まるごと空力シミュレーションで富岳を利用するメリットとは?
今回の「まるごと空力シミュレーション」で、富岳を利用する意義について、坪倉教授は、3つの点から説明した。
1つ目は、スピードである。
「この計算は、国立大学が持つスーパーコンピュータでも計算できるが、富岳を使うと一部のリソースだけで計算しても10倍弱程度の加速ができる。それでも、計算結果を出すのに一晩かかるが、将来的には、選手が一度ジャンプをしたあとに、2回目のジャンプまでにシミュレーションを終えて、選手にコーチングしたいと考えている。チューニングをしていけば、富岳ではそこまで加速できる可能性がある」とした。
2つ目は、精度だ。「これまでの計算に比べて、1オーダー以上、解像度を高めることができる。それによって、選手間の体格の差による違いも見えてくるようになる」という。
そして3つ目が、多くのシミュレーションを同時に行える点だ。これにより、「多くの飛び方の例をみせながら、選手に対するコーチングができるようになる」と述べた。
「現在は、モーションキャプチャのスーツを着用してジャンプする必要があるが、カメラで撮影した映像を使って、モデル化する方法を検討しており、これが使えるようになれば、実際に競技の中で利用することもできる」としている。
また、「まるごと空力シミュレーション」には、理化学研究所が開発した複雑現象統合シミュレーションフレームワーク「CUBE」を利用しているが、坪倉教授は、「人が動いている際に、空気の流れを追いかけるということは、かなりレベルの高いシミュレーションになる。市販のソフトウェアではそれができないが、CUBEであればそれができるようになっている。CUBEは、新型コロナウイルスの飛沫シミュレーションにも使用されているソフトウェアであり、人が歩きながらしゃべっている際の飛沫による感染シミュレーションの結果なども公表している」とした。
坪倉教授は、「選手の身近に科学が寄り添い、縁の下の力持ちとして、サポートしていくことが大切である。富岳の能力によって、できなかったことができるようになる。その成果をスポーツにも活かしたい。ジャンパーが飛べる回数は決まっているが、富岳を使うことで、選手に最適な飛び方を提案できる。
将来は、選手ごとにテーラーメイドでコーチングができるようにしたい。日本の選手の記録はまだ伸ばせる。科学が選手をサポートして、能力を引き上げていくといったことに二人三脚で取り組みたい」としたほか、「今回の富岳によるシミュレーションで、小林選手の飛距離が長い理由について、科学的な裏づけが取れた。あとはいい風が吹くことを期待したい。小林選手には、北京オリンピックでは、自信を持って飛んでほしい」と期待を寄せた。
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