コロナ不況にバラマキが良い理由 – WEDGE Infinity

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 公明党主導の18歳以下の人々に10万円を配るという政策の評判が悪い。必要な人に配るべきで、誰にでも配るのはバラマキで良くないというのである。しかし、私はなぜバラマキが悪いのか分からない。

 あえて言わせてもらうと、バラマキは皆に配るのだから公平である。しかし、今回は世帯主960万円の所得制限が設けられた。共働きで800万円ずつの所得で計1600万円の世帯には配るのに、共働きではない世帯主の所得が970万円の世帯には配られない。特定の人に配ったら不公平ではないか。

(Overearth/gettyimages)

 公明党が所得制限を付けるなというのも興味深い。公明党は弱者の味方と自認しているようだが、金持ちから税金を取って貧しい人に配ればよいという反ビジネスの思想を持っていないということだ。所得制限を付けたがる自民党の方が、反ビジネスの思想を持っているのかもしれない。

 必要のない金持ちに配るのは良くないというのだが、金持ちはすでに税金をたくさん払っているのだから、税金の還付、減税だと考えれば良い。また、児童手当が制限される960万円で給付を止めれば、その前後の所得でもらえる人ともらえない人が生まれる。これは不公平ではないのか。

 また、家計の所得ではなくて、世帯主の所得だから、共働きの家族は有利になるが、これは公平なのだろうか。女性の社会進出を促進するから良いことだというのかもしれないが。

 私は、景気対策は減税を用いるべきだと考えている。バラマキは減税に近いから良い政策だと思う。

コロナ不況にはバラマキが適している理由も

 今回のコロナ不況は、通常の不況と異なって、さらにバラマキが良い理由がある。これまでの不況対策は、無理やりにでも需要を付けて仕事を作るということだった。しかし、仕事をするとは、人々が集まって何かをするということである。

 コロナ対策の基本は、人と会えばうつるか、うつすかするのだから、出来る限りステイ・ホーム、お家に居なさい、ということだ。これは仕事を作ることとは矛盾する。しかし、お家に居なさいと言われたら、外食・旅行・運輸業界などの人は働けなくなってしまう。働いてはいけないのなら、所得を給付するしかないことになる。

 もちろん、コロナで所得を失った人に、失った所得に応じて所得の一部を補填するのが良いのかもしれない。しかし、2020年度に国民全員に1人10万円配ることになったのは、そういう人を選んでいたらいつ配布できるかが分からないからだった。

 あれから1年たったのだから、政府に、そういう人を選ぶ仕組みが出来ていてしかるべきだが、実はできていない。バラマキが悪いというのは、政府がバラマキよりも良いことが出来ることを前提にしている。その前提は正しいのだろうか。

政府は賢く使えているのか

 休業支援金は、コロナで所得を失った人に、ある程度、失った所得に応じて所得の一部を補填するという試みだが、うまくいってはいない。申請に必要な書類は、2年間の確定申告書、売上台帳、本人確認書類、通帳などであり、確定申告書を税務署と確認することもないので、不正受給が頻発するのは当然とも思われる。

 うちもっとも有名な事例が、経済産業省のキャリア官僚2人が、不正受給で逮捕された事件だ(「経産省キャリア2人、「家賃支援給付金」不正受給の疑いで逮捕」読売新聞2021年6月25日)。

 経産省も不正受給の多いことを認めて、「不正受給及び自主返還について」で不正受給の返還を求めている 。不正受給には割増返還金、氏名の公表、事案によっては刑事告発するが、「持続化給付金または家賃支援給付金の給付要件を満たさないにも関わらず、誤って申請を行い、受給してしまった場合などについて」、自主的な返還を呼びかけている。

 刑事告発の手間が間に合わないほどの「誤った申請」があるということだろう。21年11月11日時点で、持続化給付金の返還申出が2万212件あり、返還済み金額が約155億円、家賃支援給付金の返還申出が1032件あり、返還済み金額が約8億円あるとのことである。

 さらに、自主返納する前に不正認定されたものも持続化給付金、家賃支援給付金合わせて8億円ほどある(「不正受給及び自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金)」)。

 もちろん、不正は一部で、大局的には国民のためになっていると評価すべきかもしれない。であれば、18歳以下へのバラマキも、大局的には役に立つと言うべきではないか。

日本の病床はコロナ以前から無駄

 コロナ対策でも、日本は無駄な費用をかけているが(「病床逼迫対策や治療法の確立にいくらかけたのか コロナ対策の費用対効果分析④」)、そもそもコロナ以前から日本の医療費には無駄が多かったのではないか。

 人口1000人当たりの病床数は、フランス5.8、ドイツ7.9、イギリス2.4、アメリカ2.8であるのに対し、日本は12.8である(OECD.Stat)。日本人だけが病床の必要な病気に余計にかかる訳はないから、多くの病床は無駄ではないか。もちろん、財務省と厚生労働省は、世界的に見て異常に多い病床数を減らせと言ってきた。

 それができなかったことがコロナ禍においては幸いだったと私は思っていたが、実際には、多すぎる病床はコロナ禍では役に立たなかった。

 日本には158万9932の病床がある(厚労省「医療施設動態調査(令和2年5月末概数)」)。うち3万8795床をコロナ用の病床に確保したが、21年8月時点で、そこに入院しているコロナ感染者は2万4247人にすぎない(厚労省「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査結果(21年8月25日)」)。

 ところが、21年8月時点で、コロナ感染者のうち23万人程度が入院治療を要する患者であった(厚労省「新型コロナウイルス感染症について」オープンデータ)。

 つまり、政府は普段から過大な病床を維持していたのに、必要とする患者の10分の1の病床も用意できなかった。これは過去数十年間にわたって、政府が病床維持にお金を使い続けてきたが無駄だったということである。

「バラマキいけない」の大合唱は思考停止を呼ぶ

 バラマキはいけないという議論は、むしろ思考停止をもたらす。政府がバラマキよりも賢く使えているかをまずはチェックすべきだ。使えていないなら、減税で還付すべきだし、減税が金持ち優遇になるのなら、いっそのこと一律金額でのバラマキで還付したほうが良いのではないか。

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