埼玉県民が初めて「ムーミンバレーパーク」に行ってみた結果 → しっかり不気味で良かった / 本質的ムーミン谷

ロケットニュース24

埼玉には何もない」 よく言われることだ。筆者も人生の30%くらいの期間を埼玉県民として生きてきたが、ぶっちゃけ「何もねぇな」と思っている。

例えば外国人に日本で観光すべき県についてプレゼンしろと言われたら、たとえ地元民としての忖度を加味しても埼玉県を勧めることは無いだろう。なんかこう、唯一無二な観光スポットを思いつかないんだよなぁ。

そう思いながら埼玉県で生きていたら、先日ムーミンバレーパークからイベントのプレスプレビューの案内が来た。そういえば数年前にできていたな。完全にスルーしていたが、もしかしたら埼玉にとってビッグスポットかもしれない。行ってみることに。

・SNSでたまに見る傘のヤツ

そのイベントとは、「ムーミン谷とアンブレラ」。木々の間に傘が大量に吊るされているヤツだ。今年で3回目だそう。

案内を見て初めて把握したのだが、筆者も何度かSNSでその映えまくりな写真を見たことがあった。まさか埼玉だったとは

2022年も4月27日から7月3日の期間で開催されるということで、筆者の参加したプレスプレビューはそのPRのためだ。ということでその様子をお伝えすると、こんな感じ。


入口から程ないところに約1200本の傘が吊るされており、非常に映えているぞ!


ちなみに、傘の中にムーミンのキャラが紛れていたりする。


この日はあいにくの空模様で、曇のち激しい雨という天気だったが、それでもかなりイイ感じな光景だった。埼玉の中では最も気軽に映えるスポットのうちの一つだろう。

立地は埼玉民的にも比較的「奥地」なイメージのある飯能だが、実は池袋から西武池袋線を使えば乗り換えなしで1本で行けたりする。筆者のようにネットで写真を見て気になっていた方は、是非とも訪れてみて欲しい。

1デーパスが、通常は大人が3200円で、子供は2000円。前売り販売ならそれぞれ200円安くなる。営業時間は平日10時から17時まで、土日祝日が10時から18時までだ。


・ムーミン谷

ということで、イベントの紹介はここまで。実はムーミンバレーパークが本質を見せ始めるのは、この傘のゾーンを抜けたあとだ

先に断っておくと、筆者はそこまでムーミンに詳しくない。子供の頃にTVで「楽しいムーミン一家」をなんとなく見ていた程度。メインキャラや一部のストーリーは把握しているが、熱心なマニアやファンではない。

その浅い理解ゆえか、ムーミンバレーパークについても、きっとなんか安直なキラキラ感やハッピー感を演出した「よくあるテーマパーク」なのだろうと思っていた。

ほら、奥の方にムーミンの家とかあるし、やっぱりそういう感じなんだ。それはそれで楽しむぜ! わぁい!


・シリアス

……しかし、それはこの家のある広場的なエリアくらいまで。率直かつ正直に感じたことを述べると、ここはシリアスにムーミン谷だった。どういうことか述べていこう。

ムーミンたちは、ムーミン谷なる自然豊かな場所に暮らす、よくわからない存在だ。そもそも彼らは、キラキラなテーマパークに暮らしているわけではない

ムーミンの暮らしは様々な危険や恐怖、苦悩に晒されることも多く、それを乗り越えることもあれば、あるいは、なるようにしかならず順当な結末を迎えることも。


物語の核にあるのは無条件に供与されるキラキラ感やハッピー感ではなく、むしろ、時にシビアなものから得られる学びや、哲学であるように思う。したがって、ムーミンの世界を真面目に再現しようとすれば、それは「よくあるテーマパーク」とは異なるものになるのが道理。


パーク内には「ストーリーの扉」という小屋的な施設が所々にあり、そこではストーリーの音読が流されているのだが、その物語のチョイスも、けっこう憂鬱なものが選ばれていたりする。

例えば灯台のエリアで流れている「ムーミンパパ海へいく」。このストーリーでは、プライドを拗らせたパパが、突如としてファミリーと共に孤島に移住を決行する。

しかし過酷な自然環境にやられてファミリーは分裂し、それぞれが心を閉ざしていく。「ストーリーの扉」の音読では、ママがやつれていくまでを抜粋するというチョイス。キレッキレなドライテイストだ。

筆者は足を止めて聞き入ったが、たぶん人を選ぶと思う。じゃあ何もかもがそんな感じなのかというと、そうではない。

パーク内にある最も分かりやすくエンジョイできるものを挙げるとすれば、「ヘムレンさんの遊園地」という立派なアスレチックだろうか。

アラフォーの筆者的にも楽しそうに見えたが、しかし安全のためか対象年齢は6歳から12歳と厳しめ。そこに含まれる年齢の子供なら大いにエンジョイできると思うが、外れた子供は何もできない。


・不気味

他には、年齢を選ばない「KOKEMUS」という、かなり気合の入った展示施設もあるが……まあ、この施設こそがこのパークの本質を物語っているのだろう。

非常に原作基準な、子供によってはトラウマになりかねないレベルで不気味な展示が待っている。


とはいえ、無意味に悪趣味なものではなく、その先にあるものに導くような演出を感じた。たぶん繊細な子供の感情を揺さぶることで表面的では無い冒険をさせ、何らかの学びや、内面的な成長に至らせようというものではないか……と解釈したのだが、どうだろう。

熱心なムーミンファンであれば、最初からそういう世界観を期待してパークを訪れるのかもしれない。しかし、筆者は先述のようにかなりのニワカ

よくある量産型テーマパークだと思っていたため、想定外の不気味さや不穏さに少々驚かされた。が、落ち着いてムーミンがどういう物語だったかに目を向けると、そこには納得しかない


・つまりムーミン谷

それに、その不気味さと不穏さの質が素晴らしいのだ。もし仮に、それらが妙に盛られたエンタメ感あるホラー寄りのものであったら、きっと死んだ豚の昼寝の夢よりも救いようのないほど台無しになっていたと思う。

だが、ここに漂う不気味さと不穏さは、本能的に不気味と感じてしまうものから流れ出る無添加な不気味さと、その存在によって自然に生じる不穏さ……とでも言うような、飾り気のないもの。絶妙な塩梅に上手く仕上がっている。

これ等を端的に換言するなら、ここはマジにムーミン谷ということだ。本質的な冒険が表現されていると思う。

はっきり言って人を選ぶというか、ムーミンファン特攻に極振りした仕様と思わなくも無い。だが、こうも無造作に飾り気のないダークなものを垂れ流しているテーマパークというのは、唯一無二ではなかろうか。

どうやら「何もない」と思っていた埼玉には、ムーミン谷があったようだ。いやでも、ムーミン谷っていうのはある意味「何もない」ところから、真に重要なことが生じる世界な気がしなくもないし……。

参考リンク:ムーミンバレーパーク
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.

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