ウェブブラウザやアプリ上の行動履歴データを収集・分析するトラッキングによって、ユーザーが興味を持つものを分析し、ユーザー個人に最適化したターゲティング広告を打つことが可能になります。しかし、Appleは2021年にプライバシー強化のための新しいポリシーおよびフレームワークである「App Tracking Transparency(ATT)」を発表し、パーソナライズされた広告を出すためのトラッキングの許可をユーザーに求めることをアプリに義務付けました。このATTによって中小企業の事業が大きな打撃を受けていると、イギリス経済紙のFinancial Timesが報じています。
Small businesses count cost of Apple’s privacy changes | Financial Times
https://www.ft.com/content/1959b06d-0a6e-4c37-9528-476f83626a86
多くの中小企業にとってターゲティング広告は、新規顧客を獲得するための貴重な手段です。AppleがATTを導入したことで、ターゲティング広告が難しくなり、多くの中小企業はオンライン広告戦略を見直さざるを得なくなり、マーケティング費用を削減する必要に迫られているとのこと。Financial Timesは、物価上昇で世界の主要市場で消費者需要が圧迫される2022年前半まで、多くの中小企業はAppleのATTによる規制の影響を受けていることに気づいていなかったと報じています。
ハンドメイドの靴を扱う企業の創業者であるナディア・マルティネス氏は「2021年では、私はATTの影響をそこまで感じていませんでした。しかし、2022年はとにかく厳しい状況です」と語っています。Facebookにおけるターゲティング広告で大きな業績を上げ、ネットビジネスコンサルティング企業も立ち上げたというマルティネス氏は、広告費が高騰してアクセスできるデータも少なくなったことで、オンライン広告が以前ほど効果的ではなくなったと語っています。
女性向けのヘルスケア製品のオンラインショップを運営するObviは、2021年11月に新規顧客獲得コストが急騰し、業績悪化に見舞われたとのこと。AppleがATTを導入する前は、Facebookのターゲティング広告による新規顧客獲得に1人当たり30ドル(約4000円)を投入すれば、顧客は60ドル(約8000円)をObviに費やすという2倍以上の対費用効果が見込まれていたとのこと。マーケティングの予算は1日2万ドル(約270万円)で、その9割はFacebookのターゲティング広告に投入していたそうですが、2022年以降はマーケティングの予算を削減し、その多くをTikTokに投入するようにし、ビジネス戦略の方針を新規顧客向けではなくリピーター向けに転換したそうです。
Obviの最高マーケティング責任者であるアシュヴィン・メルワニ氏は「私たちは可能な限り最高の年に完全な立ち上がりを見せ、非常識なほどの利益を上げ、2021年のブラックフライデーに突入しようとしました。しかし、そのタイミングですべてが崩壊したのです。結局のところ、Facebookはほぼ半数のデータを失ったということです。彼らが構築した大規模なアルゴリズムは、データが半減したことですべて台無しになりました。脳みそを半分失ったようなものです」と語りました。
アメリカのアパレル企業であるShelly Coveは、Facebook広告にこれ以上予算を投入しても売り上げが伸びないことが判明したため、2022年7月にマーケティングチームメンバーの4人を解雇したそうです。創業者であるマット・シュローダー氏は「これまではFacebookの広告に予算を投入すれば、2倍になって返ってきました。しかし、そんなことはもうあり得ないのです」と述べました。
さらにシュローダー氏は「私たちはデジタル広告の予算を3分の1に減らし、新規顧客獲得ではなくリピーターが事業を維持することを目指しています。Appleが私たちの事業をダメにしたというのは無責任です。私はあまりにもFacebookに依存していたと気付き、反省しています。どんな小さなビジネス、少なくともオンラインビジネスは、MetaやAppleなどのビッグテックの手のひらの上で転がされています。彼らの気まぐれを回避する方法はありません。もし彼らが何かをしてきたら、もうおしまいです」と語りました。
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