ガリガリ君の赤城乳業、売上520億円「強小」優良企業の秘密…社員教育に重点投資


赤城乳業「ガリガリ君」(サイト「Amazon.co.jp」より)

 ロングセラー商品「ガリガリ君」で知られるアイスクリーム・氷菓メーカーの赤城乳業。森永製菓や明治、江崎グリコ、ロッテ、ブルボンなど他の大手菓子メーカーと比べると、それほど知名度が高い企業とはいえないが、コンビニエンスストアやスーパーでもよく目にする「ソフ」「ガツン、とみかん」「ミルクレア」「ブラック/チョコレートアイスバー」「チョコミント」など、実は数多くのロングセラー商品を持っている。また、セブン-イレブンなど大手小売りチェーンのプライベートブランド(PB)商品の製造も幅広く手掛けるなど、「地味ながら足腰の強い優良企業」としても知られている。そんな赤城乳業とは、いったいどのような企業なのか。その素顔とユニークな特徴に迫りたい。

 ウェザーニューズが6月20日に発表した「猛暑見解2023」によると、今年7〜9月の気温は全国的に平年より高く、暑い夏になりそうだ。暑さのピークは7月下旬から8月上旬。太平洋高気圧とチベット高気圧の張り出しが重なり、西日本や沖縄を中心に猛暑になりそうだと予想している。

 この気象現象で需要が増加する商品のひとつがアイスクリーム・氷菓だ。各メーカーとも新商品を投入している。例えば赤城乳業は4月から7月にかけて「大人なガリガリ君お米のソーダ」「フルーツ牛乳」「ガリガリ君リッチチョコチョコチョコチップ」「至福のカスタード」「ガリガリ君ソーダ サッカー日本代表ver.」「大人なガリガリ君ゴールデンパイン(6本入り)」――など9品を発売する(期間限定商品含む)。

 赤城乳業は「あそびましょ。」の企業メッセージを顧客に伝えるため、手軽に楽しんでもらえる新しいアイスクリームの提案をしていくというが、年間4億本を販売する「ガリガリ君」を筆頭に、異業種のブランドとのコラボ商品が目につく。「ガリガリ君ソーダ サッカー日本代表ver.」は、パッケージのガリガリ君がトレードマークである「半袖・半ズボン」から「アディダス サッカー日本代表ユニフォーム」姿に変身。なでしこジャパンの新ユニフォームを着たガリ子ちゃんも描かれた。「大人なガリガリ君ゴールデンパイン」の パッケージには、Nintendo Switch向けソフト「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」とタイアップして、新ポケモンたちとピカチュウが表面・裏面に印刷されている。

 一方で、赤城乳業は小売りチェーンのPB商品も製造している。たとえばセブン-イレブン「7 プレミアム」の「ジェラートパフェ ゴールデンパイン」「ジェラートパフェ 北海道メロン」「ワッフルコーン リッチミルク」「ワッフルコーン チョコ&バニラ」、および「7プレミアムゴールド」の「金のワッフルコーン マダガスカルバニラ」「金のアイス ワッフルコーン 手摘み宇治抹茶」は、どれも赤城乳業が製造を担当する製品だ。

アイスクリーム市場の拡大

 赤城乳業の売上高は2018年度まで右肩上がりで増加し、その後2年間はやや減少したが、21年度に増加に転じて、急伸した22年度には520億円を計上した。売上高の推移はアイスクリーム市場の拡大とほぼ軌を一にしている。日本アイスクリーム協会によると、22年度のアイスクリーム販売金額は5534億円(メーカー出荷ベース)で前年比5.2%増。03年度(3322億円)に底を打って以来、22年度まで20年間、拡大を続けてきた。協会は市場拡大をこう読み解いている。

「2000年以降会員各社が積極的な設備投資や製造設備の更新に努め、既存商品のブラッシュアップ及び付加価値ある新商品への挑戦や、SNSを活用した新たなマーケティング展開が功を奏し、単価の高い商品へシフトした結果であると推察します」

 この内容は赤城乳業にも当てはまるのではないだろうか。さらにアイスクリームという商品の特性が市場拡大を導いたという見解を示すのは経済産業省だ。

「和菓子や洋菓子は専門店で購入する頻度が高いことに比べ、アイスクリームはスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどで手軽に購入できることからおやつやデザートとして子供から高齢者まで幅広い世代での購入が進んでいるためと思われます」(「アイスクリーム等の動向について」)

「アイスクリームはデザートのなかでも比較的安価であり、ちょっとした贅沢や自分へのご褒美としての購入やコロナ禍の巣ごもり需要なども支出拡大に寄与していると考えられます」(同)

 加えて冒頭で紹介した平均気温の上昇という気象現象が、市場拡大に直結したことは疑いようもない。現に協会も、先に紹介したアイスクリーム販売金額増加の前振りに、気象現象を詳述している。気象現象と市場拡大の因果関係には触れてないが、それをほのめかす書き方だ。

社員教育にかける費用が一般的な企業の3倍

 もうひとつ、赤城乳業を見るうえで把握しておきたいのは、人的資本経営の取り組みである。人的資本経営とは、経産省の定義では「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」。3代目の井上創太社長は公式サイトで「規模は小さくても強い会社、いわば『強小カンパニー』を目指してきました」と振り返ったうえで、「強小カンパニーの基礎をなすのは、社員一人ひとりのモチベーションの高さです。社員教育にかける費用が一般的な企業のおよそ3倍というのも、赤城乳業では当然の事なのです」と自負している。

「ガリガリ君アカデミー」と称する社員教育は、義務教育・必須講座・選抜講座・自由講座・各本部教育を5つの柱にして、新入社員研修、フォローアップ研修、ミュージカル研修、海外研修、役員研修、通信教育、インストラクター制度、資格取得支援などを実施。さらに横断的活動による社員教育として委員会制度を設け、ホームページ委員会、PR委員会、5S委員会、教育委員会など13の委員会を運営している。重層的な教育体系だ。

 給与水準はどうだろうか。同社発表によれば、社員413名の平均年齢は37歳、平均年収は716万円。年代別の平均は20代505万円、30代719万円、40代856万円、50代908万円である(2023年1月時点)。国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」に発表された製造業の平均年収は516万円。大企業、中小企業、小規模企業の平均だから企業間格差は大きいが、平均を200万円上回る赤城乳業の年収はかなり高い。

 それどころか、アイスクリーム業界大手の大手と比べても遜色がない。公開情報によると、江崎グリコの平均年収は812万円(44.0歳)、森永製菓は769万円(43.2歳)、明治(明治ホールディングスの数値)は1013万円(44.9歳)である。

 赤城乳業が志向する「強小カンパニー」の根幹は人的資本経営ともいえるが、この経営が組織全体に「進化を持続する自律性」のような成分を浸透させている印象だ。

(文=Business Journal編集部)

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