一部のパブリッシャーのコマース事業にとって、2022年の第1四半期は絶好調とはお世辞にもいえない結果となった。この業績不振を打開するための一手として、いくつかのメディア企業は、アフィリエイト事業に新たな価格設定モデルを導入しはじめた。従来とは異なる価格戦略をテコに提携する小売企業を増やし、オンラインショッピングにおける消費者行動の変化を有利に活用したいと期待しているようだ。
CPC(クリック単価)と呼ばれるこの価格設定モデルでは、アフィリエイト記事の読者が実際に商品やサービスを購入したか否かにかかわらず、小売企業のウェブサイトや商品ページへのアクセス量に応じて、パブリッシャーに少額の手数料が支払われる。従来のアフィリエイトプログラムでは、パブリッシャーのウェブサイトに貼られたリンクから購入が発生すると、パブリッシャーに販売手数料(コミッション)が支払われる。通常、このCPA(顧客獲得単価)モデルに比べると、CPCモデルで得られる収入はずっと少ない金額だ。複数のメディア企業の幹部によると、CPCで得られる利益は平均して3000ドル(約41万円)から5000ドル(約68万円)が相場という。
それにもかかわらず、バイスメディア・グループ(Vice Media Group)のコマース事業やリーフグループ(Leaf Group)が運営するハンカー(Hunker)は、それぞれCPCモデルを試験的に導入している。両メディアの経営幹部は、提携する小売ブランドを増やすことにより、手数料収入の低下をカバーできると述べている。さらに、消費者が購入以前に関心を示した最新の傾向や製品など、新たなインサイトも獲得できるとしている。
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一方、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)のワイヤーカッター(Wirecutter)をはじめ、CPCに懐疑的なコマースサイトも少なくない。実際、NYTのコマース部門ではもっぱらCPAモデルを選択している。同紙の首脳陣は、CPCモデルでは小売企業との直接的なやりとりが多いため、担当部署の作業負担が大きくなりすぎると判断したようだ。
費用対効果の検討
ワイヤーカッターのコマース部門を担当する執行役員のレイラニ・ハン氏によると、ワイヤーカッターがCPCの価格設定モデルを試験的に運用した際、案件単位の収益は平均で約3000〜5000ドル(約41万円〜68万円)だった。この程度の稼ぎでは継続するに値しないとして、CPCの打ち切りが決まったという。ハン氏はCPAモデルによる平均的な収益について、具体的な数字を明らかにしていない。しかし、商品の価格とコミッション率にもよるが、CPAモデルの収益はCPCよりもずっと高くなる傾向がある。
「CPCモデルは作業負担が大きすぎる」とハン氏は話す。「新規のパートナー企業を設定し、サイトに載せて、最適化するなど、その大部分が手作業だ。比較的小規模なブランドにこれだけの手間をかけるなら、機会費用と社内のリソースを照らし合わせてよく検討する必要がある。骨折り損のくたびれもうけでは話にならない」。
一方、ハンカーによるCPCの試験運用はまだ初期段階にある。ハンカーでは、CPAモデルを運用しているアフィリエイト管理ネットワークに限ってCPCモデルを採用しているという。その理由について、ハンカーのシニアバイスプレジデントでジェネラルマネジャーのイヴ・エプスタイン氏は、「小売企業と直接やりとりする場合とは異なり、製品や流通チャネルなど、ごく限られた要素に基づいてCPCとCPAを容易に切り替えることができるから」と説明している。
たとえば、ソーシャルメディアのようなプラットフォームは、消費者によるクリック数が多い割にはコンバージョンが少ないという傾向がある。そのため、「ニュースレターやウェブサイトを含むすべての配信プラットフォームでCPCを導入するよりも、ソーシャルで試験的に運用する方が理に適う」とエプスタイン氏は述べている。
さらに、「CPCモデルのテストは編集に準ずる業務と見なすべきだ」とエプスタイン氏は話す。「オーディエンスの興味や関心、意図などについて、編集者レベルの理解を必要とするからだ」。
収益とは別の価値を見出せるか
エプスタイン氏によると、CPCのレートはCPAのコミッション率よりもはるかに低いというが、具体的な価格差は明らかにされなかった。それでも、CPCモデルを過度に使ったり、不適切なプラットフォームで使用すると、収益の機会を逃すことになりかねないと同氏は述べている。
一方、ヴァイスメディアグループで最高デジタル責任者を務めるコーリー・ヘイク氏も、CPCモデルの利益がざっと3000〜5000ドル(約41万円〜68万円)だというのは妥当な線だと話す。その反面、アフィリエイトの記事で取り上げる製品やブランドやトレンドに対するオーディエンスの反応は付加価値の高い知見やデータをもたらすため、CPAに及ばない収入の不利を補ってあまりあるとも述べている。
「CPCによる取引も、積み重なればそれなりの収益にはなる。しかし、戦略的な視点から、『これは我々のオーディエンスの関心を呼ぶだろう』とか『この製品は別の方法で追求したほうがよさそうだ』といえることのほうが有意義だ」。
ヘイク氏によると、現在、ヴァイスメディアグループのアフィリエイト収入の大部分(ざっと4分の3)を占めるのはCPAベースの報酬だという。次に大きいのが定額料金の案件で、その実施件数は、2021年第1四半期から2022年第1四半期の1年間で1000%近く増加している。残りを占めるのがCPC案件だ。全体として、同社のコマース事業の収益は2021年の同時期から累計で40%増となっている。
新規ブランドの開拓
ヘイク氏によると、CPCモデルの実験的運用は、「リファイナリー29(Refinery29:R29)」のコマース事業で8ヶ月前に開始された。アフィリエイトネットワークに所属しない、またはAmazonのようなマーケットプレイスに出店していない新規のブランドや中小の小売企業と連携する手立てとして導入された。
ヴァイスメディアグループのようなメディアのオーディエンスは、より新しいブランド、よりトレンディなブランドに関心を寄せる。ヘイク氏によると、新しい製品やブランドが出てくると、リファイナリー29のようなメディアに試してほしいと読者たちは期待するのだという。そのため、取引相手をアフィリエイトネットワークに参加する大手の小売企業に限定すると、小さなブランドとの取引で得られるコマース収入を取りこぼすことになりかねない。
「新しい製品でも、100%好意的なレビューが期待できそうにない場合、CPCモデルを採用する。結局のところ、金を払う価値の有無を決めるのはオーディエンスだ」と、コマースおよびパートナーシップ担当バイスプレジデントのサマンサ・ベイカー氏は述べている。なお、同氏は、米DIGIDAYが5月に開催したコマースウィークで登壇し、このCPCモデルについて講演した。
これら小規模なブランドのウェブサイトへのクリックから得られるデータも、ヘイク氏のチームにとっては価値が高い。
「CPCモデルから得られるデータは、注目に値する小売企業や、オーディエンスとのつながりを持つブランドを判断する材料となる。注目に値する、あるいは読者とのつながりがあるなら、取引の方法を見直すべきかもしれない。試行錯誤を重ねるには最高の環境だ」とヘイク氏は話し、さらにこう続けた。「CPCモデルの実験的運用が成功すれば、ゆくゆくはこれらのブランドを高収益のCPAモデルへと移行させることもできる」。
これまでのところ、ヴァイスメディアグループ傘下のブランドでCPCモデルを採用しているのはR29だけだ。ヘイク氏によると、大規模に知見を収集するには最適のメディアだという。
デジタルマーケティングの安価な代替策
デジタルマーケティングに代わる安価な手段として、あるいはFacebookやインスタグラムといった大手プラットフォームの制限事項を回避する方法として、CPCモデルに期待を寄せる小売企業もある。
たとえば、ベイカー氏によると、セクシュアルウェルネス(性の健康)など、「タブー視」されやすいカテゴリーは、CPCモデルを使いたがる傾向が強いという。「基本的に、このようなブランドは伝統的な広告を出すことができない。彼らがCPCモデルに求めるものはブランド認知であって、必ずしもコンバージョンではない」と、ベイカー氏はコマースウィークの講演で述べている。
その反面、どのコンテンツがコンバージョンにつながったかという知見は、CPCモデルでは得られない。そして、物販事業の収益拡大を優先事項に掲げるワイヤーカッターにとって、それはもっとも重要な成功指標のひとつである。
ワイヤーカッターのハン氏はこう述べている。「小規模なブランドが手っ取り早くアフィリエイトに参入し、ほかの方法ではアクセスできないパブリッシャーにアクセスする方法として、CPCは有効かもしれない。しかし、そこに長期的な価値があるかと問われれば、私自身は懐疑的だ。アフィリエイト記事と売上を関連付けるデータは、CPCでは非常に限られる。成功につながる要因が分からなければ、予算の無駄遣いになりかねない」。
そもそもアフィリエイトは信頼できる手段か?
デジタルマーケティングとeコマースのコンサルタントであるベン・ゼットラー氏の顧客は、月商100万ドル(約1億4000万円)に満たない小売企業が中心だ。Facebookやインスタグラムのデジタル広告は、CPMが高騰する一方、コンバージョンは少しも向上しない。中小の小売企業にとって、この形態のマーケティング施策はもはや持続不可能だとゼットラー氏は話す。
アフィリエイトマーケティングは読者にリーチするための代替的な手段ではあるが、問題は、予算の柔軟性に欠ける小売企業が大きな方向転換を決心するほどに、これは信頼できる手段なのかということだ。
「アフィリエイトマーケティングは難しい。最終的に、想定外に多くの売上や販売手数料をもっていかれることもある」とゼットラー氏は話す。「私の見る限り、ブランド認知の向上を狙ってアフィリエイトマーケティングに乗り出すのは中小クラスのブランドではない。こういうブランドが知りたがるのは、もっぱら『5000ドル(約68万円)のマーケティング予算でどのくらいの売上が見込めるのか』ということだ」。
Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)