「生命保険」や「損害保険」などを販売する保険代理店が減少している。街には保険ショップが増え、ネットでの保険契約も浸透している。金融機関が窓口で保険販売に乗り出し、異業種からの進出も相次ぐ市場で何が起きているのか。
少子高齢化でも活発な業界にみえる保険代理店だが、2021年の休廃業・解散が507件と、調査を開始した2000年以降、最多を記録した。
新型コロナ感染拡大の影響も小さくない。対面販売が避けられ、来店客数が減少しているからだ。だが、コロナ前から異業種の進出だけでなく、貯蓄型などの保険から先進医療保険や認知症など細かいサポートの保険に人気が移るなど、消費者の変化も背景にある。
東京商工リサーチ(TSR)の企業情報から倒産以外で事業を停止した生命保険や損害保険などを扱う保険媒介業(保険代理店)の休廃業・解散を調査した。
保険といえば、保険会社の営業職員や専業代理店の営業が中心だった。最適な保険に巡り合うのは難しいが、自分で考える時間も欲しい。そんな消費者の思いに答えたのが独立系の保険ショップだった。保険各社の商品をひと目で比較できる保険ショップは、たちまち人気を博し、市場を席巻する勢いをみせた。
なかでも「ほけんの窓口」「保険見直し本舗」「保険クリニック」などは、急成長で知られる。また、2007年には銀行の窓口での保険販売が全面解禁され、携帯キャリアや家具販売会社など異業種からの参入も相次いだ。ネット保険には保険会社も独自に進出し、一気に保険市場は競争が激化した。
法改正やNISAとの競合、コロナ禍も
魅力ある保険商品の開発も進み、消費者にとっては、選択肢が広がった。そうしたなか、高い手数料やインセンティブのある保険商品を優先的に勧める保険代理店なども出始め、2016年に保険代理店の業務態勢の整備を求めて規制を強化した保険業法の改正があった。
これで管理コストが増加しただけでなく、インセンティブなどの収入が減少し、ダメージを受けた保険代理店も多かったようだ。
また、長期間の契約で手数料収入が安定していた貯蓄型保険は、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)などと競合するようになり、徐々に保険代理店を取り巻く環境が厳しくなった。そこに新型コロナ感染拡大が直撃した。
「保険ショップ」のメリットは、対面で詳しい説明を聞けることだ。そのビジネスモデルが活かせず、閉店や廃業の流れが加速し、大手保険ショップの出店ペースは鈍化した。
休廃業・解散は過去最多、倒産は大幅減
「保険代理店」の休廃業・解散は、10年前の2012年は192件だった。だが、改正保険業法が施行された2016年に前年比25.3%増の307件と急増。その後も増え続け、2021年は507件(前年比1.8%増)と、初めて500件を上回った。わずか10年で2.6倍に増え、調査を開始した2000年以降での最多件数を更新した。
一方、「保険代理店」の倒産は13件(前年比23.5%減)と大幅に減少した。コロナ関連の資金繰り支援で抑制された格好だ。先行きの見通しが立たない保険代理店が、早めの店仕舞いに動いたとみられる。
生保代理店数は減少続く
コロナ前までは、保険ショップは積極的に出店を続けていた。街のあちこちで「保険ショップ」を見かけたが、コロナ禍で様相が一変した。大手も出店ペースが鈍り、昔からの生命保険代理店の店舗数は減り続けている。
生命保険協会の「2021年版生命保険の動向」によると、法人代理店は2016年度の3万5306店から2020年度は3万3114店と6.2%減少。個人代理店も16年度の5万5805店から20年度は4万8692店と、店舗数は12.7%減少している。
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大手や異業種の出店攻勢で古くから頑張ってきた保険代理店の淘汰が進んでいる。コロナ禍の外出自粛は、保険ショップにも痛手となった。来店が基本の店舗だけに、対面営業の一時休止や来店客の減少は、売上減少に直結した。
ただ、コロナ禍は消費者が保険を見直す契機にもなったようだ。保険見直しのニーズは高く、対面を避けたWEB集客を強化した保険ショップも増えている。
いざという時に頼りになるのが保険だ。親身に相談できる保険代理店の廃業の増加は、経済合理性を求める顧客とのすれ違いだけが原因ではない。少子高齢化で人口減が続く日本では、生産労働人口は2025年からマイナスに転じる。かつて経験した事のない人口動態の変化に沿ってニーズも変わっていく。大手保険会社の商品開発力もまた問われている。