1. 豊かだった1990年代の日本
前回は、家計の金融資産のうち「年金・保険」についてフォーカスしてみました。日本はOECD36か国中11番目で、主要国としては平均並みの水準のようです。
前回までで、家計の金融資産・負債について項目ごとの詳細をフォーカスしてきました。それぞれの詳細については、下記の記事をご参照ください。
今回は、それぞれの項目がどの程度のシェアを占めるかなど、全体的なバランスを見ていきたいと思います。
図1は1997年の家計の金融資産・負債(1人あたり)の積み上げグラフです。
金融資産はプラス、負債はマイナスとして表現しています。純金融資産(金融資産・負債差額)の大きい順に並べています。
金融資産(プラス側)のうち、青が「現金・預金」、黄色が「株式等」、緑が「年金・保険」、灰色が「その他」です。マイナス側の赤が「負債」です。金融資産と負債の差し引きである「純金融資産」を黒い丸で表現しています。
1997年はGDPや平均所得が最も高くなった日本経済のピークですが、純金融資産でもアメリカに次ぐ高水準だった事がわかります。
その内訳をみると、日本は「現金・預金」が圧倒的に多く、「株式等」が極端に少ない構成です。
負債の水準は1位のアメリカを上回る水準だったことがわかります。
1位のアメリカは、「現金・預金」があまり多くなく、「株式等」が極端に多い構成で日本とは対照的ですね。「年金・保険」もルクセンブルクに次ぐ高水準だったことがわかります。
日本 家計 金融資産・負債・純金融資産
1人あたり 1997年 26か国中
現金・預金 (OECD平均 10,763$)
44,288$ 1位
株式等 (OECD平均 10,178$)
7,606$ 15位
年金・保険 (OECD平均 9,841$)
26,388$ 3位
負債 (OECD平均 9,949$)
22,195$ 2位
純金融資産 (OECD平均 24,698$)
63,890$ 2位
詳細を見てみると、日本は「株式等」以外の項目ですべてトップ3に入る高水準にあります。
当時日本は、確かに豊かであったことがわかります。
2. ストック面でも存在感が低下
続いて、直近の状況も確認してみましょう。
図2が2019年のグラフです。
アメリカが純金融資産ではスイスを抑えて1位をキープしています。
日本は36か国中10位、G7で3位の水準ですね。
純金融資産では比較的高い順位をキープしていますが、徐々に存在感が低下している状況です。「現金・預金」はスイスやルクセンブルクに次いで3番目に多い水準ですが、「株式等」が極端に少ないです。金融資産全体としては下位のベルギーを下回りますが、負債が少ない分、純金融資産では上回っています。
スイス、ルクセンブルク、ノルウェーの負債水準が高いのが印象的ですね。
また、アイスランド、オランダ、イギリス、イスラエルのあたりは、「現金・預金」や「株式等」はそれほど多くありませんが「年金・保険」が多い国々です。
北欧でも、デンマーク、スウェーデンとフィンランド、ノルウェーでずいぶん異なる事も特徴的です。
日本 家計 金融資産・負債・純金融資産
1人あたり 2019年 36か国中
現金・預金 (OECD平均 26,457$)
75,552$ 3位
株式等 (OECD平均 31,200$)
16,179$ 21位
年金・保険 (OECD平均 34,647$)
38,253$ 11位
負債 (OECD平均 29,522$)
27,910$ 17位
純金融資産 (OECD平均 67,741$)
108,245$ 10位
日本は、「現金・預金」の水準が極端に高く、それ故に純金融資産ではいまだ上位をキープしている面があります。
ただし、「現金・預金」の多くは高齢層に大きく偏っていて、その資産も高齢層→高齢層で相続されていく傾向にあります。平均年齢の高い日本では、相続者の中心年齢も50~60代となるそうです。
3. 「現金・預金」ばかりの日本人
それでは、各国の金融資産の構成バランスについても見てみましょう。
図3が家計の金融資産における各項目のシェアを表すグラフです。
「現金・預金」のシェアが大きい順に並べています。
日本は「現金・預金」のシェアが55.5%で、36か国中4番目に大きい国となります。一方で、「株式等」については11.9%と極端に小さく、アイスランドに次いで2番目にシェアが小さい国です。
日本はこのように極端に「現金・預金」が多い偏った資産バランスの国であることがわかりますね。
一方で、アイスランドをはじめ、イスラエル、イギリスなどは極端に「年金・保険」に偏った国といえそうです。
「株式等」についてはやはりアメリカのシェアが48.3%と非常に大きいですが、ニュージーランドが72.9%と極端に大きいのが特徴的ですね。
このように、金融資産のシェアをみると、各国の国民の特徴も見えてくるのが興味深いです。
日本は主に高齢層の「現金・預金」により金融資産が大きく嵩上げ上げされています。貯蓄の多くは60歳以上の高齢者が所有しているためです。
2019年には、60歳以上の高齢世帯が持つ貯蓄額のシェアが70%以上となります。残り30%弱を60歳未満の世代で分け合っている状況ですね。
図5がその60歳以上の貯蓄額の分布です。
世帯数自体が大きく増えているわけですが、貯蓄を多くもつ世帯が増える一方で、ゼロ貯蓄世帯も倍増しています。高齢層全てが豊かになっているわけではなく、豊かな層と困窮する層で2極化が進んでいるともいえそうです。
一見すると日本人の金融資産は先進国でもまだ多い水準に見えますが、その大部分を占める「現金・預金」の多くは高齢層に偏っています。確かに、そのお金はいずれ相続されますが、相続人の中心層も50~60代となります。
結局現役世代にその恩恵が回ってくる事はあまり期待できませんね。
高齢層に偏った金融資産は、当然現在の高齢者が現役時代に稼いだお金です。現在の現役世代は、今の環境の中で稼げるようになり、より豊かになっていくような変化が必要と思います。
フロー面では、現役世代の給与所得は低下しています。
労働者の平均所得は、日本はOECD36か国中20位と、平均値を下回り下位グループです。(参考: 安くなった日本人)
家計の金融資産は日本はまだ高めの水準をキープしていますが、上記のようなことも踏まえると、このままだとその順位もさらに低下していくことが容易に予想されますね。
働く人たちの付加価値を向上し、給与水準も上げていく事が大切だと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。