コーヒーの正体とは焦げ味であるなら、あらゆる豆(種)でも焙煎したらコーヒーでは?
コーヒーは生豆を適当に焙煎するだけでも美味しい。
より焦がして深煎りにすると味が濃くなる。するとある疑念がわきあがる。それが「コーヒーってそもそも焦げ味なんじゃないの?」である。
だとするなら、コーヒー豆以外でも焦がしてお湯注いで飲めばコーヒーにならないのか。
ちょっとしたお得情報で始まった本記事だが、お得はもう終わりだ。ここから先はアドベンチャーである。
業務スーパーのコーヒーが値上げしたことがショックで寝込んでしまった。このままではいけないと思い、コーヒーの生豆を買って自分で焙煎することにした。
コーヒーの味とは焦げ味…?
焙煎といってもただガスコンロで適当に炙るだけなのであるが、それでも本格的な気分になって美味しく感じる。
そこで気づいたのだが深煎り、つまり「よく焦がした方が味が濃い」のである。これって「コーヒー味とは焦げ味」ということにならないだろうか?
それが全部というわけではないだろうが、大部分は焦げ味と言えるかもしれない。それならあらゆる豆を焦がせばコーヒーになるんじゃないだろうか?
コーヒーは豆じゃない
と思ったのだが豆とはマメ科の植物の実であって、コーヒー豆はその豆っぽい見ためからそう呼ばれているだけらしい。コーヒーの木の果実の種がコーヒー豆だそうだ。ナッツのようなものだろう。
そうして色々な食べられる豆や種やナッツを用意した。
今回試したのはピーナッツ、カカオ豆、カシューナッツ、ココナッツ、大豆、ひまわりの種、くるみ、ピスタチオ、スイカの種、ナツメグである。
どれが美味しくなりそうだろうか? カカオ豆なんてコーヒー豆と似た存在だし、ミラクルな新コーヒーが生まれそうではないか。さあ、試しに豆であるピーナッツをやってみよう。
そしていろいろな豆を一気にあぶり、小さなものは数分で、大きなものは十数分でローストしていった。ローストと言うと印象が柔らかくなるものの、単純に言えば焦げていったのである。
お前がしたんだろ、という話ではあるがコーヒー豆みたいなピーナッツができたときはそのニセモノ感に笑いが止まらなくなった。
コーヒー豆もどきをミルで粉々にする。コーヒーにはないねっちょり感。油分だ。そうだ、我に返ればこれは焦げたピーナッツペーストなのである。
そこから味がよく出るように一回水で煮ることにした。
そして眼の前に現れたのは…ピーナッツのコーヒー! はたしてどんな味なんだろうか?
はたしてどんな味なんだろうか?
甘い! 苦さもあるがまず甘い。これはコーヒーには全くない甘さである。そしてコーヒーに生クリームを入れたような濃厚さ。これは油分によるものだろうか。
そう、これがコーヒーかどうかというと「ある程度コーヒー」なのである。コーヒーの味が100あるとして焦げ要素が占める割合が20とか60とかある程度あるんじゃないか。
コーヒーじゃなくても飲み物として良い。ほんのり甘くピーナッツの香りはやさしい。苦味とか焦げの匂いはするけれども爽やかな感じもする。
ピーナッツ やさしくクリーミーなある程度コーヒー 70点
飲み物として良かったのでここを70点のおいしさとして他を色々試していく。残すはカカオ豆、カシューナッツ、ココナッツ、大豆、ひまわりの種、くるみ、ピスタチオ、スイカの種、ナツメグである。
まずピーナッツと同数の70点付近の「そこそこおいしいもの」から見ていこう。
そこそこ美味しい部門
ピーナッツと同じ甘い系統だが、より香ばしさがあり甘みが少なめ。ナッツ的な香りも控えめ。でもまあおいしい。悪くはないし、たとえば店で積極的に注文しないけど「出されたら飲む」ようなものである。似たようなものでいうと麦茶だろうか。
コーヒーとくらべてパンチが圧倒的に欠けるが、麦茶もそうだし、コーヒーよりはクリーミーで優しい汁とも言える。
友達とケンカをした夜、ママがカシューナッツ汁でも飲みなさいとこれを出してくれたら…泣いてしまうかもしれない。
カシューナッツ クリーム的やさしい汁 65点
今回の実験にはどれも同じ量だけ使ってるのだが、味がかなり薄く、焦がしの香ばしさはあるものの種自体の香りもあまりしない。
苦味もあるがすっきりしていてコーヒーよりかはいくらか甘い。コーン茶が近い。かなりお湯っぽいのであんまり好んで飲まないだろう。
ひまわりの種 コーン茶や麦茶の新ジャンル 55点
煮る時からすでに甘いココナッツの匂いがする。これは美味しそうだ。飲んでみると甘く。ココナッツの香りも強くするし飲み物としておいしい。苦味と甘味は両立する!
コーヒー以上に香るし、苦いし、甘いし、だったらこれでいいじゃないかと思うのだが、コーヒーはそれ以上の何かがある。渋みや酸味かもしれないが、カフェイン的な特殊な成分があるのではなだろうか。
よく考えてみると、味としては温かいココナッツドリンクという感じで、見た目のおかげでコーヒーを飲んだような気分になってるとも言えるし。とはいえおいしい。
ココナッツ コーヒーから特殊な成分を抜いたもの 80点
カカオ豆の汁の味はもう強烈である。すごく味が濃く、酸味も強いし苦味も感じるしフルーツっぽい香りがする。油分もダントツですごい。フルーツの入った上等なチョコレートの味が近いだろうか。
市販されてるチョコレートはよく加熱して風味が飛ぶらしいのだが、豆から作るとものすごくフルーツっぽいチョコレートになる。その汁である。
それだけ聞くとよさそうだが、かなり酸っぱく苦味もあって強烈である。何よりコーヒーではないだろう。ああ、甘くしたい。甘くして飲んだら新たなレッドブルみたいなものが生まれるんじゃないだろうか。
関係ないが私はコンビニの前で3人の男がせーのでエナジードリンクを飲んでいるのを見たことがある。なんだったんだあれは…
カカオ豆 上等なチョコレートドリンク 75点
コーヒーに迫る美味しさ部門
淹れてるときにもちゃんと大豆の香りがする。深煎りの大豆コーヒーである。
飲む。大豆汁である。そうか、これ豆乳なのかもしれない。味としては豆乳を薄めたものとコーヒーを割ったようなものに近いのではないか。
かなりの深煎りだが、やはりこれくらい苦いとコーヒーっぽさを感じてしまう。大豆の香りもするがコーヒーの香りもすると言える。焦げの匂いもコーヒーの香りなのでは。コーヒーとは焦げ説、強まる。私たちがコーヒーうまいうまいと言ってるのは単純に焦げを飲んでるのでは。
もし世界中からコーヒーの木がなくなったとしたら私は大豆を焦がしてすりつぶしてお湯でといて飲む。けっこうコーヒーだから。
大豆が好きでふだんからポリポリ食べてるのだが、これコーヒーにならないかなと思ったことがあった。実際、なった。夢がかなったと言ってもいい。こんなことで夢をかなえてしまった。
大豆 コーヒー代用品候補最右翼 85点
香りはくるみの匂いがする。そんなに強くはないが嗅いだのある匂いだ。飲んで見る。甘い。味が強い。透明なのにクリーミーさもある。すごく独特である。……ああっ、美味しい! 一回、我に返ってしみじみとおいしい… これはじっくりと味わいたい。
これまで甘みがあって苦味があって…と要素に分解していったが、ここには明文化できない何かしみじみとした味わいがある。渋み? いや、それよりももっと微妙なクセの強さみたいなものが。そういった意味でコーヒーも近いのかもしれない。
とても味が強くておいしい飲み物だと思う。これがカフェで出てきても全然いいと思うし何なら出してなくても注文してざわつかせたい。
カフェで、と言った手前砂糖を入れてみた。あーおいしいおいしい、おいしいわ。うっせえわみたいな食レポになってしまった。ああ、砂糖を入れてもなお味が強い。
くるみは普段食べていてもナッツ類の中でもひときわ独特の存在感を感じていた。独自のなにか。これがコーヒーにもあてはまるものなんだろう。
くるみ カフェで出せるコーヒー代替品 95点
ピスタチオは油分がものすごい。カカオ豆よりも多いくらいで、ねっとりしている。
紙でこせないのでそのまま飲むことにする。うん。超絶クリーミーな飲み物だ。濃厚豆乳くらい濃い。安くなってしまったが、ピスタチオの香りも鮮烈にする。…これは原宿で行列ができてしまう。
だが飲むほどにコーヒーというよりは豆乳のイメージが拭い切れない。焙煎具合だろうか、ほのかに酸味はするが苦味が少ないような気もする。
また砂糖を入れてしまった。おれはもうダメかもしれない。なにがだ。ああ、おいしい。スイーツに寄った。間違いがない。
「濃いわ~」というこのニコニコした感覚に覚えがある。あれだ。地方のサービスエリアや道の駅に寄って、知らない牧場名を冠した飲むヨーグルトを飲んだような状況だ。
問題はピスタチオが高いことだろうか。だったら濃厚豆乳で……これでは原宿で売れない!
ピスタチオ 原宿で売れる濃いスイーツ 90点
やらなくてよかった部門
スイカの種はすぐに焦げてしまったので焙煎も強め。そのまま食べてみると苦味が強い。なにか匂いはするがよくわからない。
飲んでみる。めちゃくちゃに苦い。どこかで嗅いだことのあるような匂い。お引取り願いたいくらい苦い。これは焙煎のミスかもしれない。
匂い分析班の仕事が終わった。中国物産館の匂いがする。エビやカニの匂いもちょっとする。魚市場の匂いに近い。それに苦味を加えたものだ。15点。
イメージとしては、魚市場で、前掛けをした男たちがいて、エビを網で焼いたようなものがある。15点はあげすぎだ、8点くらいにしておこう。
スイカの種 魚市場から滲み出た水 8点
ナツメグ。強烈である。靴箱のような匂いがしている。この匂いは何なんだろう。本来の香りは爽やかだったはずなのに。靴墨の匂いに近い。これはちょっとした奇跡かもしれない。だけど必要のない奇跡だ。
飲むと入り口は靴墨なんだけれどもその奥がすごく広がっている。奥が広い下駄箱である。苦味があってこの香りの奥行き。何とも言い難い。味は凄く強いが、甘みや酸味もなく香りがすごい。苦味はある。あと渋みがきっちりある。
飲んでていいところがあまりないが、香りがズバッと広がるのでそれは結構楽しい。香りを飲んで楽しむという新しい形ではないか。時間つぶしや暇つぶしに良いと思う。
ナツメグ 靴箱とコーヒーを足して2で割った汁 35点
十分に濃い麦茶はコーヒーとなんら見分けがつかない
これだけ焦げたものを飲んで大丈夫なのか?と不安になったので検索してみた。アクリアミドという成分がよくないらしい。
参考 「よくある質問(アクリアミドについて)」(農林水産省)
そもそものコーヒーも焙煎が深まっていくとアクリアミドが増えていくっぽい。麦茶とか120℃以上の調理で生まれるのでフライドポテトもあると。気をつけたほうがいいけど、バランスの良い食生活をせんといかんですよ、という話だった。
そういえば麦茶である。十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないように、十分に濃く入れた麦茶はコーヒーとなんら見分けがつかないと言われている。あれも麦を焦がしたものなのだ。
子供の頃から私たちは焦げを水で溶いて飲んでいる。それもけっこうな量を。だから体に悪いわけではないんだろうが、変わってるよなと思う。
コーヒーは嗜好品であり焦げ味
その後普通にマクドナルドのコーヒーを飲んでみると他にはない痺れる感じがある。あ、これは飲み物としてちがう。なにか、じ~んとしたものを感じている。カフェインなんだろうか? 嗜好品に分類されるのも分かる。これに勝とうと思ったら酒でも入れないと無理だろう。
コーヒーは焦げ味。なんとなくでつかんでた話が形になった。
あと私が自分で異常だなと思うのはカフェを開くという知り合いに濃厚くるみ汁を教えてあげなければと本気でメッセージを送ろうと考えていたことだ。……ダメだ! そんなへんなものは売れない!