昨年、大企業による成長中のD2Cアクティブウェアブランドの買収が多く行われた。スペリー(Sperry)を所有しているウォルバリンワールドワイド(Wolverine Worldwide)が、2021年8月にスウェティベティ(Sweaty Betty)を4億1000万ドル(約575億円)で買収したのはその一例だ。また、リーバイス(Levi’s)は、同じ月にほぼ同額でビヨンドヨガ(Beyond Yoga)を獲得している。
そして、インフレの圧力やパンデミック後の購入客の気持ちが快楽的なものに向かっているという事実にもかかわらず、アクティブウェアの売上は相変わらず好調である。アウトドアボイシーズ(Outdoor Voices)は収益を上げており、パンデミック前の4000万ドル(約56億円)から2022年の9000万ドル(約126億円)に増加。ヴオリ(Vuori)は昨年に資金調達ラウンドで4億ドル(約561億円)を獲得、40億ドル(約5611億円)以上と評価された。ルルレモン(Lululemon)は2021年上半期から2022年上半期にかけて収益が66%アップ。投資家や大企業の多くは現時点で大規模な買収をためらってはいるものの、収益性が高く安全なカテゴリーは常に潜在的な買い手の関心の的である。この1年ほどでM&Aの可能性があるアクティブウェアブランドを以下に挙げる。
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アウトドアボイシーズ(Outdoor Voices)
社歴9年のアウトドアボイシーズは近いうちに買収される可能性がもっとも高いアクティブウェアの1社だ。すでに巷では噂が飛び交っている。ブルームバーグは8月中旬、同社が売却を検討していると報じているが、売却の代わりに外部からの投資を求める可能性もある。
ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)によると、アウトドアボイシーズは収益を出し始めており、新しい所有者によって収益性を確実に高められるだろうと考えられている。収益は9000万ドル(約126億円)で、2億ドル(約280億円)のアロヨガ(Alo Yoga)のような一部の競合他社ほど大きくはない。だが、同社の新たな収益性は買い手の関心を引く要因となっている。
ヴオリ(Vuori)
昨年、ヴオリは日本のソフトバンク(SoftBank)から1回のラウンドで4億ドル(約561億円)を調達した。ヴオリの創業者、ジョー・クドラ氏によると、これは非公開のアパレルブランドとしては最大の資金調達ラウンドだったという。
これにより、ヴオリの評価額は40億ドル(約5611億円)となった。しかし、ヴオリはベンチャーキャピタルの資金調達だけに頼って成長したわけではない。CEOのクドラ氏によると、2014年の創業から2年以内に黒字化を達成し、以来年間約 250%の割合で収益を伸ばしているという。資金調達後、5年間で100店舗を新規オープンする計画を進めている。今年は10店、2023年には20店舗を追加オープンする予定だ。収益も成長を続けており、今年は「2桁台の高い数字」で伸びているとはクドラ氏の弁だ。
高い収益、投資家の関心、堅実な収益性によりヴオリは非常に魅力的な買収対象となっている。同社の業績を考慮すると低価格で買収される可能性は低いと思われる。
ジムシャーク(Gymshark)
オーナーのベン・フランシス氏が2012年に創立した英国のブランド、ジムシャークは、ほかのアクティブウェアブランドと比較するとそれほど注目されてはいない。しかし、同社は2019年から利益を上げており、年間収益は2億7000万ドル(約379億円)を超えている。その半分は米国からの売上である。2020年の評価額は10億ドル(約1402億円)だった。
同社は、スティーブ・クック氏、ニッキー・ブラックケッター氏、ホイットニー・シモンズ氏、ナターシャ・オセアン氏らフィットネス界のパートナーとのインフルエンサーマーケティングを巧みに利用している。また、自社のソーシャルメディアでもオーディエンスを拡大している。ジムシャークは、@gymshark、@gymsharkwomen、@gymsharktrain など複数のインスタグラムアカウントを持っており、それぞれに100万~600万人のフォロワーを抱える。
バンディエール(Bandier)
バンディエールには、収益の半分以上を占める強力なeコマース事業と、製品を販売するフィットネススタジオという2つの利点がある。
同ブランドは、2019年、プライベートエクイティ会社のユーラゼオブランズ(Eurazeo Brands)から2500万ドル(約35億円)の資金調達ラウンドを確保し、資金調達総額は3400万ドル(約48億円)になった。バンディエールの物理的なフットプリントは、特にeコマースでの最近の収益がわずかだが全体的に減少していることを考えると、潜在的な買い手にとっては資産となる可能性がある。バンディエールは実店舗を5カ所、スタジオを1カ所持っているが、収益は開示していない。
小売ソフトウェア企業、スパークプラグ(SparkPlug)のCEO、アンドリュー・ダフィ氏は次のように述べている。「今後10年間で成功を狙うD2Cブランドは、もっとも費用対効果の高い顧客獲得チャネルを活用する方法を見つけなければならない。つまり、それは昔ながらの実店舗ということだ」。
買い手になる可能性のある企業
これらのシナリオにおいて、買い手になる可能性がもっとも高い企業はどこだろうか。
ジムシャークにはすでに潜在的な買い手がいる。2020年、アメリカのグロースエクイティ会社、ジェネラルアトランティック(General Atlantic)はジムシャークに投資して株式の21%を取得している。以来、売上高と利益は増加の一途をたどっているため、ジェネラルアトランティックはその動きをさらに進めて、ジムシャークを完全に買収するか、またはコングロマリットに売却することもできたのだった。
アクティブウェア分野でもっとも可能性の高い買い手には、新しいカテゴリーへの参入を検討している大手アパレルブランドや、ポートフォリオにアクティブウェアブランドが欠けているコングロマリットらが含まれる。
後者の例にはJクルーグループ(J.Crew Group)がある。同グループはJクルー(J. Crew)とメイドウェル(Madewell)の2ブランドを所有しているが、両ブランドの製品と顧客は似通っている。しかし、アスレタ(Athleta)を傘下に持つ競合相手のギャップ(Gap Inc.)とは異なり、Jクルーのポートフォリオにはアクティブウェア専門のブランドがない。
ホリスター(Hollister)と下着ブランドのギリーヒックス(Gilly Hicks)を所有するアバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)も安定したアクティブウェア専用ブランドを持たないマルチブランド企業だ。昨年、CEOのフラン・ホロウィッツ氏は、特に他ブランドがまだカバーしていない分野で近い将来別のブランドの買収を視野に入れていると述べているが、まだ実現はしていない。同社はこの数年はやや苦戦しているが、約40億ドル(約5611億円)の収益は来年小規模なブランドを1社買収するかもしれないことを意味している。
[原文:The top M&A targets in activewear right now]
DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)