オオスズメバチの女王が持つフェロモンの特定に成功。フェロモントラップに活用へ

GIZMODO

アメリカに生息するミツバチは減少傾向にあると危惧されていますが、それに追い打ちをかけるのが侵入種オオスズメバチの存在です。ある研究チームはそんなオオスズメバチの女王の性フェロモンの主成分を特定。雄バチをおびき寄せるフェロモントラップに活用して、繁殖を食い止められるようになるかもしれません。

オオスズメバチ(Vespa mandarinia)はミツバチを捕食することや、刺されるとかなり痛い(ハチ毒にアレルギーがある人には致命的な)ことで知られています。アジア原産ですが、近年は米国にも分布していて、2020年の8月にワシントン州で初めて捕獲されてからアメリカ北西部に広がりました。スズメバチはほんの数時間でミツバチの巣を壊滅できるので、この侵略は憂慮されています。

中国雲南省にあるオオスズメバチのコロニーから未交尾の女王バチと雄バチを大量に捕獲した昆虫学者のチームは、女王バチの分泌物を採取。彼らはガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて、6匹の女王バチからのフェロモン化合物を特定したのです。その研究成果は先日、Current Biology誌に掲載されました。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の昆虫学者で、論文の共著者であるJames Nieh氏は米Gizmodoへのメールで「未交尾の女王バチと交尾するために争う雄バチにとっては非常に魅力的なニオイのブレンドである雌の性フェロモンの主成分を分離できました」とコメント。「こういった成分やブレンドを粘着トラップで試した際には、何千匹もの雄バチが捕まりました」と教えてくれました。

さらにNieh氏は「このようなトラップは特異性が高いことも、我々の研究で分かりました」とも述べています。「他種の昆虫やオオスズメバチの雌でさえ捕まりませんでした。彼らの生態学的な影響は減ります」とのこと。

オオスズメバチは世界最大級のスズメバチで、体長は2インチ(親指の長さ)ほどで、3インチの翼幅を持ちます。腹部はオレンジと黒の縞模様。今のところ、北米での分布はブリティッシュコロンビア州とワシントン州に限られていますが、この昆虫を食い止める迅速な手段がないまま広まり続けるのではないかと研究者らは恐れています。現在、昆虫学者らは手作業で巣を駆除してオオスズメバチの生息数を管理しようとしているところ。しかし、巣を見つけるのは困難な作業です。フェロモントラップを使えば、彼らの繁殖を抑えることにつながります。

オオスズメバチはミツバチの頭をもぎとり、その胸部を幼虫の餌として巣に持ち帰ることで悪名高い存在です。ミツバチは襲撃されると、悲鳴に似た音を出します。

ミツバチは群れになって特定のパターンで“シマリング”して個体を攻撃しようとするスズメバチを混乱させたり、彼らを寄せ付けないよう巣の入り口に動物のフンを塗っておいたりと防御策を持っています。さらには小刻みに震えながらスズメバチを取り囲んで生きたまま蒸したりすることも…侵入者を殺せるほどの高温状態を作るのです。

2020年10月、オオスズメバチの巣を駆除するワシントン州農業省 チーム
Photo: ELAINE THOMPSON/POOL/AFP (Getty Images)

研究チームが特定したフェロモンの主成分はヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸でした。ヘキサン(カプロン)酸は油臭くチーズっぽく尿のようなニオイで、オクタン酸はわずかに鼻につくニオイで動物の乳に含まれていることがあり、似たような刺激臭のデカン酸は人工果実味などに使われています。殺人スズメバチの雄は、これらの化学薬品を混ぜたものに夢中になるのです。

Nieh氏の研究チームはこの先、スズメバチの活動時期を迎える中国で、フェロモントラップの有効な範囲をテストする予定。ラボでは、フェロモンのもともとの性質をさらに模倣するため、他にどんな化学成分が重要か絞り込むそうです。

害虫管理対策としてのフェロモンは既に大きな産業となっていますが、このようなフェロモントラップの成功は人間だけでなくミツバチも望むはず。虫取り用掃除機を背負った人間に彼らを根絶することはできなくても、スズメバチ自身の生殖本能を活用する手段ならうまくいくかもしれません。