イギリス人40万人以上の遺伝子データと歩行ペースを分析した大規模な研究により、運動量に関係なく「歩くのが速い人は老化が遅い」ということが示されました。これにより、歩くのが速い人とそうでない人では、中年期にさしかかるころの老化の度合いに16歳分もの差が発生することが分かりました。
Investigation of a UK biobank cohort reveals causal associations of self-reported walking pace with telomere length | Communications Biology
https://www.nature.com/articles/s42003-022-03323-x
Stop the clocks: Brisk walking may slow biological ageing process, study shows | News | University of Leicester
https://le.ac.uk/news/2022/april/walking-speed-ageing
これまでの研究により「歩く速度によって心疾患で死亡するリスクが変化する」ことや、「歩く速さと脳や体の老化には関係がある」ことなどが知られていますが、因果関係までは証明されていなかったので、単に健康な人ほど速く歩けるだけの可能性が捨てきれないという課題がありました。
この問題について、イギリス・レスター大学の運動学者であるトム・イェーツ氏は、「私たち研究者は、歩行ペースが健康状態を示す非常に強い予測因子であることを明らかにしてきましたが、実際に『速歩きをすると健康になれる』ということを確認するには至っていませんでした」と話しています。
歩く速さと老化の関係を解き明かすカギとして、イェーツ氏らの研究チームが注目したのがテロメアです。細胞内の染色体の末端にあるテロメアは、靴ひもの先端の固い部分のように遺伝子を保護する役割を果たしています。しかし、テロメアは遺伝子が複製される度に少しずつ短くなるので、最終的にはテロメアが短くなりすぎて細胞分裂ができなくなります。これは「複製老化」と呼ばれており、遺伝子が損傷した細胞が無軌道に増えてがん化するのを防ぐ一方で、人体のさまざまな老化現象の原因もなっていると考えられています。
テロメアと健康の複雑な関係は完全には解明されていませんが、研究チームはテロメアの長さが老化の度合いを調べるのに最適な指標になると考えて、UKバイオバンクの登録者40万5981人の遺伝子データと自己申告による歩行速度、そして参加者が装着したウェアラブルデバイスによる活動追跡記録のデータを分析する研究を行いました。
その結果、歩くのが速い人は白血球から得られたテロメアの長さである白血球テロメア長(Leukocyte telomere length:LTL)が有意に長いことが判明しました。その一方で、逆にLTLが長ければ歩くのも速いということはなかったため、これにより歩く速さとLTLの間の因果関係も確かめられました。
論文の筆頭著者であるパディー・デンプシー氏は、研究結果について「遺伝子データを用いることで、歩く速さとテロメアの長さの因果関係を強力に証明することができました。また、ウェアラブルデバイスからのデータでも、速歩きを始めとする習慣的な活動の強度が果たす役割は大きいことが裏付けられています」と評価しました。
さらに同氏は、「この結果は、歩く速さの測定で簡単に慢性疾患や老年症候群のリスクを調べることが可能であり、どのような生活改善をするかの介入を考える上でも歩行の速度が重要な役割を果たすことを示唆しています。例えば、ただ歩行量を増やすだけではなく、バス停までいつもより速く歩くことを目標にするといったことが可能なのです。ただし、これを確認するにはさらなる調査が要ります」と述べて、速く歩くのを心がけることが老化対策のポイントになるとの見方を示しました。
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