コロナ禍で先の見通しが立たない昨今、「フクギョウ」を解禁する会社が続々と増えており、周りで耳にする機会も増えたのではないか。これまでは「副収入を目的に仕事のすきま時間などに行う」という、まさに「副業」のイメージが強かったが、それを覆す新しい「複業」の在り方について、一般社団法人パラレルプレナージャパン(以下「PPJ」)が「パラレルプレナー(※)」を対象とした実態調査を行った。
調査対象は、パラレルプレナージャパンが選出した大企業などで働くパラレルプレナー36名。勤務先は、総合商社、IT企業、通信会社、自動車メーカー、飲料メーカー、製薬会社、航空会社など。調査期間は2021年7月25〜31日。
※パラレルキャリアとイントレプレナーを組み合わせた造語。複業(パラレルキャリア)で得た外部の知識・経験・人脈を生かし、会社員や公務員として本業で変革を起こしている人材(イントレプレナー)のこと。ここでいう複業(パラレルキャリア)とは、本業と本業以外の社会活動を同時に実践することを指し、労働の対価として報酬を受け取る「副業」に加え、ボランティア活動やプロボノ活動、社内の有志団体活動など報酬を受け取らない活動も含んでいる。
パラレルプレナーの「本業と複業」の関わり
今回、調査対象となったパラレルプレナーの本業については、IT系・メーカー系が3分の1以上を占め、回答者の約半数が新規事業を担当していた。パラレルキャリアとしての複業では、非営利団体や会社経営、好きなことや得意なことを生かした職種が多く、約8割が収入を得ているという結果となった。また、本業と複業の組み合わせはバラエティに富んでおり、本業が自動車メーカーでの設計エンジニアで複業が地域支援、本業が通信会社の新規事業担当で複業が非営利団体における活動など、一人ひとりがユニークなキャリアを持っていた。
パラレルプレナーは「やりがい」を求めて複業に取り組む
では、パラレルプレナーはなぜ複業に取り組むのだろうか。パラレルプレナーが複業をする理由に挙げたのは「自分の興味があること・好きなことをやりたい」「社会に貢献したい」「さまざまな分野の人とつながりネットワークを広げたい」という回答だ。
また、パラレルプレナーは複業から得ているものとしては「新しい視点・柔軟な発想」「社外のネットワークやつながり」「自分の強みや課題の認識」が挙げられ、この設問においても報酬を目的とした回答はごく少数だった。今回の調査・分析を担当したPPJ理事であり、大学の研究員として人材・組織について研究している磯村幸太氏は「『生計を立てる』『副収入を得る』などの項目が上位にランクインすることが多い従来の副業に関する調査との違いが明確に表れている点が興味深い」と話す。
複業の経験が本業における変革に貢献
次に、パラレルプレナーは本業でどのように変革を起こしているのだろうか。パラレルプレナーが本業で取り組む変革の内容の75%が「新規事業創出」またはその「仕組みづくり」であり、「複業が本業の変革に貢献しているか」という問いに対しては、調査対象者全員が「貢献している」と回答した。
本業で生かしているものの具体的な内容としては、「新しい視点や柔軟な発想」「社外のネットワークやつながり」「自分の強みや課題の認識」などが挙げられ、多くのパラレルプレナーが複業を通じて得たものを本業で生かし、しっかり成果へとつなげていることがわかった。
職場のカルチャーに合わせて情報発信することで、本業における成果を生み出す
たしかに複業では、自身の選択で自由に取り組め、新しい知識を得られるかもしれないが、その経験を本業に生かすのは容易ではない。では、パラレルプレナーはどのような行動を起こすことで、本業と複業のシナジーを起こしているのだろうか。この設問に対しては、「職場のカルチャーに合わせる」「自ら発信する」など、本業に配慮しながら、社外の活動・人脈・知見・スキルを発信していくことで本業の成果に結び付けており、社内と社外の立場を行き来することを意図的に行っているという回答が目立った。
前述の磯村氏は「ここぞというときに社外で得た知識やノウハウを発揮するためには本業と複業の立場の使い分けだけではなく、社内での認知・信頼を獲得するセルフブランディングも必要」と語る。また、特筆すべき点として、職場でも複業が認められていくことで、パラレルプレナーが本業においても「発信・提案の増加」「幅広い知見の活用」「経営者目線」など、広い視野や高い視座を以って自ら発信・提案し、仕事の幅を拡大し、その結果としてモチベーションも向上するという、プラスのスパイラルを回していることがわかった。
パラレルプレナーにとって複業しやすい本業の職場環境とは?
「そもそも本業で複業しやすいか」という設問に対しては、約半数が「複業しやすい」と回答した。この点に対し磯村氏は、「着目すべきは、残りの半数は本業における職場環境にかかわらずパラレルプレナーとして活躍している点だ」と語る。また、複業に必要な環境としては、「上司、同僚の理解」「リモートワーク」「副業制度」などが挙がり、上司や同僚への複業に関する定期的な情報共有が、本業・複業を上手く回していくことに一役買っていることが伺える。
「コロナ禍において複業しやすくなったか」という設問に対しては、9割が「しやすくなった」と回答しており、「リモートワークの浸透」「自由時間が増えた」「場所の制約が減った」など、コロナ禍による複業環境に対するプラスの変化が多く挙げられた。
単に収入を得る目的ではなく、複業での経験を本業に生かすという「パラレルプレナー」としての働き方は個人にとって、企業にとって、ひいては社会全体にとっても重要な働き方のロールモデルとなり得る可能性を秘めているのではないだろうか。