六本木ヒルズにある高級スーパーだと思っていたがマルエツ、お前だったのか…
近年、メディアでは港区という言葉が高級を意味するキーワードになってきた。実際タクシーの運転手さんに話を聞くと港区のお客さんは違うという。
高級スーパーが林立する港区ではよく知る中価格帯のチェーン店もちょっとだけ背伸びをしはじめる。同級生が出世してえらくなったところを冷やかしに行きたい。
港区という言葉にひそむやっかみ
「パパ活」という言葉とセットで盛り上がった「港区女子」という言葉。検索をすると夜に港区に飲みに来る女子という意味で使われている。その書き方には(港区外に住んでるのに)という意味も感じられやしないか。
そんな「見せかけの」「いつわりの」「背伸びした」という意味も含めての「港区」である。
港区のスーパーをめぐれば私達のよく知るスーパーがそんな背伸びをしている様子を見られる。言ってみれば同級生がテレビに出ているような状態である。照れるような誇らしいようなそんな気持ちになりたい。私は疲れているのかもしれない。
デイリーポータルZではライターたちが誰も思いつかないような企画をやってる中、思いつかなかった私は愚直に12ヶ所訪れて一定の収穫は得た。疲れたが楽しい行楽だった。
まず訪れた中で最も高級だったものからいこう。表参道(↑の地図でいう青山近く)駅前にある紀伊国屋インターナショナルである。
高級スーパーがさらに背伸びする
紀伊国屋インターナショナル
紀伊国屋は都内に5店舗ある高級スーパーだ。表参道にある店舗は店名が他の「等々力店」のような地名ではなく「インターナショナル」である。
この店舗は日本初のスーパーマーケットだそうで創業店であり特別感の由来はそこからだろう。しかし今日だけは「高級スーパーさえも港区で背伸びしてしまっている」と言わせてください。
入り口の花のラインナップがすでにまいばすけっとのそれと違う。これをどんな仏壇に飾れというんだ。降りてすぐの入り口にある商品もチーズや生ハムらで固めたワインとそれに合うものフェアだ。
「いらっしゃいませ」を連呼する呼び込みくんもいなければ、X JAPANの紅をシンセで弾いたBGMがかかったりもしていない。
しまった。これは同級生の背伸びどころではない。ただ同じ日本という場所での平行世界を覗いておもしろがっているだけだ。
高級スーパーを楽しんでしまう
だってしょうがない。それが高級スーパーというものだ。うどんや焼きそばなど身近な食材がいちいち聞いたことないメーカーなのだから。
たとえばティッシュだと私の想像力の限界は「鼻セレブ」である。「だってセレブって書いてあるから」という理由でだ。だが紀伊国屋インターナショナルはちがう。「クリネックス 至高」である。もうその場で膝をついて手を合わせるしかない。
一方トイレットペーパーはというと「クリネックス 極上のおもてなし」である。だんだんクリネックスのネーミングストレート勝負指示に首を振りたくなるが、隣には「四国特紙 白檀の香り」。やはりトイレットペーパーにもまた手を合わせるのだった。
一番高い魚売り場の商品は生の越前ガニ一杯15000円超、1人前パック寿司の最も高いものは3800円。豚肉は一番高そうなものでグラム600円付近だ。
高級スーパーでの港区仕様とは?
だけどこれらの特徴は他の紀伊国屋でもそうだ。ここがインターナショナルなのは全体の規模や輸入食品の多さだろうか。
他にも店頭販売があったり、押し寿司屋やコーヒー豆屋が常設してある。中には「この中で野菜を育てています」という野菜育成スペースがあった。
中でも客層がひときわ変わっていた。主観でたまたま見た経験でしかないが、かっこいいおばさまたちが子鹿のように躍動していた。
サービスカウンターには「コンシェルジュ」と書いてある。うちの近くのサミットで「コンシェルジュ」と書いてたら「よっ! コンシェルジュ!」と冷やかしの声が飛んでいただろう。
東急ストアの大吟醸
プレッセプレミアム東京ミッドタウン店(六本木)
同じく高級スーパーといってもまだ手の届きそうな店舗がこちら。プレッセというのは東急ストアの高級スーパーだが、東京ミッドタウンの地下の店舗はさらに「プレミアム」と修飾がつく大吟醸とも言える店舗だ。
この先に待っているのは「ウルトラハイパー一億千万地球が何回回った…」と小学生が言うような修飾インフレーションである。
高級だがここは東急ストアだ
入ってすぐには高野と書かれたお菓子が売られている。フルーツパーラーの高野だろうか。入り口から高級である。つづいて高級フルーツ。なるほど高級そうだ。
だけどなにかがちがう。照明のせいか? 陳列位置のせいか? 一つ一つは高級なのだが全体の雰囲気はぐっと普通のスーパーなのである。Googleの口コミを見ても生鮮食品は高めだが良い品がある、それ以外の品はそこまで高くもないと。
やはりこんな場所にあってもここはおれたちの東急ストアなのか。
数千円もするシャインマスカットが置かれていたりするが、こちらのズワイガニは越前と指定されてはないし、茹でられている。お値段も5分の1程度。パック寿司も1480円が最高だった。
だけど高級スーパー的なふるまいもある。クッキーなどの焼き菓子が独自のセレクトで大充実。輸入チーズコーナーも6mの棚が4段構成。ワインコーナーも専門店のよう。
一方、お弁当は398円のあんかけ焼きそばなどがあって割と普通の印象である。Googleの口コミでもミッドタウンで一番安く昼を済ますならここだと書いてあった。
サービスカウンターにはやっぱり「サービスカウンター」と書かれている。コンシェルジュではない。お客さんもミッドタウン内ではあるものの紀伊国屋ほどめかしこんだ印象はない。
東急ストアもミッドタウンに来てがんばってるんだなと陰ながら応援したくなる気持ちになる。この暖かさが港区仕様の普通のスーパーめぐりのよさか。6時間後のカイロ程度のぬくもりである。
背伸びでもなんでもないただの高級スーパー
明治屋広尾ストア
「SINCE1885」「明治屋ANNEX」と書いてたので特別さを感じて入ってしまった広尾駅前の明治屋ストア。紀伊国屋と同じそもそもの高級スーパーである。
ハナマサでいうところのようやく黄色くなってきたバナナ、まいばすけっとの花、そんな入り口に一番近いところにある商品がここはマスクメロンであった。
「ここって明治屋でも特別なところですか?」と聞いてみたところ、一番売り場が充実してると思うが特別ではないと。別館は食料品以外のものであるらしい。
やっぱり高級スーパーを楽しんでしまう
充実の売り場。高級スーパーでも店頭販売に3店から来ている店はなかなかないのでは。京都のお好み焼き「ふわふわ」というものは知らない…楽しい。いや、この楽しさは高級スーパーならではのそれだ。明治屋なんて普段行かないじゃないか。
輸入チーズのコーナーは棚自体が折れ曲がって折れ曲がって12mくらいある棚に3段に分かれて置かれている。ああ、すごい。人はなぜ所得が上がるとチーズとワインを口にし始めるのですか…。
これが駅前の一番いい場所にある。私達こそが高級。そんな街ぐるみでの高級への取り組みの気概を感じる広尾の明治屋であった。同級生感はまったくなし。
マルエツよ、お前だったのか…
リンコス六本木ヒルズ店
六本木ヒルズあたりで大きなスーパーを見かけ、近づくと小さく「presented by Maruetsu」と書いてある。マルエツ、お前だったのかという『ごんぎつね』的な気持ちにさせてくれる店舗、それがリンコス六本木ヒルズである。
港区仕様のスーパーのあとに港区仕様のスーパーができた
リンコスというのはマルエツの中でも高級路線らしく同じ港区の高輪など都内に数店舗あるようだ。
実は西友も港区仕様の高級スーパーをかつて出していたみたいで、それがここのリンコスの前にあった店フードマガジン六本木店だそう。西友からマルエツへ。六本木ヒルズの住民だって本当は普通のスーパーを求めているんじゃないか。
そこに宿るのが「港区」の背伸び感であり、言ってみれば「無理」である。でもそれは人間が動物でなく人間であるために必要なおかざりの延長なのだろう。
同級生との再会を楽しむ
リンコスはちょっと優雅なイートインスペースを設けたりしていても庶民派の気持ちは忘れていない。入って正面にスパークリングワインの特設コーナーを設けつつも最も入り口から近いところにある商品は焼き芋である。お前だったのか…感バルブが入り口からすでに全開である。
とはいえ高級スーパーらしさもある。クリスピー・クリーム・ドーナツの特設コーナーがあるのは六本木ヒルズにあるスーパーらしさだろう。
一番高いパック寿司は1980円。高級だ。とはいえその近くには390円程度の麺類があるので「お前なんだよな」とまたニコニコしてしまう。
プレッセでもそうだったが、この高級スーパー然として弁当がお手頃という状態は港区仕様のスーパーめぐりならではの楽しみかもしれない。
かといってワインも輸入チーズも一般のスーパーにはない品揃えである。「立派になったな、マルエツ」である。豚肉も東京Xというブランド豚を取り扱っている。だけど値段は300円前後とお値打ち感があり、ここでも「やっぱりお前だったのかマルエツ」感がある。
コーヒーの豆をひく自販機があってすごいなマルエツ、いや、それ100円なのかありがたいなマルエツ。
この何をするにおいても「えらくなったなマルエツ/やっぱりマルエツらしいな」の針がぐんぐん振れていく感じ、これが港区仕様のスーパーめぐりの醍醐味ではないか。
ちょっとした同窓会のようだ。ここで私は同級生マルエツとの信頼と関係性を深めているのである。マルエツは近所にないのに……。
ほらここにトップバリュって書いてある
ヴィルマルシェ青山店
ヴィルマルシェとはイオンの一業態のようだが全国でもここにしか店舗がない。完全港区仕様のイオンなのである。
外苑前駅の近くピザレストランの隣に気持ちよさそうなイートインスペースがあり、店内に入っても蛍光灯ビカビカではなくレールライト(だったか)暖色の間接照明で港区然としている。
結局全然トップバリュ
スターバックスコーヒーのコーナーがあったり、入り口にはマシンで入れるオーガニックコーヒーが置いてある。さすがと港区だなと思わされるも121円というぎりぎりまで削りましたという価格設定にイオンらしさがある。
そしてすべての港区感をひっくり返すようにお弁当が安いのである。
ここでもう全部がひっくり返る。お弁当が安くておにぎりに「TOPVALU」と書いてあるからすべての高級感がひっくり返るのだ。その隣にまい泉のカツサンドが置かれていてもだめ。お寿司が1パック498円だからまいばすなんだここは。
入り口に花が置いてあるのもそうだ。まいばすけっとの仏花だ。おしゃれっぽさはあるものの全体的にぜんぜんイオンなんだここは。
特別仕様になってない港区のスーパーたち
肉のハナマサも港区だと肉のハナマサPLUSとなるのか、と思って南麻布店に行ったのだが…
店内は広めで商品も多いが、他のハナマサとそこまで変わらず。
駐輪場がなかったり通路が狭かったり限界まで商品が詰め込まれていて港区らしさとは逆のハナマサ的な主張の強さを感じた。人間の余剰であるおかざりがない、合理の結晶それがハナマサ。
スーパーでないがちょっと特別仕様
一方スーパーでないにしてもこれはちょっとよそいきになっているなというものもあった。
こちらのカクヤスは大きなワインセラーがいくつかあり、ラトゥーロ12万円だのオーパスワン6万円だの高級ワインが入っていた。これはカクヤスという看板を下ろしてヒカクテキカクヤスという看板にする必要があるなと思ったのかもしれない。
検索してみると「ワイン類の販売をメインとする店舗として」「KAKUYASU class」があるそうだ。ここ以外にも銀座や歌舞伎町、そして同じ港区内にいくつかあるという。
心が枯れたら旧友の晴れ姿を見に行こう
映画『ゾンビ』におけるスーパーに立て籠もり何もかも飲み食いしていい状況は観る者の心を躍らせる。私はスーパーの閉店に伴う全品セールに出くわしたことがある。私も含めて全員がヒロポン入りチョコレートを食べたようになっていた。
スーパーは生活に最も近い店である。そしてそれ以上に何か心を預けているものがある。モンゴルの遊牧民にとっての羊、江戸時代の農村部にとっての田、そして現代の生活者にとってはスーパーなんじゃないだろうか。
そんなスーパーと書いて「とも」と呼ぶべき者の勇姿が今日は見られた。
「港区」という枠組みはメディアやわれわれのやっかみが作り出した偏見の一つだろう。でもそんな邪悪なフィルターを通して見た私達のよく知るスーパー(とも)の頼もしさよ。
港区ちょっとよそいきになってるスーパーめぐりは、私達のスーパーを愛する心を深める行楽にほかならない。この週末も天気が良い。港区のスーパー(とも)をめぐり、地元のスーパー(とも)を愛そう。
ライターからのお知らせ
港区スーパーと全く関係ないんですが、舞台の映像配信が終わってしまうので駆け込みで見てください。こんなにおもしろいに見てもらえなかったら私は何を信じて生きていけばいいのでしょうか
チョロQキング牧師とか出てきますよ
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