モノクロームでモナカを語る無駄ソリッドの世界
近所のコンビニでたまたま手にしたモナカアイスを袋から取り出し、モナカ皮のサーフェスを見つめた時、そのあまりの渋みに心を奪われた。モナカアイスとはかくも美しい物体だったのだ。
モナ美への目ざめ
私のようなうだつの上がらない社会人の日常で数少ない楽しみのひとつが仕事帰りに立ち寄ったコンビニやスーパーで買うデザートのアイスクリームである。
チョコミントやジャイアントコーンにアイスの実、ハレの日のハーゲンダッツなどクールアンドテイスティなアイスクリームを賞味するルーティンの中でふと手にしたのはセブンイ-レブンのオリジナル「塩キャラメルモナカ」。
あまじょっぱいアイスを食べるぞ癒しだぞと取り出した瞬間、何かがグッときた。
我が国ではモナカアイスといえば国民的名品、森永「ジャンボチョコモナカ」のグリッド状に溝が刻まれたあの形がスタンダードとして脳内どころかDNAに刷り込まれているが(言いすぎ)、このモナカプロポーションの渋みはどうしたことだ。
シンプルながら一本調子ではない微細なゆがみが滋味豊かな逸品である。こんな魅力を内包していたのかセブンのモナカは。
この極渋感を切り取って堪能するにはモノクロームの画像で見るのがいいんではないか。
モノクロ画像でこの逸品を形作っている線と面のディテールが顕在化される。フリーハンドで引いたようなよろよろしたラインに表面の微妙なゆがみ、へこみ。名も知らぬ名工によるブリキ細工にも、金ののべ棒にも見える奥深さ、豊穣さ。
3面に別れているような、いないような淡い溝、この微妙に形体が定まらない感じが数寄物魂を揺さぶる。古田織部が現代に生きていたら放ってはおくまい。
モナカアイスの形状愛に目覚めてしまったからには他のモナスナップも見たい。近隣スーパー・コンビニでモナカアイスを集めて鑑賞した。味のレビューは一切無し、一緒にここではないところへ行こう。
頑強な波止場の構造物、森永製菓「チョコモナカジャンボ」
まずはこれ、1972年に発売され、まもなく50周年を迎えようとしている言わずと知れたモナカアイス界の重鎮である。最近ではオリンピックでやってきた海外記者に「最高のコンビニアイスを発見した!」と発信され現代の東方見聞録的な話題を振りまいた。
ひたすら力強い。重厚感と剛性に満ちたフォルムは波止場に鎮座する構造物を思わせる。どんな波もジャンボの前では無力だ。
堂々たる佇まいがキングの風格、ロッテ「モナ王」
発売は1995年とチョコモナカジャンボより後発だがかなりのメジャーどころ。
ダイナミックな8分割の上面に刻まれた繊細な模様の上質感が、まさにモナカの王たる風格。私がロールスロイスを買ったら前面のグリルは「モナ王のようにしてくれたまえ」とカスタムオーダーするであろう。
擁壁のような安心感、ファミリーマート「でっかいバニラモナカ」
山の法面を保護するための擁壁はしばしばワッフルに例えられるがモナカアイス界で随一の擁壁感をたたえているのがこのでっかいバニラモナカではないだろうか。
なんというか、面が広くてひたすら頼もしい。
絹のようななめらかさ、森永乳業「栗入りあずきモナカ」
茶室へと誘われるように開封するとそこにはとても柔らかくやさしい世界が待っていた。
他のモナカよりも白味の強い、上質な絹のようなめらかさのあるモナカ皮。写真の表情もかなり柔和だ。
あふれ出るダンディズム、森永乳業「トリプルチョコモナカ」
私がショーン・コネリーになんかモナカアイスを持ってきてくれと言われたら迷いなくこれを選ぶ。浅黒く、シュッとしたフォルムから漂うダンディズムの芳香にくらくらする。
キリッとしたグリッドは引き伸ばしてロレックスのバンドにしたくなる。ドライマティーニを持った手元にさりげなくのぞかせて、生身の人間がかっこつけられる限界に挑戦したいところだ。
モナカと名乗らないおしゃれ、ブルボン「ルマンドアイス」
丸みを帯びたかまぼこ型モナカのセンターにはブルボンのロゴ、ルマンドという老舗ブランドを今っぽくかわいく昇華させた、まさにデザイナーズモナカ。
このカプセルひとつひとつの中で俺たちのルマンドがコールド・スリープしていると思うと胸が熱い。ルマンドが過去から来て、未来へ行こうとしているのだ。
数々のモナカを観察したが私にとってのグッドデザインモナカ2021はやはり私に目覚めを与え、ここまでの行動を促したセブン-イレブンの塩キャラメルモナカだった。
アイスは瞬く間に溶けだし、モナカもふにゃってしまう。そのようにはかなくて切なく、だからこそ美しいモナカアイスの趣をこうして写真に焼き付けて鑑賞するというのはひょっとしたら野暮な事なのかもしれない。しかし、衝動に駆られてウーバーイーツみたいな撮影ボックスを注文し、モナカを置いてしまう感情も大事にしていきたい。生きるのは難しくて面白い。