(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書(AR6)の報告書が発表された。いつもはIPCCの報告書が出るたびに「地球が滅びる」と大騒ぎする日本のマスコミが今回は静かだ。
それはそうだろう。「1.5℃を超えたら大変だ」と危機感をあおった2018年の特別報告書(SR1.5)に比べると、AR6はほとんど予測が悪化していないからだ。もちろんそれは人類にとってはいいニュースなのだが、危機をあおりたいマスコミや「カーボンゼロ」で儲けたい業界にとっては困ったことだろう。
「2100年までに3℃上昇」というコンセンサス
IPCCの第1作業部会(自然科学的根拠)の報告書の公表は8年ぶりで、世界66カ国から234人の研究者が執筆に参加した。これはまだドラフトで、他の作業部会も含めて討議され、来年(2022年)9月に最終報告書がまとまる。
今回の報告書が従来と違うのは「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定したことだが、これは今さらという感じだ。一昔前までは太陽黒点とか宇宙線の影響だという説もあったが、いま人為的温暖化を否定する人はほとんどいない(トランプ前大統領のような大物はいるが)。
むしろ問題は、そういう「温暖化否定論」との論争が続く中で、温暖化の実害はどれだけ大きいのか、そして温暖化を防ぐコストはその効果に見合うのか、という「温暖化懐疑論」がタブーになってきたことだ。
環境省訳では、2100年までの気温上昇については、温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は2℃を超えると書いている。
現在までに工業化前から1.09℃上昇したので、合計すると地球の平均気温が工業化前から約3℃上昇するということだ。これは図1のSSP2-4.5シナリオに対応し、最良推定値で2.7℃上昇する。この予測はAR5(第5次評価報告書)のRCP4.5の最良推定値1.8℃より大きいが、SR1.5の2.5℃とほとんど変わらない。