マスク氏とツィッター

アゴラ 言論プラットフォーム

イーロン マスク氏がツィッターの買収を決めました。このブログで述べたように個人的にはマスク氏の才能を他の有望な分野に使ってほしいのでこの買収には賛成ではないですが、マスク氏が支配するならツィッター社の経営は回復すると考えています。理由はこれも先日、申し上げた通り、マスク氏が歩くマーケッターであるからです。

イーロン・マスク氏

さて、この買収に伴い、2つの懸念が生まれています。1つは買収資金で本当は何処から出るのかという点と言論の自由をどこまで放置するのか、という点です。前者は資本市場での疑問符が、後者は社会一般への挑戦になります。

買収資金に諸費用を入れたマスク氏の準備資金は465億㌦(5.9兆円)とされます。これに対して130億㌦が借り入れ、125億㌦がテスラ株担保の借り入れ、210億㌦がマスク氏が自ら調達するとしています。しかし210億㌦もご本人が流動性の高い資金で持っているとは思えません。理由は2021年分の個人所得税110億㌦をカリフォルニア州に支払う際にテスラ株を売却して調達した経緯があるからです。

マスク氏は富裕層に多い個人資産管理事務所を持っており、モルガンスタンレー出身者にその運用を任せています。ただ、一定額の資金を運用しているとしても210億㌦がひょいと出てくるものではないでしょう。その資金調達をテスラ株売却で賄うのだとすればテスラ社の株価下落につながるわけで構図的にはツィッターの買収金額の何倍もの「コスト」増に耐えなくてはいけないことになります。

いくら世界一の富豪とはいえ、同社を完全支配することは彼の趣味に近いわけですから個人と経営者を区分けしたとしても個人的には評価しにくいとも言えます。例えは悪いですが、一昔前のアラブの王様が金のチカラで全てを支配していたのと被ってしまうのです。

さて、問題は資金調達よりもマスク氏がどんなツィッター社にするつもりなのか、であります。

一つは上場後過去9回の決算報告のうち、黒字は2回だけというビジネス基盤を立て直すことが第一義になるのでしょう。その場合、広告収入への依存となりますが、このビジネスモデルは既に陳腐化しています。例えばフェイスブックは同様に広告収入に頼ったため、「一本足打法」とも呼ばれその脆弱性が指摘されました。そのため、ビジネスの幅を広げるため、メタバースに力を入れたり、一時期仮想通貨に本腰を入れたりしたのは経営的な安定感を図るためでした。

ツィッター社が非上場化するとはいえ、将来は上場させて投下資本を回収したいのでしょうからどのような経営再建プランをぶつけてくるのか、興味あるところです。

もう一つはマスク氏が発信メッセージの「規制緩和」を目指すと表明しています。つまり、かなり自由な発言を許すという理解ですが、これが社会にどう受け入れられるのか、やや疑心暗鬼になっているところはあります。アメリカの大統領報道官やEUの高官までが規制緩和をけん制するような発言をしていることは民主党政権やEUにとっても戦々恐々な様子はうかがえます。一方でトランプ氏の永久追放が解けるのではないか、とも囁かれており、ツィッターがにぎやかになりそうな気配は濃厚です。

SNSによる「社会の不和」は永遠のテーマです。日本でも「2ちゃんねる」から始まり、SNS投稿で自殺者が出るなど常に社会問題では重要な位置を占めてきました。これが誹謗中傷だけではなく、政治活動や歪んだ事実をあたかも本当であるように発信することで騙されたり迷惑を被る人が出てくるようになればSNSの成長を退化させないとも限りません。

現代社会ではSNS投稿が極めて日常的行為になっています。不正な投稿への規制や投稿者のマナーも当初に比べれば改善されつつあり、酷い書き込みはほんの一部であろうとは思いますが、マスク氏がそれら言論問題の矢面に立つほど余裕があるのでしょうか?この辺りは彼の才能と熱意の様子を見守ることになりそうです。

SNSのビークルは今や多数あり、情報過多のこの時代にやや辟易としており、個人的には入ってくる情報量を絞っています。スマホも相変わらず持ち歩かない時もしばしばあるし、テキストも緊急的なもの以外は一日数回しか開封しないようにコントロールしています。ツィッターもフェイスブックも参加すればそれに時間を割かれるのでそもそもやらないのは昔から変わらぬ方針。いちいち細かい話に振り回されていたら仕事にも集中しにくいですよね。6兆円も払うマスク氏には申し訳ないけれど社会的にはSNSがなくても何ら困らない私のような人も案外多いのではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月28日の記事より転載させていただきました。