不気味の谷を乗り越えても今度は「大量生産されたヒューマノイドの顔」が人間に不快感をもたらす可能性

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人間に高いレベルで外見を似せたロボットや人形に違和感や恐怖心を抱く「不気味の谷現象」は、ヒューマノイドの外観が人間と見分けが付かないほどになると乗り越えられることが報告されています。ところが、新たに日本の研究チームが発表した論文では、「不気味の谷を乗り越えても今度は『大量生産された同じ顔』が不快感を引き起こす」ことが示唆されています。

The clone devaluation effect: A new uncanny phenomenon concerning facial identity
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0254396

Unease beyond the uncanny valley: How people react to the same faces: Researchers examined people’s emotional response to cloned faces, which could soon become the norm in robotics — ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/08/210830104914.htm

ロボット工学の技術的進歩は、ヒューマノイドの顔を生身の人間と見分けが付かないレベルにすることを可能にしており、人間のようなヒューマノイドが「大量生産」される未来は現実的なものとなっています。そこで九州大学、立命館大学、関西大学の研究チームは、「同じ外観のヒューマノイドが大量に存在する場合、人間はどのように反応するのか?」という疑問について調べるため、いくつかの実験を行いました。

最初の実験では、Photoshopを使って「全く同じ顔をした人物が6人写っている画像(クローン画像)」「バラバラの顔をした人物が6人写っている画像(非クローン画像)」「1人だけが写っている画像(単一画像)」を作成し、被験者に見せて主観的な不気味さや魅力、現実味を7段階で評価してもらいました。なお、クローン画像だけでなく非クローン画像でも写真編集を行ったため、編集による画像の違和感に差はなかったとのこと。

また、そのほかにも「画像の人種を日本人で統一した実験」「6人ではなく2人・3人・4人・5人のクローン画像を用いた実験」「人間ではなくイヌの画像を使った実験」「双子の有名人や双子ではない有名人の画像を使った実験」「アニメや漫画のキャラクターを用いた実験」などを行い、同じ顔が大量に含まれる画像から受ける不快感について測定しました。


実験の結果、被験者は「同じ顔がたくさん含まれている画像をより不気味で魅力が低く、現実味が薄い」と捉える傾向があると判明しました。研究チームはこの傾向について、「clone devaluation effect(クローンの切り下げ効果)」と呼んでいます。

クローンの切り下げ効果は、人種を日本人で統一した場合でも見られたほか、画像内の人数が4人になると顕著に不気味さや非現実感が増したとのこと。また、「有名人の双子が写った画像」は「双子ではない有名人が2人写った画像」よりもクローンの切り下げ効果が弱まりましたが、被験者が双子の有名人を知らなかった場合はクローンの切り下げ効果が持続したそうです。これは、顔の特徴が重複していること自体が不気味に感じさせるのではなく、「アイデンティティが重複している」と思うことが不気味さを感じさせることを示唆しています。

なお、イヌの画像を使ったり漫画やアニメのキャラクターを使ったりした場合、クローンの切り下げ効果は弱まることも示されました。


今回の研究結果からは、人間はそれぞれの「顔」をアイデンティティと1対1で対応させており、顔の違いは個人を識別する重要な情報を提供することが示されています。つまり、「大量生産されたクローンの顔」はこの原則を破るものであり、将来的に同じ顔のヒューマノイドが大量に出回ると、人々はそれぞれのアイデンティティを識別できず、不快感を覚える可能性があると言えます。

立命館大学の専門研究員である郷原皓彦氏は、「私たちの研究は、テクノロジーの急速な発展によって不快な状況が起こりうることを明確に示しています。しかし、人々が新しいテクノロジーをスムーズに受け入れ、その恩恵を享受するために、今回の研究結果が重要な役割を果たすことができると信じています」と述べました。

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