気遣いとおせっかい

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気遣いとおせっかい、この表裏一体の日本独特文化はネットを検索すれば割とたくさんある話題ですが、今日はビジネスと絡ませて考えてみたいと思います。

Cecilie_Arcurs/iStock

気遣いとおせっかい、この違いをズバリ一言で言えば立ち位置の違いと断言してよいと思います。気遣いは相手の立場に立って考えること、おせっかいは自分の立場から考えることです。

ではこれがビジネスになるとどうなるのか、これが実は日本はおせっかいだらけのビジネス方式なんです。理由はマニュアルと上司の教育にあります。

例えば顧客接待について「こういうものだ」という奥儀はどこの会社にでもあります。「うちの会社ではランクAのクライアントには予算〇円でこの店」とか「社の最上階にあるラウンジ接待は相手が社長ないしそれに準ずるクラスの人だけ」とか「中華料理で接待する場合はカニは手が汚れ、会話が止まるから注文するな」といったようにそれなりにどこにもユニークなルールなり暗黙の了解があるわけです。

私が秘書をやっていた時は「包装紙は何が何でも高島屋」。私は当時若造でそういうことには疎かったので「なぜですか?」と先輩の女性秘書に聞いたら「あんた、西武百貨店の包装紙で誰が喜ぶのよ、だって西武よ。やっぱり百貨店といえば高島屋よねぇ」。私は「はぁ」としか言いようがなかったです。

ある時、社長のお供で欧州に行く時、社を出ると社長が運転手に向かって「錦松梅を買っていくからその店に行ってくれ」と。恥ずかしいことに私は「錦松梅」が何なのか知りませんでした。「なーんだ、高級ふりかけか」と思ったのは帰国後、自分で買って食べてわかったのですが、社長曰く「あの容器が日本文化ですよねぇ」と妙に悦に入っていたのを今でも思い出します。

マニュアルは概ね、おせっかいの象徴であり、北米ではマニュアルの位置づけは相当緩くなってきています。アメリカのマクドナルドやスタバではどこでも同じ味を出すというマニュアル文化の象徴でした。しかし、スタバはエスプレッソマシーンがオート機能のマシンなので店員のやることは顧客の希望通りのトッピングないしレシピに仕上げることだけなのです。申し訳ないけれど彼らはバリスタでも何でもありません。格好良く言えば、カフェ コンシェルジュといったところでしょう。

そんな中でも彼らは客に喜んでもらう最善の努力をします。一言、二言、客と会話を交わすこともあるでしょう。ところが日本のマクドナルドで店員に注文と違うことを何か言うものならばマネージャーが出てきて「お客様、いかがいたしましたでしょうか?」になります。高校生や大学生のバイトの若い女の子と気の利いた会話なんて逆立ちしても期待できないし、「変なおじさん」という評価をもらうのがいいところです。

では日本で最も気遣いが上手なところは何処でしょうか?私もぱっと思い浮かばないのですが、一流のバーは最高の部類かもしれません。バーテンダーは客と注文以外は一言、二言しかかわしません。立ち入ったことが耳に入りやすい職業だけに深入りしないのが原則です。これがスナックのママになると「へぇー、それでそれで」と首を突っ込んできます。

それ以上に一流のバーテンダーは常連になれば「お客さんの今日のドリンクはこんな感じでしょうか?」とひとひねりしたカクテルが出てきます。おせっかいと気遣いのぎりぎりところですね。フグを食べて舌がちょっとピリッとくる感じです。

ここバンクーバーに行きつけの個人経営の小さな飲み屋があります。店に入ると私の顔を見た瞬間、パブロフの犬のようにラガーのドラフトビールを注ぎ、まだ上着を脱いで席に座るかどうかぐらいには既にビールがサーブされています。もちろん、私は何も注文していませんが私がラガービールが好きなのを知っているからです。ただ、10回行って10回ともラガーかといえばそうではない時もあるよな、と最近、思い始めながらも常連客で電線の雀の如くいつも満席のカウンターの店がはやる理由はこのオーナーの覚えの良さとおせっかいに近い気遣いなのだろうな、と思い返しています。

サービスは基本ルール プラス カスタマイズ、これが私が思う今後あるべきスタイルだと思っています。高級旅館も概ねそうなっているはずです。客の我儘を聞くという名目ですが、客は十人十色だということが改めて注目されてくるわけです。私が飲食に関してチェーン店にまず行かない理由はサービスがつまらない、これに尽きるのです。料理も平凡で不味くもないけど美味くもないのです。上述の私の行きつけの店では当たり外れがあるのですが、それでもへぇーと感動する時もあり、それが逆にワクワクさせたりするのです。

日本は文化的に気遣いができる国なのですが、そういうことを磨く芽を摘んでしまった気がします。「ワインを取りたいのですがどれがいいですか?」と店の人に聞いたら「私の好みは…」と返事する人が多いと思います。「君の好みを聞いているのではなく、客観的に説明せよ」なんですが、わかんないだろうなぁ、こんなことをおじさんが呟いても。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月6日の記事より転載させていただきました。

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