今や、Mac Proを除くすべてのMacにAppleの自社開発チップ(通称、Appleシリコン)が搭載されました。Intel製チップを搭載したMacのユーザーの中には、そろそろ本格的に買い替えを検討している人もいるのではないでしょうか。M1 Pro搭載のMacBook Proを半年間じっくり試した筆者が、Intel製MacBook Proとのパフォーマンスの違いをじっくりと掘り下げていきます。
Intel MacBook Proも十分現役だが……
M1 Pro搭載のMacBook Proを購入する前は、2016年製の13インチMacBook Proを使用していました。2.9GHzデュアルコア Intel Core i5というチップを搭載したモデルです。登場から6年が経過したマシンでしたが、実はそれほどストレスを感じていませんでした。
というのも、ほぼ同世代の2017年製iMacと比べて、体感としてはMacBook Proのほうがキビキビ動いているという印象だったからです。iMacの内蔵ストレージがHDDなのに対して、MacBook Proはフラッシュストレージを搭載していることがレスポンスの良さにつながっていたのだと思います。
こうした背景もあって、M1 Pro搭載のMacBook Proは必要に迫られて購入したわけではありません。「将来を見据えて、そろそろAppleシリコンのMacを買っておこう」という程度のモチベーションだったのです。
M1 Proを搭載した14インチのMacBook Proは2モデルありますが、購入したのは一番低価格な8コアCPU/14コアGPU搭載モデルです。10コアCPU&16コアGPUを搭載した上位モデルは動画編集や3DCGといった用途により適したモデルなので、自分の使い方なら下位モデルで十分ではないか……と考えたからです。
私は文章の執筆のほかに、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorを使ったイラスト作成やグラフィックスデザインにMacを使っていますが、動画と比べてマシンパワーを要求しない静止画ベースのデザインワークにはいくら高性能のMacがあっても、その実力を引き出しきれないのではないかと思っていました。
さらに言えば、よりマシン負荷の低い日常的な処理のほとんどは、たとえAppleシリコン搭載のMacであっても、Intel製チップを搭載したMacとそこまで違わないのでは、とさえ思っていたのです。
ベンチマークソフトでハッキリ分かる性能の差
しかし、実際にM1 Proを搭載したMacBook Proを使ってみて、こうした自分の認識が時代遅れだったことに気づかされました。
その違いは、各種ベンチマークソフトの結果を見るだけでもハッキリと分かります。「Geekbench 5」でCPUパフォーマンスを比較したのが下の図です。
MacBook Pro M1Pro(2021)と書いてあるのが、新しく購入した14インチのM1 Pro搭載のMacBook Pro。そして、MacBook Pro Core i5(2016)と記載してあるのが、それまで使っていたIntel製MacBook Proです。
グラフを見れば一目瞭然ですが、CPUパフォーマンスはシングルコア性能で2.5倍、マルチコア性能で6倍ほどのスコアの差が出ています。
さらに、グラフィックス性能の比較検証では、「OpenCL」のテストで約4.8倍、「Metal」のテストで約5.3倍というスコアの差が出ています。
続いて、「BlackMagic Speed Test」で内蔵ストレージの速度を計測したところ、書き込み速度で約4倍、読み込み速度で3倍ほどの差が現れました。
このようにベンチマークソフトの結果だけで見ても、あらゆる性能において圧倒的な差がハッキリと数値に表れていたのです。まさに「隔世の感」と言える違いではないでしょうか。
実際の作業でも大きな違い
当然ながら、こうした性能の違いは、実際にMacを操作する際の体感的な違いにもハッキリと表れます。
まず、約20GBのファイルコピーでは、所要時間が約半分まで短縮しました。ストレージの読み書きのスピードは、単なるファイルのコピーだけでなく、書類を開いたり保存したりといった日常的な操作のレスポンスに大きく関わってきます。
また、ソフトの起動時間も大幅に短くなりました。Photoshopの初回起動(Macを起動したあと初めてPhotoshopを起動するのにかかった時間)を比べてみると、MacBook Pro Core i5(2016)が27秒ほどかかっていたのに対して、MacBook Pro M1Pro(2021)はわずか3.4秒。
「Photoshopのような高機能ソフトなら、起動にある程度の時間がかかるのはしょうがない」と思っていましたが、これが古い認識であることがハッキリと分かりました。
日常的に使用頻度の高い、Safariのパフォーマンスについても調べてみました。「JetStream 2」は、Javascriptの処理能力を中心に、Webブラウザの総合的な能力を調べられるWebサイトです。
検証結果は、ほぼ2倍の差になりました。スコアの差は、Microsoft OfficeのWebアプリ版やGoogleスプレッドシートといったWebアプリのパフォーマンスの違いとして実感できます。
ここで示したのはほんの一例ですが、そのほかにも例えばSpotlightの検索速度やPDFの表示速度などありとあらゆる操作で、M1 Pro搭載のMacBook Proは今まで以上にキビキビと動作します。
これまでほんのちょっと待っていた処理が、どれも一瞬で済んでしまうのです。1つ1つの処理はわずか1、2秒程度の違いの場合もありますが、それでも全体的な印象は大きく変わります。まさに「意のままに動く」と感じるほどの違いだと言えます。
デザインワークにも効くM1 Pro
M1 Pro搭載MacBook Proの導入によって、筆者が日常的に行なっているデザインワークの業務効率も大きく向上しました。
Photoshopなどクリエイティブツールの起動が速くなったことはすでに述べた通りですが、それ以外に、様々な機能の処理速度が向上したのです。
Illustratorでは、複雑なオブジェクトの変形や自動トレースなど、ある程度待ち時間が発生していた作業がより少ない時間で終わるようになりました。
キャンバスの拡大やスクロールなどのレスポンスも良くなり、今まで以上に快適な作業ができます。数値化できない部分も含め「操作が全般的に心地良くなった」というのは、仕事をするうえで実に大きなメリットです。
パフォーマンス以外の満足感も高い
本稿では、パフォーマンス面を中心にM1 Pro搭載のMacBook Proを深掘りしましたが、このマシンの魅力は処理速度だけにとどまりません。
例えばディスプレイは、100万:1という高コントラスト比を実現した「Liquid Retina XDR」を採用しており、iPhoneなどで撮影した広色域の画像もしっかりと表現できます。
ディスプレイ解像度は254ppi。今まで以上に高解像度化が進み、ピクセルサイズが増えました。13インチのMacBook Pro(2016)が2,560×1,600ピクセルだったのに対し、14インチのMacBook Pro(2021)は、3,024×1,964ピクセルです。
つまり、横幅で約118%、縦幅で123%ほどピクセルサイズが広がった計算となり、表示するパレットが多いデザインツールでも余裕を持って作業ができます。
また、ライターを生業にしている者としては、キーボード構造の違いも見逃せないポイントです。これまで筆者が使っていたIntel製のMacBook Proが「バタフライ式」という構造のキーボードを採用していたのに対し、現行のMacBook Proは「シザー式」という構造になっています。
この構造の違いによってキーストロークはわずかながら深くなり、しっかりとした打ち心地があります。打鍵音も静かになり、カタカタとしっとりとした音色でタイピングができるようになりました。
使い始めのうちは、数字キーが微妙に左にずれていることも含め、前との違いに多少の違和感がありましたが、しばらく使い続けると新しいMacBook Proのキーボードにどっぷりとハマりました。たまに前のマシンを使うと、ストロークの浅さや「ペチペチ」と軽い打鍵音が気になるようになりました。
今回述べた以外にも、M1 Pro搭載のMacBook ProはサウンドやFaceTimeカメラの性能が向上していますし、M1搭載のMacBook Airや13インチのMacBook Proと比べて充実したインターフェイスを搭載するなど、実にたくさんの魅力があります。
まだIntelチップを搭載したノート型Macを愛用しているユーザーも多いと思いますが、そろそろ買い替えを検討してみてもいいのではないでしょうか。きっと期待以上の快適さをもたらしてくれると思います。
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