メタバース は「誇大広告」か、一大トレンドの先駆けか:「テレビやインターネットに匹敵する可能性は秘めている」

DIGIDAY

ここ数カ月、メタバースに対するマーケターたちの姿勢はますます強気になっているようだ。メタバースでのさまざまなアクティベーション(中には対面式のエクステンションもある)への取り組みは一貫して活発で、マーケターはメタバース内でブランドアクティベーションを行うだけで、数多くの見出しに取り上げてもらえるだろうと期待しているらしい――エージェンシー幹部たちがそうDIGIDAYに語ってくれた。

マーケターというのは、それがいかなるものであれ、次に来る大きな波の一端を担いたいと常に狙っているので、実験的な方法を試してみるのももっともなことだ。とはいえ、メタバースがほんとうに次の大きなトレンドになるのか、それともかつてマーケターが大金をつぎ込んだクラブハウス(Clubhouse)やピーチ(Peach)といったアプリや、チャットボット、AR/VRなどのテクノロジーのように、また一時的なブームで終わるのかは、今のところ不透明である(数年前は、VRこそ次の大きな流れだとしてかなり強気に出たエージェンシーが、クライアントがそれをテスト使用する費用まで負担していたことを覚えているだろうか?)。

「誇大広告やただのPR」に見える可能性も

エージェンシー幹部の中には、メタバースマーケティングの目的を疑問視する人もいる。オーディエンスにとってもマーケターにとっても、それがどんな問題を解決してくれるのかが見えないのだという。一方で、マーケター側にとっては、メタバースを通してそれまで接点を持つこともできなかったようなオーディエンスへのアクセスができ、たとえオーディエンスがまだそこに存在していなくても、さまざまなアクティベーションを試行し続けることには価値があるという人もいる。

メタバースマーケティングの将来について尋ねられた、デジタルテクノロジー企業スティンク・スタジオズ(Stink Studios)のCEO、マーク・ピトリック氏は、「実際のところメタバースの何たるかについて、一致した見解は誰からも得られない。その事実は、そこに感じられるプレッシャーがコモンセンスではなく、むしろ取り残されることへの恐れから生じるものなのだということをよく表している」と述べている。「マーケターには売り込む相手としてのオーディエンスが必要だが、メタバースはあまりにも断片的で、プラットフォームに依存しているため、ほとんどのブランドにとって、本腰を入れた長期的投資をするに見合う最低限必要な数の消費者が一カ所に集結しているわけではない」のだという。

ピトリック氏はさらに、メタバースのアクティベーションには「手っ取り早いPR」としての一面もあるが、それでさえ「得られる見返りは小さい」と続ける。「その大部分が、純粋な誇大広告やただのPR、あるいは投機的な思惑買いのようにみえる」という。

PRの可能性や最初に成功を収めたブランドになるという魅力に惑わされて、トレンドに乗って冒険したり、実際には自社にとってほとんど意味のないアプリにお金をかけたりするマーケターもいるかもしれない。メタバースはどうだろうか。利用者が増加して、これがマーケティング予算の定番になるかどうかは、いまだ不確実だ。

大きなトレンドになるには時間が必要

電通でエグゼクティブバイスプレジデント兼米国メディアパートナーシップ担当のヘッドを務めるサラ・ストリンガー氏は、こうしたテクノロジーの普及状況を把握するため、Googleトレンドに注目している。これはユーザーがどのような言葉を検索しているかについてのデータを公開するものだ。

同氏によると、たとえばVRという言葉がもっとも世間の関心を集めたのは2016年12月で、ブロックチェーンはその1年後。eスポーツのピークは2019年、そしてメタバースは2021年末だった。Googleトレンドのデータは下降傾向を示しているにもかかわらず、ブランド各社が新たな取り組みを続々と投入しているのをみると、メタバースにおけるマーケティング活動はまだまだ盛況のようだ。

「こうしたテクノロジーやコンセプトはどれも時間の経過とともにより大きなトレンドへと発展していくが、規模やオーディエンスがついてこなければ関心は薄れてしまう」とストリンガー氏はいう。「それらに接する機会が増え、規模が大きくなりアクセスも容易になれば、人々の関心も再燃する。メタバースはホットなバズワードにはなったものの、どうやらWeb3.0をめぐる幅広い話題に急速に取って代わられた感がある」。

このところ、メタバースがきっかけとなって、ARやVRを再び試してみようというマーケターたちがでてきた。マーケターやエージェンシー幹部たちは何年も何年も、ARとVRが次の大きな波になると喧伝していたが、あれは数年ばかり時期が早すぎただけなのか。それとも、それだけの長い時間をかけるにふさわしい価値ある取組みだと思わせるための、彼らの作戦だったのかもしれない。時がたてば、いずれわかることだろう。

テクノロジーの本質的な役割

「メタバースは、3D仮想空間のセカンドライフ(Second Life)』の虚像にすぎないという批判は確かに理にかなってはいる。だがその批判は、メタバースの持つきわめて重要なファクターに目を向けようとしていない。メタバースは、この新しい時代に重要な意味をもたらす潜在性を秘めている。それは、マーケターの目の前の風景を一変させるという点で、テレビやオープンインターネットが登場したときと同じくらい重大なものだ」とデジタルエージェンシーのバーリン・キャメロン(Berlin Cameron)の設立者、エウェン・キャメロン氏は語る。

同氏はさらに続けた。「ブロックチェーンと、その上に構築される資産のトークン化は、歴史上類を見ないほどの規模でマーケティングのカスタマイゼーションとパーソナライゼーションが行われる可能性を生み出している」。

キャメロン氏は、マーケター側からみたメタバース(およびNFTWeb3.0)の可能性については強気だが、現在の形でのメタバースでは、すべてのマーケターに投資に見合うだけの効果をもたらすとは限らないことも認識している。

「ディセントラランド(Decentraland)のメトリクスは、たとえばターゲットオーディエンスをファンタジーゲーム好きの男性ティーンエイジャーと設定するならば、ROI(投資利益率)が得られるかもしれない」とキャメロン氏は語る。「それでも、ブロックチェーン技術やWeb3.0やメタバースのアプリケーションは、ブランド各社にとって無限の可能性を提供してくれる。これらのテクノロジーのおかげでマーケターは、優れた認知度やエンゲージメントに結びつく道筋を、競合相手よりも先に見いだすことができる。それこそ、優れたマーケティングのすべてなのだ」。

[原文:Marketing Briefing: Marketers are going all in on metaverse marketing, but is it premature?

Kristina Monllos(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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