【住んでみた!】中銀カプセルタワービル 7ヶ月間サバイバル滞在記 / 最後の住人の記録

ロケットニュース24

中銀カプセルタワービル。かつて銀座8丁目の首都高沿いにあり、その独特な外観で多くの人を虜にしていた、建築の大家・黒川紀章によるメタボリズム思想の建築。惜しまれながら今年の10月に解体された。

筆者はひょんなご縁で、昨年2021年4月〜10月の7ヶ月間ここに住んでいたのだが、時を経た今だからこそ話せる、中銀カプセルタワービルでの生活についてお伝えしたい。謎に包まれていた共同シャワールームも初公開!


・中銀カプセルタワービル

まず中銀カプセルタワービルの基本情報についてお伝えしよう。1972年竣工、今年で50周年。13階建てのA棟と11階建てのB棟のツインタワーで、それぞれエレベーターがあるコア部分を、螺旋状に総数140個のカプセルが配置されている。ぱっと見、カプセルが重なっているようだが、ひとつひとつ独立している。

カプセル自体は約10平方メートル。ユニットバスがあり、その分を抜かすとスペースは約4畳半。昭和を感じる広さ。

私が借りるカプセルには、ワンドアのミニ冷蔵庫とエアコン、寝具一式、椅子が備えられていた。また壁一面に、竣工当時のオリジナルの収納付き。

ここまでならコンパクトなワンルームとなんら変わりはない。が! 入居時に書いた記事でもお伝えしたのだが、3大ないない問題がある。お湯が出ない。キッチンがない。洗濯機がない。ライフラインにいささか問題があるのだ。

・B703

私が借りたのはB棟の7階にあるB703。エレベーターの目の前でとっても便利。丸窓からは高速が眺められる、いわゆる高速ビュー

かなり状態のいいカプセルで、壁紙のヨレなどもほぼなく、雨漏りもせず、ネズミに悩まされることもなかった。カプセルあるあるの小さい虫との共存はあったが。

問題点があるとすれば、高速の向こうにある歩道橋が、中銀カプセルタワービルの絶好の撮影スポットなこと。休日は人が多く、望遠カメラではカプセル内もうっすら見えてしまう。

私はズボラなので普段から下着姿でいることもあり、カーテンを閉めずに着替えてしまう。それを案じたカプセル仲間が、歩道橋に人が多い時はLINEなどで教えてくれるようになった。なんて心強いご近所さん!


・カプセルでの日常

日々の出勤は、東銀座駅や新橋駅を使用。徒歩圏内にいくつも駅があり、アクセスはすこぶる良い。自宅で仕事の時は、椅子にダンボールをのせてパソコンデスクにした。備えつけの机だと微妙な高さだからである。

私のカプセルは西向きだったが日当たりが良かった。ただ真冬は冷凍庫なみに寒いということで、入居時期に感謝。また湿気がすごいので除湿機と布団乾燥機は必需品。

夜になると壁にプロジェクターを映して、1人カプセルシアターを楽しむ。寝る時はプラネタリウムをつけ青い世界の中、眠りについた。外から見ると青い光の丸窓が見えたと思う。


・カプ臭事情

中銀カプセルタワービルはほんのりカビの匂いがする。私たち住人は “カプセル臭”、通称 “カプ臭” と呼んでいたのだが、持ち物などに染み付くのでファブリーズは必須だった。

カプ臭をごまかすために、私はコーヒーミルを購入し、コーヒー豆を挽くところからはじめ、コーヒーのいい香りでカプセルを充満させた。おかげでモーニングタイムやコーヒータイムが充実したのは言うまでもない。


・ごはん事情

中銀カプセルタワービルにはキッチンがない。しかも火気厳禁。ゆえに基本は外食かテイクアウト。さすがに毎日それでは辛いが、電気鍋やホットプレートで料理をしてくれるカプセル仲間からときどきおすそわけをいただいていたので、だいぶ胃袋は満たされた。

また電子レンジがあるカプセルの住人にお願いして、ときどきレトルトなど温めさせてもらった。近くにコンビニや、肉のハナマサなどもあったので食事に困ることはなかったし、銀座や新橋、築地のグルメを楽しむ絶好の機会だった。ただ自炊ができないので、お金は減っていったが……。


・水まわり事情

中銀カプセルタワービルの水道の水は、ほんのり黄色がかっている。おそらくサビによるもの。だから飲むことはできない。人によってはミネラルウォーターで歯磨きもしていたが、私は気にせず歯磨きも洗顔もしていた。

それよりも大問題は、はじめは使えていた私のカプセルの水道とトイレが、途中トラブルがあり使えなくなってしまった。その際、退去もほんのり頭をかすめたのだが、2個上のカプセルの水まわりを使わせてもらえることになり、九死に一生を得る。

丸窓に黒川紀章の顔写真が貼ってある、通称「紀章カプセル」。最初は夜中にトイレに行くと、窓に浮かび上がる紀章が怖かったのだが、すぐに慣れ、逆に見守ってくれる守護神のような、親戚のおじさんのような親しみができた。

歯を磨いたり、顔を洗ったり、トイレへと階段で行き来する日々。紀章カプセルはカプ臭がすごく、とても住めるかんじではなかったが、時々こっそりと物を置かせてもらっていた。

しかし大雨になると、ユニットバス内トイレ真上の換気扇から雨漏りするので、傘をさしながら用を足した。

ちなみにB棟の1階エレベーター横には共同トイレがあるので、来客時にはよく使用した。一度お腹を壊した時は、目の前の地下駐車場のトイレにもお世話になった。とてもキレイだったので、洗顔や歯磨きもここで済ませようかと思ったが、さすがにはばかられ遠慮した。


・お風呂事情

カプセルにはユニットバスがついている。が、10年ほど前に給湯管が壊れ、修理することができず、建物全体でお湯が使えなくなった。そこで皆、銭湯に通う。私も銀座8丁目の金春湯に通っていた。

番台のマダムと仲良くなり、「髪の短いお姉さん、さっき帰ったわよ〜」「赤毛のアンちゃん、今、入ってるわよ〜」などカプセル仲間の入浴スケジュールを教えてくれる日々。

タイミングが合い、一緒の湯船につかることもしばしば。まるで長屋暮らしのようでほっこり。しかし銭湯には問題が2つ。時間が限られていることと、定休日があること。

だが安心して欲しい。実は中銀カプセルタワービルには共同シャワールームがあるのだ! これはまだ住人がいた時には非公表だった。何故なら場所が場所だから。

それは1階ピロティ部分。裏口であり、ゴミ捨て場でもあり、駐車場でもあるところにポツンとシャワールームが置かれている。ぱっと見、シャワールームだと気づかないのだが、セキュリティ的にあまりよろしくない。

そう、まるで海の家。これを見た友人たちはみな閉口する。私も最初は抵抗があったが、使っていくうちに慣れていき、銭湯まで行くのが面倒な時や、夜遅い時は大体ここで済ませた。

シャワーを浴びてる間、通行人の会話や車のライトにドキドキすることがあったり、すっぴんでタオルを頭に巻いている姿で自分のカプセルまで移動しなきゃいけないのは、若干勇気がいった。

時間がかぶらないよう受付にシャワー予約表があり、住人の生活リズムなども把握できた。


・洗濯事情

さて、シャワールームはあれど洗濯機はない。なので皆、徒歩15分ほどのコインランドリーに通っていた。しかし私はすべて手洗い。これには訳がある。ドイツ留学時に1年間すべて手洗いで済ませていた実績があるのだ。

ドイツは乾燥していたため、手でしぼったものを室内に干しても、翌日にはカラカラに乾いていた。だが、湿気の多い中銀カプセルタワービルではそうはいかない。

けれど私には強い味方がいた。除湿機水風呂大作戦で購入した除湿機である。ユニットバスに洗濯物を干して、衣類乾燥モードにした除湿機を置いておけば、ほぼ半日で乾いた。さながら浴室乾燥機である。さすがにシーツなどの大物は、本宅に持ち帰って洗濯していたのだが。

ただ手洗いには、ひとつ問題点がある。それは中銀カプセルタワービルのほんのり黄色い水。そのため最終的に黄色く染まってしまったタオルもあった。これを “カプセル染め” と呼んでいる。


・令和の長屋暮らし

私と同じように期間限定で住んでいた女性たちは基本カプセルで生活していたので、困ったことや足りないものがあったら助け合っていた。爪切りを借りたり、ゴキブリを退治しに行ったり。ごはんやスイーツのおすそわけも日常茶飯事。令和の長屋暮らしである。

またカプセルオーナーの前田さん先輩住人のコスプレDJの声さん記者の奥山さんたちも含め、しょっちゅう “カプ飲み” と言って誰かのカプセルに集まったり、季節ごとの行事としてブルーインパルスを見たり、お月見やカプセルフェスなどを催して楽しんだ。

何が最高かって、カプ飲み後は30秒で自分のカプセルに戻れること。心置きなく飲むことができ、つい飲みすぎてしまうこともしばしば。ちなみにカプセルに帰ることを、帰宅ならぬ “帰カプ” と言っていた。


・中銀カプセルタワービルよ永遠に

まだまだエピソードは尽きないが、とりあえず7ヶ月住んでみて、まず思ったのは “住めば都” 。なかなかのサバイバルな生活だったが、慣れれば大したことない。なにより憧れの建物なら、多少の不便さは許してしまう。

よかったことは、入居条件のハードルが下がったこと。水回りがあって透明な水とお湯が出て、窓が開けられたら十分。そう、あのトレードマークの丸窓は開けられないのだ。そして冷蔵庫の他に、洗濯機と電子レンジも置ければ天国だ。文明の利器は、先人の大いなる遺産である。

他にも除湿機水風呂や、目の前の地下駐車場にある中華料理屋「帝里加(デリカ)」手動のポータブル洗濯機伝説のピンクカプセル復活など、中銀カプセルタワービルにまつわるエピソードを記事にしているので、気になる方は読んでほしい。

中銀カプセルタワービル自体は解体されてしまったが、ここで育まれたコミュニティは続いていく。現在、再生され、美術館での展示や泊まれるカプセルとしての準備が進んでいる23のカプセルとともに、最後の住人としてカプセル生活についてこれからも語っていきたい。中銀カプセルタワービルよ、永遠に。

参考リンク:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト 
執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

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