こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトです
Amazonとメタ(Meta)は、小売でのプレゼンスを拡大する計画の概要を明らかにしてから間もなく、実店舗の拡大を一時中断しようとしている。
AmazonのCEOを務めるアンディ・ジャシー氏は第4四半期の決算発表のなかで、Amazonフレッシュ(Amazon Fresh)食料品店の展開を停止し、同チェーンの差別化と経済価値を改善させる新たな方法を検討していると発表した。一方、インサイダー(Insider)の報道によると、メタはほんの1年前に、最初の小売店舗をオープンしたばかりだが、小売の展開計画を撤回するという。メタの店舗責任者であるマーティン・ジリヤール氏が今年前半に同社を退職し、後任は決まっていないとも報じられている。
Advertisement
本業の安定化に集中
テック企業である両社は、この数四半期にわたって財務業績の改善に苦戦している。メタは4月、AppleのiOS14アップデートによってビジネスが大きな影響を受けたことで、3四半期(9カ月)にわたって減益が続いたが、初めて3%の増益を報告した。一方で、Amazonは増益を報告したものの、第1四半期のeコマース売上は横ばいだった。
主な収益の柱が不安定なままであり、経済状況はますます予測しにくくなっているなか、実店舗の展開は後回しにされてきた。ほんの数年前、AmazonがAmazonフレッシュの運用を開始し、メタは小売への参入を計画していると報じられていた頃、両社は投資回収がすぐに得られる保証がない野心的な実店舗小売プロジェクトを開始したことになる。しかし、Amazonフレッシュの立ち上げと前後して、Amazonは2020年7月の決算発表で、前年同期比40%の売上増を発表した。一方、メタが実店舗を開設するかもしれないという報道が飛び交っていた2021年後半、同社の第3四半期の収益は前年同期に比べて35%も増加していた。
しかしここ数カ月、これらのテック企業は大きな打撃を受け、利益の見込めない投資を正当化することはさらに困難となってきた。
「我々は、自社が望む差別化と経済価値に匹敵するものを獲得するまで、Amazonフレッシュの実店舗を拡大しないと、この1、2年のあいだに決定した。しかし、2023年にはそれが得られるという希望を持っている」と、AmazonのCEOを務めるアンディ・ジャシー氏は2月の決算発表で投資家やアナリストに語った。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は、これらの企業は現在、中核事業を安定化するために、支出にはより慎重になっていると語る。たとえばAmazonは5月、同社のレジなし技術を採用したAmazon Goストアを9店舗閉店した。メタは3回に分けたレイオフ計画の最終ラウンドを5月に実行し、1万人のポジションに影響を与えた。
「両社とも、事業のさまざまな部分を切り詰めている。2年前ならこれらの活動に投資する余裕があったが、今はその余裕がない」と、リプスマン氏は述べている。
メタバースへの関心の薄れも
Amazonとメタが店舗の展開を保留することを決定した背後には、それぞれ個別の理由も存在する。メタの場合、さまざまな国への出店を計画しているとニューヨークタイムズ(The New York Times)が報じたが、そうした実店舗小売への展開はいまだ実験的なものだとリプスマン氏は述べる。
これらの店舗では、たとえばスマートビデオチャットのデバイスであるポータル(Portal)や、スマートグラスのレイバンストーリーズ(Ray-Ban Stories)、仮想現実ヘッドセットのメタクエスト(Meta Quest)といったメタバース商品、販売し、買い物客をバーチャル世界に引き入れようとしていた。しかしこの数カ月、ウォルマート(Walmart)やディズニー(Disney)などの大手小売企業がメタバース戦略から後退させており、メタバースへの関心が衰えつつあることを示唆している。ある匿名の従業員がインサイダーに語ったところによると、店舗を訪れる顧客は「多い日で」60人だという。
Amazonにとって、Amazonフレッシュのハイテクなコンセプトは、価格に敏感な買い物客により多くの価値を提供できる可能性があり、より実績がある食料品業者との苦しい戦いに直面していると、リサーチ&コンサルティング企業のカンター(Kantar)でシニアソートリーダーを務めるバリー・トーマス氏は語る。同社は第4四半期に7億2000万ドル(約1040億円)の減損損失を計上したが、その大部分をAmazonフレッシュとAmazonGoが占めていた。
「同社は、顧客の共感を集め、差別化を行えるような、適切な店舗のコンセプトを見つけられていない。解決策が出てきていない」と、トーマス氏は述べている。
競合他社に後れを取るリスク
実店舗の展開を撤回することによって、これらの業界大手は、小売の販売網拡大を続けている競合他社に後れを取るリスクがあると専門家は語る。
ピュブリシスサピエント(Publicis Sapient)で北米小売業界の責任者を務めているスディップ・マズムダー氏は次のように語る。「実店舗を拡大するには正しい戦略が必要だ。これはほかの小売企業にも当てはまることで、ほとんどの小売企業はさまざまな形式の店舗について実際に考えている」。
たとえば食料品の分野では、各社がさまざまな店舗形態を試みている。スーパーマーケットのマイヤー(Meijer)やウェグマンズ(Wegmans)はより小規模な店舗形態を発表し、エイチイービー(H-E-B)やハイビー(Hy-Vee)は、スーパーセンターを立ち上げた。Googleも昨年、新コンセプトの近隣型店舗をオープンした。
「物理的な小売は今後もなくならないし、より多くのデジタル対応ツールやさまざまなフォーマットによって、さらに改善されていくだろうと信じている」と、マズムダー氏は述べている。
[原文:Tech giants Amazon and Meta hit pause on retail expansions plans ]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon