政府のまん延防止に医師が苦言 – ABEMA TIMES

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 政府はきょう、1都12県に対し21日から来月13日までのおよそ3週間、「まん延防止等重点措置」を追加適用することを決定した。オミクロン株が急速に拡大、全国の新規感染者が過去最多となる3万人を突破する中での政府・自治体の対応だが、経済社会活動を懸念する声は根強い。

【映像】経済界から“まん延防止”に疑問「日本遅れている」

 元陸上自衛隊医官で、現在は石本病院(茨城県笠間市)の院長を務める中村幸嗣医師(血液内科)は「正直言って、私は少し変わった医者だし(笑)、私の意見が全ての医者の意見ではない、ということはご理解いただきたい」とした上で、「まん延防止等重点措置を適用する意味はどれだけあるのだろうか」と疑問を呈する。

 中村医師は次のように指摘する。

 「まず、同じ“コロナ”であっても、オミクロン株とデルタ株は全く違うものだということを理解いただきたい。ワクチン接種済の人など、重症化リスクの低い人にとってオミクロン株は発症してもインフルエンザ並か、インフルエンザ以下、いわば“ほぼ風邪”だし、重症化リスクが高い人の場合も、それほど重症化はしない。加えて、過去のまん延防止等重点措置で、本当に感染拡大が防げたのか確認されているのだろうか。

 大変申し訳ないが、デルタ株による“第5波”の時と同様、ある一定の時期が来るまではオミクロン株の感染拡大を止めるのは基本的に無理だろう。例えば中国の北京や天津ではガチガチの隔離や検査をしているが、それでもやっぱり市中感染は出てしまう。つまり、ある程度は出るのは仕方がないと、ゼロにはできない、と判断をせざるを得ない。

 その上で、感染に伴う被害と、感染以外による被害をトータルで考えるべきだ、というのが私の一貫した考え方だ。沖縄県や南アフリカの状況を見ていても、もし何かやるとすれば、健康で、重症化リスクの低い人たちに対しては、今まで感染防止対策をしっかりやってもらうことをお願いし、重症化リスクの高い人たちに対しては少し強めの制限も含めたことをやる、ということであれば、意味もあるのではないか」。

 昨年末、「危機のときにはtoo late too smallより、拙速、やりすぎの方がましである」とも述べていた岸田総理。内閣支持率を見ても、水際対策も含め、現時点の対応は国民に評価されているとの見方もできる。

 中村氏医師は語る。

 「感染対策を前面に出せば、確かに皆が“やっている”と認めてくれる。しかし経済に関しては、例えば飲食やエンターテインメントの方々は一部なので、あまり強く出てこない。基本的に医学者も含めた学者というものは、自分の専門において最も自信のある答えを主張するので、感染症が専門であれば、それによる犠牲をいかに減らすかを押し出すことがプロとしての仕事だ。一方、オミクロン株に対しても今までと同様の対策でいいのか、リスク・テイクをして判断するのが本当の政治家の仕事だろう。

 もちろん、自分が重症化しなくても、他人にうつしてしまう危険性はある。そこに反論するつもりはない。それでも今はオミクロン株だということだ。インフルエンザで考えてみれば、ひどい時には今のオミクロン株並みに感染者が出ることもあるし、重症化リスクの高い人にとっては致死性もある。一方で、臨床の現場では、80歳の方が肺炎に罹っても、2日くらいで戻ってくるというケースも出てきている。

 病床利用率に関しても、これから患者が一気に増えていくだろうということを見越していたとはいえ、はっきり言えば“えいや”で決めたと思う。しかしデルタ株の重症者が2カ月くらい入院していたのに比べ、オミクロン株は10日前後で退院していくので、回転率がすごく速い。だから軽症でも入院させているわけで、今の20%というのは本当に20%なのか。軽症といっても症状は辛いというが、インフルエンザだって辛い。

 危険性を否定する気は全くない。しかし少しずつ蓄積されてきた知識・経験を踏まえれば、糖尿病で人口透析をやっている、免疫不全がある、心臓疾患があるといった高齢者を絶対に守る、というくらいしかできないし、若年者がそういう高齢者や有病者のところに行く、リスクの高い人のところに行くといったことをやめてくれさえすればいい。

 私も含めた医療従事者は既にワクチンの3回目接種を終えているが、逆に言えばオミクロン株に対抗する手段はそのくらいしかないし、その上でやれるだけの感染予防対策をやって患者さんに向き合うしかないわけだ」。

 こうした主張を受け、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「これはものすごく難しいリスクマネジメントの課題だ」と指摘する。

 「日本ではこの2年間、感染を完全に止める“ゼロコロナ”、それは無理だよね。でもイギリスのような野放図な政策もリスクが大きいよね、だから感染リスクと経済が壊れるリスクのバランスをどう取るかで悩んできた。ところが、これがちょっと“感染を止めよう”の方に行くと、メディアや人々が“そんなことしたら経済が壊れる”と騒ぎ、逆に経済を回す方に行くと“感染が増える”と騒いできたため、着地点が見つからない。中村先生の仰っているのは、オミクロン株の特徴を踏まえ、この微妙なズレをどれだけ許容するのか、そこを議論しなければならないはずだが、それが難しい。

 菅前総理の時代を振り返っても、感染者が減ることと経済を回すこと、どっちを優先した方がメディアに褒められるかを意識していて、実際に感染を抑制した方が、分かりやすく支持率に繋がっていた。だからこそ岸田政権も世論を読んで、厳しい方向に来てしまっている。我々がバランスをどう取るかの議論をしない限り、いつまでたっても右に行ったら左だと怒り、左に行ったら右だと怒る、建設性のない状態が続いてしまう」。

 中村医師は「医者は命を守るのが仕事。だから私の意見も、根拠もないにも関わらず“大丈夫だ”と言っているように聞こえてしまうかもしれない。しかし私としてはリスクを取った上で、デルタ株とは違う対応を取ってもいいだろうということだ。今までだって、インフルエンザの感染が拡大したとしても社会経済活動は止めなかった。ワクチンもある、ファイザーの薬も出てくるし、あと1、2週間耐えれば自然と集団免疫ができてきて、結果的に高齢者も守れるのではないか」とコメント。

 欧米を見ても同じことが言えるのか、との反論に対しても、「確かにアメリカやスウェーデンではオミクロン株の犠牲者が出ていることは承知している。しかし半分期待も込めてだが、日本人は感染者が増えてくると、まん防なんか出さなくたってマスクを着用するし、外出も気をつけようとする。だから今は“まん防を出しますよ“というアラートだけで十分であって、経済にはそこまでの制限をかけなくてもいい。それが日本人の特性をうまく生かしたやり方なのではないか」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
 

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