一般社団法人 DX不動産推進協会は4月5日、第5回勉強会を開催した。元内閣府副大臣としてIT政策や地方創生、国家戦略特区などを担当した、衆議院議員の平将明氏を迎え、コロナ下において、デジタル戦略が果たした役割や、Web3.0時代を見据えた日本のDX戦略について話した。
衆議院議員の平将明氏
平氏は、衆議院議員6期目。自由民主党デジタル社会推進本部長代理、自由民主党東京都連政調会長、自民党NFT政策検討PT座長を務める。宅地建物取引士の資格を持ち、冒頭には「みなさんの業界はなじみ深い。不動産会社を経営していたので、相場観はわかる。今、不動産業界が取り組む契約書の電子化は大きな流れだと思う」とあいさつした。
コロナ下であった2020年に、内閣府副大臣として防災、行政改革、IT政策、クールジャパン戦略、宇宙政策などを担当していた平氏は、横浜港に入港していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の対応について、「乗客には高齢者が多く、日常的に服用している薬が足りなかった。地元の自治会とソフトバンクに協力してもらい船内に『iPad』を配ることで、リモート診察をしようとしたが、初診は対面でないと受けられないと。せっかくドクターがいて、iPadでやりとりができるのに、これでは進まないなと。非対面のニーズはあらゆるところに共通する」と言及した。
続けて「デジタルやテクノロジーを実装しようとすると必ず古い規制にぶつかる。医療の世界における初診は対面でという規制は獣医師も同様。しかし、対面でなくても診察できるケースもある。そのあたりは柔軟に規制改革していきたい。不動産業界でもデジタル化できる部分で困っていることがあったら、伝えてほしい。対応できるものはしてきたい」とデジタル推進を呼びかけた。
一方で「デジタルとITが進んだのはコロナの影響が大きい。海外ではできるのに日本ではなぜできないのかと感じた人も多かったのでは」とし、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏が当時取り組んだ「マスクマップアプリ」に触れた。
「台湾の取り組みがすごかったのは、民間の知恵をかり、非常によくてきたインターフェースを提供できたこと。さすがだと思った。では、日本にオードリー・タン氏がいれば、これは実現できたのか、といったらそうではない。台湾の保険証にはICチップがすでに導入されていたが、日本ではマイナンバーカードのみで当時の普及率は13%程度だった。台湾でできて、日本でできなかったのは、構造的な問題が大きい」とした。
さらに「政府、都道府県、市町村があり、これが縦割り、横割りになっていて、連携が難しい。コロナは各地域の保健所が対応にあたってくれたが、保健所と直接やりとりができるのは自治体。当初、コロナ発生者の人数をうまく把握できなかったのはこのため。保健所の方は本当に大変で、ものすごく忙しい状態。しかしそこに連絡して、聞くしかできなかった。行政は国、都道府県、市区町村と分かれているが、ここを一体運営にしないといけない」と課題を示した。
上手くいった事例としてLINEとともに実施したアンケートを紹介。「LINEに協力してもらい、発熱はあるか、住んでいる場所の郵便番号などを記載してもらうアンケートを実施したところ、2日で約2000万人の回答が集まった。これは世界でも例がないこと。これによって全国のヒートマップを作成でき、分析したところ、繁華街の周りやそこに勤めている人が住んでいそうなところで発熱が多いことがわかった。これをコロナの専門家チームと共有し、夜の街の対策につなげた」とした。
コロナ下における日本の対応を平氏は「構造的な問題は如何ともし難い。日本はアナログ対応が世界一の国。あうんの呼吸でできてしまう。一人ひとりに責任感があり、その隙間は暗黙知とがんばりで埋める。アナログ運用が究極的に進みすぎてロジカルにしづらかった」と分析する。
日本のデジタル化に向けに期待の高まるデジタル庁については「デジタル化しづらい日本の現在の課題を解決するには司令塔が必要。デジタル庁は、人材の半分を民間の専門家から採用し、いい意味で役所っぽくない。霞が関の習慣も変えていってもらえると思っている。明らかによくなったと感じているのは発注能力。今までの役所はデジタルにあまり強くない人が依頼し、それをベンダー側がなんとかして応えていくというスパイラルだったが、発注する側と受ける側の意思疎通ができ、無理のない形になってきている」と説明した。
自然災害、パンデミックの時代を生き抜く日本のDX戦略とは
コロナ下における日本政府の対応について説明した後、話題は日本のDX戦略へと移る。平氏は現在を「毎年のように自然災害が起こり、パンデミックも来る、ロシアによるウクライナ侵攻など、ものすごい時代だと思う。このような時代において、過去の日本は元号を変える、都を移す、大仏と作るといったことに取り組んできた。では今なにをするべきか。元号は変わったばかりだし、大仏の建立は仕事として違う。ただ、遷都はある」とコメント。
遷都先としてあげたのはサイバー空間だ。平氏はデジタルガバメントが進むエストニアを例に挙げ「エストニアはものすごくデジタルガバメントが進んでいる国。ウクライナ問題があったように、エストニアも同様の脅威にさらされてきた。しかし国民がIDをもっていれば、万が一、国外避難となった場合でも政府と国民はサイバー空間上でつながっていられる。この話を聞いた時に、こうした方法があるのかと思った」と危機対策の観点からもサイバー空間への遷都の重要性を説いた。
また防災担当をした経験から「2019年の台風19号の時は、被害が大変大きかった。今後も首都直下型地震や富士山の噴火など、あらゆる災害が想定される。災害時には停電が起こり、通信が落ちる。そうした災害時に強いのがデジタル遷都だろうと思う」と述べた。
コロナ下で普及が進んだリモートワークから「地方創生2.0」にも触れた。「リモートワークが普及するに連れ、距離的な制約はなくなる。そういった意味からも地方創生2.0はすすめるべき、そのために必要なのは地方における5Gの普及。ただ、一律に5Gを引けばいいというものではなく、ベストプラクティスになるような場所であることがポイント」とした。
また「Web3.0」については「メールが使えるようになって情報格差がなくなると言われたのがWeb1.0、その後登場したWeb2.0は双方向になり、SNSの登場で個人が発信側にもなれる世界を提示した。しかしGAFAなどのデータ独占問題などが生じ、富の偏在が生まれてしまった。この反省から出てきたのがWeb3.0。双方向に加え、デジタルアセットを自分たちのものとして保証できる。新しい資本主義に向いており、世界戦略に使えると思う」とした。