小説家、平野啓一郎氏はAIと人間の差異について、次のように語ります。
「AIと人間の大きな違いは、人間は身体を持っているので、物を考えるにしても何にしても、常にこう、身体的な痛みとか心地よさとか、そういうことと結びつきながらものを考えてるんですよね」(平野氏)
既にさまざまな分野で活用されるようになったAI。AIと創造性の関係は、これからの創作を考える上で避けては通れない話題です。
テクノロジーの祭典、「TechGALA Japan」

2025年2月4日(火)~6日(木)にわたって名古屋で開催されたテック・イベント「TechGALA Japan(テックガラジャパン)」において、「AIと創造性」というテーマのセッションが行なわれました。
登壇者は、株式会社MAGUS / ARTnews JAPAN編集長の名古摩耶氏、小説家の平野啓一郎氏、株式会社THE GUILD 代表取締役、インタラクション・デザイナーの深津貴之氏の3名。
名古氏が進行をする形で、AIが創造的プロセスに与える影響を探りながら、創造性の新しい可能性や、AIによる創作の課題などが議論されました。
クリエイターが考えるAIの活用法

セッションの中でも、特に興味深く感じられたのは、AIの活用についてのトーク。
平野氏は次のように述べます。
「『平野さん、AIを使って小説とか書かないんですか?』とかって質問されますけど、自分でやるのは楽しいからやってるのに、わざわざそのAIにその一番面白い部分をやってもらうっていう発想がないんですよね」(平野氏)
そして、その上で
「ビジネスとしていかに売れるコンテンツをどんどん出すかみたいな、効率性とかを考え出したときに、AI活用するみたいな話っていうのが出てくる。」「これからものを作っていく人たちは、やっぱり少なくとも(AIの)部分的活用ってかなり巧みにやっていくんじゃないかなっていう風に思うんですね。」(平野氏)
といった言及をしていました。
これに対し、深津氏は
「やりたいところをAIにやらせるなというのをよく言っていて、AI導入で一番にみんながやりたいところをAIにやらせると、たとえ成果が出ても、チームが病んだり、やめちゃったり、アンチAI運動が起きちゃったりするんですね。なので(AIを)導入するときの初手は、チームがやりたいことをやるために、やらなきゃいけなくて、けど俺やりたくねえなというところを(AIで)全部やるということをお勧めしたいですね。」(深津氏)
と述べており、加えて、
「やりたくないなっていう部分がどんどんAIに任されることで、その人がやりたいところだけやれる。そのせいで、極端に尖った生き方とか、極端に尖った作り方をする人が出てくる感じで、AI時代の創作は生まれてきそう」(深津氏)
といった私見を語っています。
AI時代における創造について、「創造のイニシアチブを人間が保持する」といった点は、重要なポイントなのかもしれません。
創造の本質ってなんだろう
他にも興味深い議論が交わされます。名古氏が提起した、「人間にとっての創造性の本質」という話題について平野氏は次のように述べました。
「人間がものを作るということが基本的には創造性だと思うんですよね」(平野氏)
そう語った上で平野氏は、「その作品の影響からまたいろいろなものが発生してくる、そのオリジンになり得る可能性」といったオリジナリティの重要性について言及します。
「すでに自分がやりたいことをみんながやってるのであれば、別に僕は小説を書く必要ないので、やっぱり『自分だとこうするのに』っていうフラストレーションが創作の原点になるので、そういう意味では自分がやっていることが、自分が始めたことであるといいなとは思います。」(平野氏)

一方で、深津氏は次のように語ります。
「歴史上探索されていない、あるいは探索されている数の少ない空間に飛び込んで、その空間の中で価値のある情報資源、創作資源を発見してくるというのが、いわゆる創作ではないのかなというふうに考えています」「前例のないものを考える仕事は基本的に創作かなと」(深津氏)
二人の意見から、創造性という概念の根底には、「新規性」や「独自性」、「フロンティア精神」といった要素があるのではないかと考えさせられました。
AIと人間の違い
AIと人間の創造について、平野氏が語った印象的な言葉がこちらです。
「AIと人間の大きな違いは、人間は身体を持っているので、物を考えるにしても何にしても、常にこう、身体的な痛みとか心地よさとか、そういうことと結びつきながらものを考えてるんですよね。」(平野氏)
平野氏は、AIと人間を比較して、フィジカルな体験ができるという違いを指摘、AIと人間における創作のプロセスの差異について言及します。肉体的な経験の享受は、現時点では人間の特権なのかもしれません。
このセッションを通じて、「AI時代の創作においては、AIと人間の得手不得手を踏まえた、適切な分業が鍵になっていくのではないか」ということを考えさせられました。これからの未来では、創作の本質を見据えた上での、AIとの協業が重要なポイントになりそうです。
Source: TechGALA