際に商品を購入するユーザ-が目に触れるものに求められるクオリティは異なるため、3Dデータのさらなる品質向上を図らなければならない、という課題がある。

 たとえば、ECサイトで使われる写真のようにリアルな静止画を作成するには、高い質感を生み出すために「Blender」や「3ds MAX」、もしくは「Adobe Substance 3D Painter」を利用することになる。画像品質を向上させるために「V-ray」や「Arnold」といったレンダリングソフトを使用したうえで、光の表現などにおいてよりリアリティを出すために、最終的には「Photoshop」を使ってレタッチすることもある。

 加えて、CLOなどのモデリングツールで用意されている標準のアバターは、実際の人間ではなく、アバターであると見抜かれやすい。そのため、オリジナリティのあるヒューマンモデルを作るための「MetaHuman Creator」や「Daz Studio」のようなツールを使うこともあるのだとか。


ECサイトで商品画像として見せるようなクオリティにするには、他にも多くのツールを使う必要がある

 プロモーションなどにおいては、静止画に止まらず、動画で見せたいというニーズもある。そうしたケースでは、「CLO」だと実現困難な、多様で精度の高いアバターの動きを実現するため、先述の「Blender」や「3ds MAX」「MetaHuman Creator」はもちろんのこと、場合によってはモーションキャプチャーデータライブラリーである「Mixamo」を利用することもあると大橋氏。ただし、「Mixamo」はどちらかというとゲーム向けのため、「動きが戦闘っぽく、アパレル向けの動きは少ない」こともあるようだ。

 動画化する場合、映像としての見栄えや演出のクオリティを高める必要もある。そのために「Adobe Premiere Pro」や「Adobe After Effects」といった映像編集・VFX(特殊効果)ツールだけでなく、リアルタイムゲームエンジンの「Unreal Engine」も利用する場合もあるとのこと。

 近年は自社の洋服をゲーム内のアバターに着せる、といったようなプロモーション展開やデジタルコンテンツ販売の動きも活発で、「Unreal Engine」のほかに「Unity」のようなゲームとの相性が良いツールを組み合わせることも。


動画化するときやゲーム内のアイテムにするようなケースでは、さらに別のツールも活用する

 単純なデザインの枠を越えた高品質な3D CG制作については、大橋氏はアパレルデザイナー自身より豊富な専門知識をもつ外部の3D CGクリエイターに依頼した方がいい、という立場だ。したがって、アパレルデザイナーがこうした多くのツールの活用スキルを身に付けることは、必ずしも求められないだろう。

 ただ、クライアント企業から要望があったときに十分な知識がなければ、クリエイターへの依頼の仕方が的外れになってしまう可能性もある。大橋氏は、世の中にどんなソフトがあり、クライアントの要望に合わせてどのソフトを使うべきか判断できる程度には、アパレルデザイナーも知識を身に付けておくべきとの考えを示した。

リアリティの追求には生地のデータ化手法とライティングが最重要

 最近はプロモーションなどにおいて、実際の製品とほとんど変わらないようなリアルな映像で消費者に見せたい、というアパレル企業からのオーダーが増えている、と大橋氏に同意する堀江氏。

 そうしたリアルさを追求していくうえで、同氏がとりわけ重要と考えている要素の1つが「マテリアル」だ。生地の柄などの2次元的なテクスチャーを立体物に貼り付けたうえで、物体の凹凸や光の反射の仕方などを再現するマテリアル化を正しく行うことにより、初めてリアリティのある3D CGにすることができるからだ。


大伸社コミュニケーションデザイン 3DCGディレクター/クリエイター 堀江雅也氏

堀江氏が作成した3D CG

 こうしたことから、ベースとなる生地をどのようにデータ化するか、という最初の段階から注意が必要になる。以前は本物の生地をそのまま提供し、クリエイターが見た目や触り心地で判断して生地の特性をパラメーター化する、という方法がとられていたが、時間がかかるうえに期待する品質の映像にならない可能性がある。

 そこで、近年はPBR(物理ベースレンダリング)による質感データ「PBRマテリアル」を用いる手法がスタンダードになってきた。生地自体の光の反射などの特性を計測してデータに反映することで、現実の物理特性に則った自然な見た目にできるというものだ。

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