菅首相の総裁選不出馬表明
9月3日菅首相は突如自民党総裁選不出馬すなわち首相退陣を表明した。突然の退陣表明ではあるが、最近の全国的なコロナ感染症爆発による自宅療養者激増などの医療崩壊、それによる国民の切実な不安や不満の高まり、内閣支持率の急落、「菅首相では選挙を戦えない」という自民党中堅若手議員を中心とする党内外の批判の高まりなどがその背景であろう。近時の全国的なコロナ感染症爆発に対し、ワクチン接種のほかに菅政権の対策が手詰まり状態であることなどを考えればやむを得ない決断と言えよう。しかし、この1年、菅首相の最大の功績は、コロナ禍という困難な状況下での東京2020五輪の開催と成功であると筆者は考える。日本が五輪開催という国際的約束を果たしたと言えるからである。
岸田文雄氏の問題提起
今回、菅首相退陣を余儀なくさせた最大の要因は、8月26日岸田文雄元外務大臣の総裁選出馬表明である。岸田氏は出馬表明に当たり、自民党役員人事の若返り刷新と党改革などを主張し、中堅若手議員の積極的登用や5年以上も幹事長職にある二階幹事長の事実上の更迭を求めた。これは自民党に対して中堅若手議員を中心に大きなインパクトを与えた。このため菅首相は、総裁選勝利のために「二階更迭」を余儀なくされたが、それに伴う総裁選前の役員人事や内閣改造、早期解散戦略に党内から猛反発を受け、自ら墓穴を掘った。菅首相による解散総選挙では自民党単独過半数割れ、最悪の場合は政権交代の可能性もあると言われていたから、菅首相退陣で自民党の危機を救った功労者は紛れもなく岸田文雄氏であり、同氏による勇気ある問題提起であったと言えよう。
選挙の洗礼を受けない菅首相の脆弱性
菅首相が僅か1年で退陣を余儀なくされたのは、ここにきて感染爆発を招いた後手後手とされるコロナ対応もさることながら、根本的には政権選択である解散総選挙による国民の審判を受けていないからである。日本のような議会制民主主義国家では、全国民から国政選挙で信任されて初めて首相としての「正統性」が認められるのである。安倍政権が7年を超える長期政権となったのは合計6回の国政選挙にいずれも勝利し、国民から政権担当の「正統性」が認められたからに他ならない。その意味では、次期自民党総裁兼首相も総選挙による国民の審判を受けて初めて国民から政権担当の「正統性」が認められるのであるから楽観は禁物である。
全国民が直接首相を選ぶ「首相公選制」
今回の菅首相の突然の退陣表明に対し諸外国政府はいずれも驚きを持って受け止め、早くも、米国政権内では今後における日本の政治が首相の頻繁な交代で不安定化する状態に逆戻りするのを警戒する声が出ている始末である(9月4日付け「産経新聞」)。頻繁な首相の交代は国際的にも国内的にもマイナスであり国益を害することは明らかである。安定的で強力な政権基盤を確立し、内外の諸問題に積極的に対応するためには、適切な時期に国政選挙により国民の審判を受けることが不可欠であるが、それ以上に重要なことは首相の選任が直接全国民によって行われることである。即ち、全国民が直接首相を選ぶ「首相公選制」は任期が定まり政権基盤が安定し強化され国益の増進に極めて有益であり重要であると考える。
具体的には、
- 首相が全国民から直接選ばれるため、政権の「正統性」が担保され、直接全国民の信任を受けた強力な政権運営が可能になる
- 任期が保障されれば安定的長期的な政権運営が可能になる
- 全国民の政治意識、責任感、政治的関心が格段に向上するから、常に国民に目を向けた真に国民本位の政治が可能になる
- 直接全国民から選ばれた国会議員たる首相を国会が指名し天皇が任命すれば憲法改正の必要性がない(憲法6条1項、67条1項参照)
などの大きな利点がある。
「首相公選制」の導入を検討せよ
以上の通り、「首相公選制」は、国益の増進と国民本位の安定した強力な政権運営のために極めて有益であり重要である。今後の日本の国力強化と国民生活の向上発展のためには、早急に全国民的にその導入を検討すべきと考える。ちなみに、筆者は平成4年(1992年)参議院選挙で「首相公選制」を目玉政策として訴えた「進歩自由連合」(田川誠一元衆議院議員代表「進歩党」の後継政党)公認で全国区比例代表選挙に現役弁護士として立候補したことがある。短命政権で終わった今回の菅退陣を教訓として、日本国のために本格的な「首相公選制」の導入を強く望む次第である。