メモ
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、2022年6月に0.75%の大幅な利上げを実施するなど急ピッチでインフレの抑制を進めており、その影響は約30年ぶりの円安などの形で日本人の暮らしにも影響しています。そんな利上げが経済に波及している様子について、経済学や金融に詳しいブロガーのJoey Politano氏がグラフを使って解説しました。
How Rate Hikes are Affecting the Economy
https://www.apricitas.io/p/how-rate-hikes-are-affecting-the
FRBは近年の高インフレに対応するため、2022年初頭から金融の引き締めや利上げを続けており、その影響は少しずつ経済指標に表れてきています。そのうちの1つが雇用コスト指数(ECI)です。
2022年10月28日に発表されたECIでは、民間部門の賃金の伸びが2年ぶりに前年比で低下し、四半期比でも顕著な減速が見られました。
Politano氏によると、平均時給が「職に就いている人全員の平均給料の変化」を示しているのに対し、ECIは「誰かを雇用するためのコストがどう変化したか」を示す指標とのこと。また、ECIは職業や産業の違いといった要素を加味しつつ長期間かけて算出されるため、アメリカで最も信頼できる賃金の指標と言えます。
「賃金・物価スパイラル」という言葉がある通り、賃金の上昇は強力なインフレの要因の1つに数えられているため、信頼できる指標で賃金の伸びが鈍化してきたことが示されたのは、インフレが落ち着きを見せ始める予兆ではないかと受け止められています。
また、離職率は将来の賃金上昇の目安になるため重要な指標ですが、これも2021年末の3%をピークに低下しつつあります(以下のグラフの緑線)。これに加えて、信頼性が少し低いため割り引いて見る必要がありますが、求人数も200万人近く減少しました。
離職率の変化にはさまざまな要因が絡んでくるので一元的には論じられませんが、労働市場が過熱すると待遇を求めて転職したり高い給料に満足して働くのをストップしたりする人もいるため、インフレとの関連性は強いと考えられています。そのため、FRBは離職率と新規雇用者の参入を意味する求人数の減少に期待しているとのこと。
このように、FRBが賃金の動きを重要視している理由の1つは、パンデミックに直面したアメリカ政府が景気刺激策として多額の資金を投じたにもかかわらず、2021年と2022年の総支出の伸びが労働所得の動きとほぼ一致してきたことです。そのことは、以下のグラフで示されている個人消費支出(緑線)と賃金(黄線)の動きが似ていることからも分かります。
失業手当や景気刺激策、景気回復プログラムなどによって資金が供給されればその分支出は伸びるはずですが、それが労働所得と同じくらいしか伸びていないということは、政府が供給した資金が経済の中に残っていることが示唆されます。しかし、賃金の伸びと同時に支出の伸びも鈍化しつつあることから、Politano氏は「2022年第3四半期の個人消費の伸びは、間違いなく2020年後半以来初めて『正常』に近いものを見たことになるでしょう」と評価しました。
しかし、金融引き締めの副作用が出始めているのも確かです。例えば、設備投資を示す以下のグラフで産業機械(黄線)と住宅(緑線)がいずれも落ち込んでいることからも分かるとおり、急激なインフレ抑制策は既に投資の減退として表面化しています。
Politano氏によると、これは住宅ローン金利の急上昇により一戸建て住宅着工件数が2020年初頭の水準にまで落ち込んだことが一因とのこと。アメリカの住宅ローン金利は2022年11月時点で7%を超えており、今後さらに上昇すると考えられています。
また、実質民間最終消費の推移を示すグラフが2四半期連続でゼロ成長をしていることからもうかがえる通り、FRBがインフレ抑制のために必要だと考えている景気の減速も既に起き始めています。
このことからPolitano氏は、「景気後退期には決まって実質民間最終消費がマイナス成長を起こしますが、これは金利が上昇する中でいかに経済が弱いかを浮き彫りにするものです」と指摘しました。
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