映画「恋はデジャ・ブ」のなかで同じ日を繰り返し体験する主人公を演じたビル・マーレイのように、いつの間にかマーケターたちは繰り返し起こるジレンマに陥っている。
もちろん、彼らは同じ日を繰り返すわけではない。GoogleやFacebookらが約束した成果を、デジタル広告は本当に実現できているのだろうかという永遠の問いを繰り返しているのだ。
今日、こうしたマーケターの懸念をAIが再燃させている。
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彼らは「ロボットを信じる」というある意味ギャンブルのような行為に一抹の不安を抱いている。というのも、それは貴重なデータとキャンペーンの目標をどう達成するかという決定権を、AIシステムに委ねてしまうことにほかならないからだ。
AIにまつわるブラックボックス問題
これは、Googleのパフォーマンスマックス(Performance Max)やメタ(Meta)のAdvantage+、さらにはTikTokのスマートパフォーマンスキャンペーン(Smart Performance Campaigns:SPC)など、すべてのプラットフォーマーと彼らが提供するAI搭載の広告ツールに共通する問題だ。いまやどのプラットフォームも、オーディエンスターゲティングから予算配分まで、キャンペーンマネジメントのあらゆる側面をAIを活用して処理している。
マーケターが担当するのは、キャンペーンのパラメータ、データ、アセットをアルゴリズムと共有することだけで、その先の最適化プロセスはアルゴリズムが引き継ぐ。しかし、このプロセスの仕組みについては、マーケターにはまったくの謎だ。それはあたかも、種明かしをしてくれない手品師に広告キャンペーンを任せるようなものである。
北米ブレインラブズ(Brainlabs)で最高プロダクト責任者を務めるジェレミー・ハル氏は、「歴史的に、そして大部分はいまも、この信用の問題はGoogleが予測AIツールをめぐって直面してきた主要な課題でもある」と指摘し、こう続けた。「今年のGoogleマーケティングライブ(Google Marketing Live)で、Googleは透明性を改善する歓迎すべき機能をいくつか発表した。広告主の要求に適うほどのものではないが、それでも歓迎すべき可視性であることに変わりはない。Googleにとってはきわどい綱渡りでもある」。
GoogleのパフォーマンスマックスのようなAIツールの「ブラックボックス問題」に対する懸念は、いまに始まったことではない。しかし、TikTokのSPCのような新興のツールが出てきたことで、この問題に新たな光が当たることになった。
アルゴリズムに向けられる疑念
598ロサンゼルス(598 Los Angeles)はTikTokとFacebookを専門に扱うエージェンシーだ。創設者のイグナシオ・ヴァンジーニ氏は、「TikTokのSPCキャンペーンがコンバージョンを犠牲にしてエンゲージメントを優先しているのではないか」との疑念を抱き、強く警戒した。AIのアルゴリズムがもっとも適切な広告クリエイティブを選択し、最適化できていないことは明らかだった。
この現実に失望したヴァンジーニ氏は、SPCキャンペーンを捨てて、画像生成AIのミッドジャーニー(Mid Journey)に乗り換え、もっとパフォーマンスの高いクリエイティブを開発することにした。するとどうだろう。新しく作成した広告はSPC広告を圧倒し、コンバージョン率が4倍から5倍に跳ね上がった。
理想を言えば、ヴァンジーニ氏はこれほど思い切った手段を取る必要はなかったかもしれない。アルゴリズムを精査し、なぜ広告がそのような方法で最適化されているのか調べ、論理的な結論を導くこともできたはずだ。しかし、当のAIシステムの不透明さゆえに、ヴァンジーニ氏はそうした判断に疑念を抱いてしまった。同氏の置かれた状況から、基本的なプロセスを明確に理解するよりも、自分の直感を信じ、別の方法に頼らざるを得なかったのだ。
これでは、マーケターたちは永遠に解けないパズルのなかに閉じ込められたようなものだ。ブラックボックス化されたシステムの謎だらけの仕組みに頭を悩ませるだけで、明確な答えにはどうしてもたどりつけない。
未知のもの信じるか、疑い続けるか
一方、グロースマーケティングエージェンシーのフライテッドコー(Flighted.co)の創業者であるピーター・チェピガ氏は、「TikTokのスマートパフォーマンスキャンペーンは好成績をあげている。その理由の第一はクリック単価が非常に安いことだ」と話す。「コンバージョンキャンペーンでクリック単価(CPC)28セント(約36円)は非常に安価だ。
2番目の理由は非常に低いインプレッション単価(CPM)を実現できること。これはCPCの低さの理由ともなっている。そういうことで、この在庫は相当に安価だと思われる。TikTokはどの広告に予算を配分し、どのオーディエンスに表示させるかをコントロールしているというが、そうとばかりは言えないようだ」。
チェピガ氏もSPCに100%の信頼を寄せているわけではない。実際、長期的なROIについて確かなことを言うには時期尚早であり、何がなぜうまくいっているのか(あるいはいっていないのか)明確に理解しているわけではないと認めている。
マーケターたちは難しいダンスのステップを踏まされている。未知のものにすべてを委ねたり、そうかと思えば裁量権を切望したり。それでもたいていは、決定権の放棄と影響力の行使のあいだを行き来しながら、結局はグレーゾーンのどこかに落ち着くことになる。
別の言い方をするなら、彼らは問題を回避する対処法を探しているのだろう。
結局はプラットフォーマーが提供するものを信じるしかない
独立系メディアエージェンシーのザ・セヴンスターズ(the7stars)でパフォーマンス広告の責任者を務めるミグレナ・ディミトロヴァ氏はこう話す。「カスタムソリューションで追加的な知見を箱から出す工夫はしたが、我々の課題は、Googleのパフォーマンスマックスが真にビジネス的な意味でクライアントに増分的な価値をもたらしているのか理解すること、どこかほかの場所のパフォーマンスを犠牲にして得られた価値ではないことを確認することだ」。
昔から「言うは易く行うは難し」というが、ここでもそれは当てはまる。ディミトロヴァ氏と同氏率いるチームはさまざまな市場でジオテストを行い、パフォーマンスマックスキャンペーンによって増えた分の価値を調べた。ディミトロヴァ氏のようなマーケターは、これらAIツールの内部構造をより完全に可視化し、コントロールしたいと考えている。
「検索連動型広告を担当するマーケターにとって、これは厄介な問題だ。というのも、我々サーチのスペシャリストはクライアントに代わって執り行う仕事に関して、ほかよりはるかに大きな決定権と説明責任を持たされることに慣れているからだ」とディミトロヴァ氏は述べている。「Googleは製品報告とターゲティング機能の改善に取り組んでいるが、現状では、我々のクライアントの多くがより広範なパフォーマンス広告のプランニングを補完する戦術として、パフォーマンスマックスを活用している」。
しかし、これはいずれ変わるときが来る。そしてそのとき、ディミトロヴァ氏やチェピガ氏のようなマーケターは、不安や戸惑いを感じながらもそこに慰めを見いだすしかない。GoogleやTikTokら、プラットフォーマーが提供する特定の広告がAIを通じてのみ実行できるというのだから、この変化を受け入れる以外に選択肢はないのだ。遅かれ早かれこうしたツールが広告プロセス全体を自動化することは不可避であり、マーケターたちもそのことを認識している。重要なのは、潮目の変化に適応し、業界の進化を最大限に利用することだ。
何もわからない状況のFacebook
この「選択肢のない状況」がもっとも顕著となっているのがFacebookだ。広告主が広告効果について結論を出すのに必要なデータの共有に、Appleが厳しい縛りをかけて以来、Facebookでは、広告主が広告のパフォーマンスについてまったく知りようがない状態に置かれている。
そこで登場したのがFacebookのAdvantage+だ。効果測定の問題を背景に、このツールへの支出は増えている。その結果、広告の成否がまったく分からない状態から、おそらく成果を上げているだろうという状況に進みはしたが、その主張を都合よく立証することはできていない。
広告の効果や価値を具体的に証明できないまま、マーケターたちは広告に多くの資源をつぎ込まされる。不透明な濁り水にまたも足を掬われるとすれば、なんとも皮肉なことである。
Seb Joseph and Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)