eスポーツ 組織ジェンジー、世界戦略でブランドを惹きつける

DIGIDAY

eスポーツのファンダムに国境はない。「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」で活躍する韓国のイ・“フェイカー”・サンヒョク選手のような人気選手には、中国や北米など遠く離れた地域にも多くのファンがいる。K-POPやアニメなど世界にまたがる他のファンダムと同様に、eスポーツは、ブランドが国内市場以外の消費者にリーチするために活用できる世界共通言語だ。

eスポーツの世界的な広がりを活用するために、韓国のeスポーツチームであるジェンジー(Gen.G)は、3つの主要市場(韓国、北米、中国)で意図的に存在感を示し、3つの地域すべてのローカルパートナーが新しいオーディエンスにリーチできるようにしている。

国際的なクロスマーケット戦略は、当初からジェンジーの方針の一部だった。組織の当初の名称であるKSV Eスポーツ(KSV Esports)の由来もそこにある。ジェンジーの最高売上責任者(CRO)、マーティン・キム氏は次のように述べる。「我々の創設者であるケビン・チュウは、当初からゲームとeスポーツは地域化できない、グローバルな取り組みであり、グローバルコミュニティであるという素晴らしい考えをもっていた。韓国とシリコンバレーの架け橋になろうとしており、だからKSVという、ある意味安直なネーミングだった」。同社は2018年に「ジェネレーション・ゲーミング(Generation Gaming)」の略であるジェンジーに組織名を変更した。

異なるトーンに合わせた前進

多くのeスポーツチームは世界中にファンがいるが、ジェンジーのクロスマーケットへの注力は、ソーシャルメディアのフォロワーの多様性にも反映されている。ゲームとeスポーツのデータプラットフォームであるジーアイキュー(GEEIQ)によると、米国の著名な組織100シーブス(100 Thieves)のフォロワーの68%は米国内に居住しているが、ジェンジーの場合はこの数字は34%にとどまっている。ジェンジーは米国のeスポーツ界で有名になるために多大なリソースを投入しているが、そのフロントオフィスには100シーブスのような競合他社のインフルエンサー主導型の戦略を再現する計画はない。「我々は、100シーブスやフェイズ・クラン(FaZe Clan)のようなトップ集団にはなれないと早い段階からわかっていた。彼らはブランドを何らかの形で確立している」とキム氏は語る。

これは、ジェンジーにとってクロスマーケティングがたやすかったという意味ではない。東南アジアを拠点とするeスポーツメディア企業、ワン・Eスポーツ(ONE Esports)の最高経営責任者(CEO)であるカルロス・アリマラング氏は、「必ずしもそれが欠点とは言わないが、各チームは、グローバルなファンダムを育成することは複数期間にわたる投資であると理解する必要がある」と述べる。「チームが文化や国境を越えて共鳴するためには、時間と労力がかかる。その努力に見合うだけの見返りがあると、私は強く信じている」

「これは諸刃の剣だ。自画自賛しているが、それはまた我々のもっとも難しい資産でもある」とキム氏はいう。「我々は3つの異なる市場、3つの異なるIPを扱っているが、それは、市場ごとに得意とするゲームが異なるからだ。eスポーツコミュニティがグローバルであるのと同様に、その特性も、地域ごとに実に特有のものがある」。

最悪の状況

ジェンジーのクロスマーケティングの特性を活用した最近の事例としては、2022年3月開催のゲームデベロッパー会議(Game Developers Conference)で発表された韓国のゲーム開発会社ニムブルニューロン(Nimble Neuron)との提携が挙げられる。「ニムブルニューロンは、ある意味では最悪の状況だった」とキム氏は話す。「彼らはゲームと結びついた特定のニーズを持っており、我々が持つ手段は彼らの活動を支援するために本当に役に立つと感じた。しかし、それは北米に限ったことだった。韓国でも一緒に何か実施するのか? 実施する。しかし、彼らも韓国にマーケティングチームを持ち、イニシアティブがあり、リーグがある。だから、韓国では我々は彼らをサポートしているが、北米では、我々が彼らを動かしている」。

ジェンジーはこれまでに、北米の著名なストリーマーやインフルエンサーとのつながりを活かし、ニムブルニューロンのゲーム「エターナル・リターン(Eternal Return)」の認知向上に貢献した。具体的には、ティム・“ネメシス”・リポフシェク氏やブルック・“サプカイトリン”・マウロ氏などジェンジーの人気クリエイターを起用して、ライブイベントなどでゲームのプロモーションを展開している。

ニムブルニューロンCEOのナム・ソクキム氏はこう話す。「我々は北米地域に重点を置いている。今年はゲーム体験を向上させ、最終的には魅力的なeスポーツゲームとしてIPを拡大することを期待している。ジェンジーのインフルエンサーネットワークとマーケティング能力は、そのプロセスを加速させると信じている」。

ジェンジーはさらに、米国のブランドとアジアのオーディエンスを結びつけることも可能だ。ジェンジーはブランドパートナーと協力して、複数マーケットでの同時アクティベーションを構築している。たとえば、2021年のジェンジー/クロックス・マインクラフト(Crocs Minecraft)コンテストは、米国、中国、韓国、ヨーロッパ、日本、カナダの居住者に公開された。「私の頭のなかにある最良の事例はプーマ(Puma)だ。我々は韓国のローカルチームとしてプーマとのパートナーシップを開始したが、いまではeスポーツに関して言えば、グローバルレベルでもっとも好まれるブランドのひとつになった」とキム氏は述べる。「我々は、我々のパートナーシップがひとつの小さな市場に限定されたものでないことを彼らに証明したことで、いまではグローバルパートナーとなった」。

立場を確立する

ジェンジーのクロスマーケット戦略は、新しいブランドとの提携をもたらすという役割以上に、組織にとって有益なものだ。パートナーのマーケティング戦略により積極的な役割を果たすこともでき、前述のマインクラフトコンテストのような取り組みを通じて、クリエイティブな力を発揮する機会にもなっている。近頃では、ゲーミングやeスポーツの消費者は、ありきたりなeスポーツパートナーシップやロゴスラップにはもはや関心を示さなくなっている。それ以上の何かが必要で、ジェンジーはその課題に応える準備ができている。

「我々にとっての戦略とは、立場を確立し、ブランドの戦略的パートナーになることだ。それは、本物の体験を構築することであってもいいし、独自のブランドチームを立ち上げることでもいい」。

[原文:How esports organization Gen.G’s cross-market strategy helps attract new brand partnerships

Alexander Lee(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)

Source

タイトルとURLをコピーしました