パナソニックから、ビジネスモバイルノートPC「レッツノート」の最新モデル「レッツノートQR」が登場した。ディスプレイが360度開閉する2in1仕様を実現しており、従来の「レッツノートQV」の後継モデルとして位置付けられている。今回、個人向け差上位モデル「レッツノートQR CF-QR4BFPCR」を試用する機会を得たので、ハード面を中心に紹介する。すでに発売中で、実売価格は44万円前後。
外観はSRとほとんど同じ
「レッツノートQR」は、レッツノートシリーズの中で中核的なモデルである「レッツノートSR」をベースとしつつ、2in1仕様を実現したモデルだ。そのため、ボディデザインはレッツノートSRとほぼ同じだ。
天板にはレッツノートシリーズでおなじみの凹凸を施して強度を高めたボンネット構造を採用しており、ひと目でレッツノートと分かるデザインを継承。本体色も、シリーズおなじみのカームグレイとジェットブラックをラインナップする。
デザイン的な新しさは感じられないが、ビジネスシーンで広く利用されているレッツノートシリーズとほぼ変わらないデザインは、どういった場面でも安心して利用できるだろう。なお、従来同様にWeb直販モデルでは、フォリッジグリーン、ブリックレッド、ディープネイビー、ブライトローゼといった鮮やかなカラー天板を選択できるので、個性を主張したい場合にはそちらの利用がお勧めだ。
サイズは273.2×208.9×19.9mmと、SRと全く同じ。従来モデルのQVとの比較では、幅が0.2mm増、奥行きが0.3mm減、高さが1.2mm増となっているが、特別大きくサイズが変わったということはない。
堅牢性についても同等だ。マグネシウム合金にボンネット構造を施した天板をはじめとした独自の堅牢性設計によって、76cmからの落下試験や100kgf加圧振動試験をはじめとしたさまざまな堅牢性試験をクリアする、優れた堅牢性を備えている。レッツノートシリーズとして優れた堅牢性は外せない要素であり、QRも安心して持ち運んで利用できると考えていい。
レッツノートシリーズの特徴の1つでもある、着脱式バッテリを採用する点もしっかり受け継いでいる。製品には「バッテリーパック(標準)」が付属し、別売で軽量の「バッテリーパック(軽量)」を用意。バッテリを複数持ち歩くことで駆動時間を簡単に延長できるのはもちろん、長期間の利用でバッテリがへたってきても簡単に交換できる。多くのビジネスユーザーが支持する大きな理由の1つでもあり、QRでもしっかり実現している点はうれしい。
重量はモデルによって異なるものの、今回試用したCF-QR4BFPCRでは、付属のバッテリーパック(標準)装着時で約1,049g、別売のバッテリーパック(軽量)装着時で約969g。2in1仕様を実現しつつも、SRから約80gの重量増で抑えられており、携帯性はほぼ失われていないと考えていいだろう。なお、試用機の実測の重量は、バッテリーパック(標準)装着時で1,047g、バッテリーパック(軽量)装着時で967gだった。
実際にQVを手に持ってみると、まずまず軽いと感じるが、驚くほど軽いとは感じない。近年は、13型クラスで900gを切る軽さのモバイルノートPCも多く存在する。そういった軽量モバイルノートPCを持ち慣れていると、QRはサイズの小ささもあってやや重いかなと感じてしまう。優れた堅牢性をはじめとしたレッツノートシリーズのこだわりを詰め込むために重量が増えてしまう部分もあるため、それを考慮すると十分軽いのは間違いないが、数字だけ見ると、もう少し軽くしてほしいと感じる。
ちなみに、QVの最上位モデルはバッテリーパック(標準)装着時で979gと1kgを切っていた。QRはQVより大型のディスプレイを搭載するため重量増も仕方がないが、比べると気になってしまう。
第13世代Coreプロセッサ採用で性能アップ
CF-QR4BFPCRの主な仕様は、以下の表にまとめた通りだ。
【表】レッツノートQR CF-QR4BFPCRの主な仕様 | |
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プロセッサ | Core i7-1360P Pコア:4コア/8スレッド/ブースト時最大5GHz Eコア:8コア/ブースト時最大3.7GHz スレッド数:16 |
メモリ | 16GB LPDDR4x |
内蔵ストレージ | 512GB PCIe 4.0 SSD |
ディスプレイ | 12.4型液晶、1,920×1,280ドット、10点マルチタッチ、光沢 |
無線LAN | Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax) 2×2 |
Bluetooth | Bluetooth 5.1 |
ワイヤレスWAN | 5G Sub6対応、SIMロックフリー、nanoSIM/eSIM対応 対応バンド 5G:n77/78/79 4G:Band 1/3/8/18/19/28/39/41/42 |
キーボード | 日本語、約19×16mm、キーストローク約2mm |
カメラ | 約207万画素Webカメラ |
生体認証 | 顔認証IRカメラ、指紋認証センサー |
インターフェイス | Thunderbolt 4×2 USB 3.0×3 HDMI ミニD-Sub15ピン Gigabit Ethernet SDカードスロット 3.5mmオーディオジャック nanoSIMカードスロット |
OS | Windows 11 Pro 64bit |
駆動時間 | 約9.5時間(付属バッテリーパック(標準)装着時) |
サイズ/重量 | 273.2×208.9×19.9mm(幅×奥行き×高さ)/約1,047g |
プロセッサには、インテルの第13世代Coreプロセッサを採用。CF-QR4BFPCRでは最上位モデルということもありCore i7-1360Pを採用しているが、下位モデルではCore i5-1335Uを採用している。
その上で、SRと同等の大型のファンと放熱フィン、放熱フィン上部の隙間を広げて通気性を良くし、排熱効率を高めた冷却システムを採用。さらに、プロセッサ搭載の「インテル ダイナミック・チューニング・テクノロジー(DTT)」を活用し、パナソニックが独自にチューニングを行なうことでプロセッサの性能を最大限に引き出す「Maxperformer」も引き続き搭載している。
メモリは標準で16GBと申し分ない容量を搭載。メモリは増量できないものの、直販モデルでは最大32GBまで搭載可能。内蔵ストレージは、標準で容量512GBのPCIe 4.0 SSDを搭載。ビジネスモバイルPCとしてはこちらも必要十分な容量と言える。
無線機能は、Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)準拠の無線LANとBluetoot 5.1、5G対応のワイヤレスWANを標準搭載。ワイヤレスWANは5G Sub6対応のSIMロックフリー仕様で、nanoSIMまたはeSIMが利用可能だ。
生体認証機能は、Windows Hello対応の顔認証IRカメラと指紋認証センサーを同時搭載。通常は顔認証で、マスク装着時などは指紋認証と生体認証を使い分けられるのは、セキュリティ性と利便性を高いレベルで両立できるという意味でありがたい。
ディスプレイ上部の顔認証カメラは約207万画素Webカメラとしても利用でき、フルHD(1080p)動画の撮影に対応。法人向けモデルではキーボード上部にもカメラを搭載でき、タブレットモードでディスプレイを見ながら前方の撮影が可能となる。
搭載するポート類もSRシリーズと同じで非常に豊富だ。左側面に専用電源コネクタ、HDMI、Thunderbolt 4×2、USB 3.0、Gigabit Ethernetを、右側面にミニD-Sub15ピン、USB 3.0×2、SDカードスロットを、前面に3.5mmオーディオジャックをそれぞれ配置。ワイヤレスWAN用のnanoSIMスロットは、底面バッテリスロット内に配置している。
付属のACアダプタはSRなどに付属するものと同じ、バレルコネクタを採用するものとなる。サイズは特別大きなものではなく、重量は付属電源ケーブル込みで260g。また、SRなどと同じようにThunderbolt 4はUSB PD対応で、汎用のUSB PD対応ACアダプタを利用した給電やバッテリの充電が行なえるため、電源は用途に応じて使い分ければいいだろう。
ところで、近年はPCにもサステナブルな仕様が求められることが多くなっている。QRでは取扱説明書を簡易化することで、レッツノートシリーズの2023年春モデルと比べて説明書の紙の使用量を約90%削減しているとのことで、そういった要求にもしっかりと対応できている。
アスペクト比3:2の12.4型タッチディスプレイを搭載
ディスプレイは、アスペクト比3:2、1,920×1,280ドット表示対応の12.4型タッチ液晶を採用。表示解像度とサイズはSRと同じで、そこに10点マルチタッチ対応の静電容量方式タッチパネルを搭載したものとなっている。
ディスプレイまわりのベゼル幅などもSRと同じだ。左右がかなり狭められており、上部および下部も、顔認証カメラの搭載や360度開閉するヒンジの採用といった点を合わせてもまずまず狭められている。4辺狭額縁というわけではないものの、この程度ならベゼル幅が広いとはそれほど感じないだろう。
その上で、2軸のヒンジを採用してディスプレイの360度開閉を実現。通常のクラムシェルスタイルや、フルに開いてタブレットスタイルでの利用に対応。もちろん、SR同様にディスプレイ面をほぼ水平に開いて利用することも可能。加えて、特に謳われてはいないものの、スタンドスタイルやテントスタイルでの利用も不可能ではない。
また、タッチパネルを搭載していることもあり表面は光沢仕様となっている。標準で反射防止処理が施されたアンチリフレクション保護フィルムが貼られているものの、非光沢処理が施されたSRのディスプレイと比べると、さすがに外光の映り込みはしっかりと感じられる。利用時に天井の照明が写り込む場合もあるので、この点は少々気になる。
利用するパネルの種類は非公開。それでも、視点を大きく移動させたり、タブレットモードでさまざま方向から見ても、色合いや明るさの変化はほとんど感じられない。IPS相当の十分な視野角を確保していため、利用時に視野角の狭さを感じる場面はないはずだ。
発色についても、シリーズ同等といった印象。クリエイター向けノートPCのディスプレイのような鮮烈な発色の鮮やかさは感じられないものの、ビジネスモバイルPCといて十分な発色性能を備えていると感じられる。写真や動画なども十分鮮やかに表示できるため、スライド作成時に写真や動画を扱うといった場合でも不満なく作業が行なえそうだ。
タッチ操作は10点マルチタッチ対応で、非常に軽快だ。タッチによる直感的な操作が可能な点は、さまざまな業種や職種に対応できるという意味で、ビジネスPCとして大きな魅力となるだろう。
ただ、QVで対応していたアクティブペンには非対応となっている。同時に、表示解像度もQVでは2,880×1,920ドットだったため、ペン対応と表示解像度で後退していることになる。このあたりは、近年の部材の価格高騰の影響や、これまでQVを利用してきた顧客からのフィードバックを反映したものかもしれないが、やはり残念な部分と感じる。
シリーズおなじみのキーボードを搭載
キーボードは、SRと同じ仕様のものを採用している。
主要キーのキーピッチは、横が約19mm、縦が約16mmの長方形で、キートップの角を丸く切り取ったリーフトップ形状を採用。ストロークも約2mmと、モバイルノートPC搭載のキーボードとしては十分な深さがある。
キー配列も変わりなく、[半角/全角]キーが[Esc]キーの右側に配置されている部分も同じ。こちらは可能なら改善してほしい部分ではあるが、シリーズ一貫していることを考えると、慣れている人には違和感なく受け入れられるだろう。
キータッチは、しっかりとしたクリック感は感じられるが、どちらかというとやや柔らかめで、これもシリーズ伝統の打鍵感だ。その上で打鍵時の静音性は比較的高められており、よほど強く打鍵しない限りは、打鍵音が気になることはなさそうだ。
このほか、キーボードバックライトも引き続き非搭載。ビジネスユーザーからの要望はそれほど多くないのかもしれないが、暗い場所での利用も想定してできれば搭載してもらいたいと感じる。
ポインティングデバイスも、シリーズでおなじみの円形のホイールパッドを搭載。こちらも仕様はSRと同じで、大型の円形タッチパッドにクリックボタンを組み合わせたものとなっている。円形のタッチパッドは、見た目には使いにくそうに感じるかもしれないが、実際に使ってみても、通常の長方形タッチパッドと比べてもほとんど違和感がない。クリックボタンが用意され確実なクリック操作が可能な点もうれしい。
AIセンサーが強化され、よそ見時の省電力機能を追加
近年のレッツノートシリーズには、働き方の変化に対応できるよう、快適なWeb会議を実現できる「COMFORTALK」や、AIによる各種機能を提供する「AIセンサー」が搭載されている。もちろんQRにもそれらは搭載されるが、さらに機能が強化されている。その1つが、AIセンサーの強化だ。
これまでのAIセンサーでは、ディスプレイ上部のカメラを活用し、利用者の離席を検知したらPCをロックしたり、着席時の自動復帰、背後からなどの覗き見を検知したらアラートを表示するといった機能を提供していた。そしてQRから搭載されるAIセンサーでは、それらに加えて新たによそ見時の省電力機能が追加された。
よそ見時の省電力機能は、利用者が画面を見ていない状態を検知すると画面の輝度を落として消費電力を抑えるというもの。近年の物価高騰は多岐に渡っており、電気代の高騰も企業にとって頭の痛い問題となっている。そういった状況に対応して、少しでも消費電力を削減できる機能だ。1台あたりでは劇的な消費電力の低減とはならないかもしれないが、多くの従業員がPCを利用している場合には、トータルでかなりの効果が期待できる。そういった意味で、今まさに求められている機能と言っていいだろう。
このほかには、Web会議時などに有効活用できる、顔位置のトリミングや明るさ補正、背景ぼかし機能、マイクで拾った音声からのAIノイズキャンセリング機能などを搭載。コロナ禍も一段落し、ビジネスシーンでも以前の日常が戻りつつあるが、働き方の変化は大きく、こういったAI関連機能は今後もさまざまなシーンで活躍しそうだ。
幅広いビジネス用途に対応できる申し分ない性能を確認
では、簡単にベンチマークテストの結果を紹介する。今回利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark 10 v2.1.2600」と「3DMark v2.26.8098」、Maxonの「Cinebench R23.200」の2種類。比較用として、Core i5-1235Uを採用するレッツノートSR CF-SR3GDTCRの結果も加えてある。なお、CF-SR3GDTCRの結果はPCMark 10とCinebench R23のみとなる。
結果を見ると、そもそものプロセッサの性能差が大きいこともあり、全ての項目でスコアが大きく上回っている。おそらく、第12世代Core i7 Pプロセッサを搭載するSRと比べてもスコアは向上しているはずで、第13世代Coreプロセッサの採用によって順当に性能が向上していると言っていいだろう。これなら、QRがターゲットとするビジネスモバイル用途にとって申し分ない性能を発揮し、快適に作業をこなせるのは間違いないだろう。
また、ベンチマークテスト中の空冷ファンの動作音は、かなり静かな印象だった。ファンの動作音や風切り音は耳に届くが、一般的なオフィスではほぼ気にならない程度。図書館などのよほど静かな場所では気になるかもしれないが、低負荷時にはファンの動作音はほとんど聞こえなくなるため、高負荷な作業を長時間行なわない限りファンの動作音を気にする必要はなさそうだ。
続いてバッテリ駆動時間だ。CF-QR4BFPCRの公称の駆動時間は、バッテリーパック(標準)装着時で約16時間、バッテリーパック(軽量)装着時で約9.5時間(いずれもJEITAバッテリ動作時間測定法 Ver.2.0での数字)となっている。
それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、バックライト輝度を50%、無線LANをオン、ワイヤレスWANをオフ、AIセンサー機能もオフに設定し、PCMark 10のBatteryテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用して計測してみたところ、バッテリーパック(標準)装着時で9時間22分、バッテリーパック(軽量)装着時で5時間39分だった。
公称の数字と比べて3分の2ほどの時間ではあるが、測定方法の違いを考えると、まずまず納得の駆動時間と言える。これだけの駆動時間なら、よほど高負荷な作業を長時間行なわない限り、1日の外出仕事も問題なくこなせるだろう。また、バッテリは交換できるため、駆動時間の延長も簡単に行なえるため、その点でも安心だ。
ビジネスモバイルPCの新定番として魅力的な存在
レッツノートQRは、法人レッツノートユーザーの声を受け、一般事務職だけでなく、医療営業などの外回りの営業職や保険外交員、商品管理部門など、さまざまな職種の業務に1台で柔軟に対応できるよう、シリーズ中核モデルのレッツノートSRをベースとしつつ2in1仕様を実現したモデルだ。
実際に試用してみて、SRの携帯性や利便性を大きく損なうことなく2in1仕様が実現されていることを十分に実感できた。また、2in1対応だけでなく、カメラやマイクとAIを活用したセキュリティ機能やハイブリッドワークに便利な機能なども進化しており、法人ユーザーの期待に応えられていることも伝わってくる。
個人的には、従来の2in1モデルのQVから重量やディスプレイまわりなど一部仕様で後退している部分が見られるのは少々残念に感じたのも事実。ただ、部材高騰や円安といった状況の中、複数のモデルでなるべく多くの部材を共通化してコストを抑えることもメーカーにとって正しい選択であり、悩ましいところだ。
それでも、しっかりとユーザーのフィードバックをもとに、期待を裏切らない仕様を実現できているところは、法人ユーザーから圧倒的な支持を集めているレッツノートらしい部分だ。個人ユーザーが購入するには価格的に厳しい部分もあるが、従業員のさまざまな働き方に柔軟に対応でき、仕事の効率化を高められるモバイルPCを導入したい企業にとって、魅力的な製品と言える。
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