私ははっきり申し上げます。バイデン大統領が主導して国家石油備蓄を同盟国や共鳴した国と歩調を合わせ、一部市場に放出し、原油価格を下げようとする政策は英語で言うBack Fire(逆効果)で、痛い目に合うかもしれないと考えています。
原油価格が騰勢をつづけ、ニューヨークマーカンタイル市場では85㌦台をつける中、ついにアメリカは国家備蓄の原油一部放出を決めました。備蓄6億バレルのうち今回は5千万バレルですので8%程度となります。また、日本も同調し、やはり6億バレル強ある備蓄量のうち420万バレル程度を放出します。更にインド、英国、韓国、中国もこれにフォローする見込みで合計で8千万バレルから最大で1億バレルの市場への放出が見込まれます。また、この放出は数か月かけてゆっくり行う計画となっています。
なぜ、備蓄を放出するのか、これもバイデン大統領にとっては政権の支持率を維持するための苦肉の策とみてよいと思います。アメリカ国内で上昇するガソリン価格への不満からポピュリズムの一環としてのリップサービスです。日本はこのサービスが更に進んでいて、ガソリン小売価格が170円を超えると石油元売り会社に補助金を出し、ガソリン価格にキャップ(上限価格)を設けようという試みです。
私がなぜ、逆効果か、といえば理由はいくつも思いつきます。箇条書きにしましょう。
- 代替エネルギー創出に向けた生みの苦しみの10年の最中であり、世界はそのコストを払わねばならならない。
- 備蓄放出はそもそも天変地異や原油価格の非常識で急激な上昇に対するものであるが、専門家を含め、市場では想定内でバレル100㌦はとっくに視野に入っていること。
- OPECプラス1(ロシア)は国家財政の下となる原油収入の構造を変えるといいながらもほとんどそれが進んでおらず、引き続き原油を自己利益追求の道具とすること。
- 特に対ロシア政策を厳しくすればするほどプーチン大統領は頑なになるため、逆効果であること。
- 備蓄放出の量が市場のサプライズ感を生まなかったこと。これは総放出量が1億バレルを大きく上回る必要があった。
- 原油市場はそもそも市場参加者が少なく、プロ相場の中で決まっている。今回の最大1億バレル放出は既にバレル85㌦から75㌦程度まで10㌦下げた際に織り込んでおり、今回の発表で底打ち、反転の兆しが見えていること。(発表後、半日で既に2.5%以上上昇)
理由はもっとあがると思いますが、今回もバイデン大統領のよさげな言葉に乗せられたということかと思います。実は私はカナダの石油関連の株式には投資残が結構あります。なのでポジショントークのように思われるかもしれません。しかし、これでピークだと思えば売ればいいだけの話なのですが、私の中でまだ「コツン」と音がしないのです。
昨年の春、原油価格がマイナスをつけた頃、私はアメリカの石油備蓄の状況を何度かこのブログでお知らせしたと思います。当時、コメント欄には備蓄がキャパを超え、原油価格が上昇することはない、と強いトーンのコメントも多かったと思います。しかし、事実は真逆で1年半かけて7年ぶりの高値を付けたのです。これはコロナが間接的理由で、カーボンニュートラルが本当の理由です。
70年代の石油ショックの時、我々はどうしたか覚えていますか?節電し、こまめに電気を消す、自家用車に乗らず、公共交通機関に乗る、トイレットペーパーを使う長さを短くするなど自己防衛を行い、銀座など繁華街の夜は真っ暗になりました。原油価格に対峙するなら世界が協調してこの姿勢を見せる必要があるのです。ですが、中国を除き、どの国のトップも国民に制約を強いるようなことは言いません。ポピュリズムだからです。厳しいことを強いるより政府が支援するのです。母親が子供を甘やかすようなものです。
原油価格は先々、ある程度の均衡状態になるかもしれません。理由は今回の備蓄放出が国家単位の「在庫」に対して非常に少なく、あくまでも政治的インパクトに留まっているからです。仮に80㌦を再び大きく超えるような事態になれば第2弾、第3弾の備蓄放出プランが出てくるため市場はそれを読み込もうとします。しかし、世界ベースでは一日1億バレルの原油が必要です。備蓄を全部吐き出せないことを考えれば今後さらなる備蓄放出があったとしてもわずかな時間稼ぎにしかならない、というのが私の見方です。
むしろ各国とも今回の備蓄放出のあと、機を見て元に戻す、としています。つまり、また原油を買い戻すのです。これはチキンゲーム(臆病者を決める根競べゲーム)以外の何物でもないと私は考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月24日の記事より転載させていただきました。