「その手があったか」新庄剛志氏が日本ハム新監督に就任
プロ野球北海道日本ハムファイターズの新監督に球団OBの新庄剛志氏が就任することとなり、ここ1か月余りプロ野球界には「新庄フィーバー」が吹き荒れています。
まず何より就任会見で派手に登場して、それに続く3日間の秋季キャンプ視察では、早くも独自の野球理論を披露するような言動で大きな話題をさらっており、いやが応でも注目度が高まってしまうわけなのです。
共同通信社
前任栗山監督の在任10年は、球団史上最長。ここ3年は連続で5位という不甲斐ない成績に終わってはいますが、チームを2度のリーグ優勝と1度の日本一に導き、さらに今期メジャーリーグで本格開花した”二刀流”大谷翔平選手の育ての親としての評価も一気に高まっていました。
新監督は一時代を築いたこの名監督の後任であり、かつ2023年にオープンする新球場の盛り上げ役というミッションもあります。そんな事情から、人選は難航するのではないかと思っていただけに、新庄氏就任のニュースには思わず「その手があったか!」と手を叩いてしまった人も多いのではないでしょうか。
「ビッグボス」発言もハッタリではない姿を見せた新庄氏
現役時代は華麗なプレーもさることながら、ファッションモデルを思わせるような服装や試合前の派手なファンサービスのパフォーマンス等、とにかく徹頭徹尾明るく目立つスター選手であり続けました。
このように書くと、いささかハッタリ屋臭い感じがしなくもないのですが、一部メディアでは実は彼は故野村克也氏仕込みの理論派であり、表に見せないながらもものすごくストイックな努力家でもあると記されています。
就任会見の彼は、まさにハッタリ屋的な登場でした。大きく襟の立った派手な衣装に身を包んで登場すると、「監督ではなくビッグボスと呼んで欲しい」「優勝は目指さない」などと、自由奔放な発言を繰り広げました。
その人となりを知らない人が見たら、まともにプロ野球の監督などできるはずがない、これで選手がついてくるだろうか、と思われても仕方のない言動であったと思います。
しかし数日後、チームの秋季キャンプ視察で若手選手たちと初対面し練習を指導したビッグボスの言動には、およそハッタリ屋では片づけられない姿が垣間見えました。
すなわちビッグボス独自のマネジメント理論の端緒が、うかがい知れたのです。それは、メジャーリーグ経験のある彼ならではのマネジメント理論であるようにも感じられるものでした。
発言の背景にあるマネジメント的な3つの視点
私が気がついたものは、大きく3点ありました。マネジメント的な視点でそれらを表現すると、①個々人の実績よりも応用可能な基礎能力の有無を重視する姿勢、②個々人の得意分野での活躍に期待するダイバーシティ重視の考え方、③チーム内の意思疎通やコミュニケーションの円滑化を重視する姿勢、とでもいえそうなものでした。
具体的に①は、キャンプ地入りして真っ先に、野手全員の肩の強さと足の速さをはかったことです。初対面の選手たちに対して個別のプレーを見る前に、何よりまず持てる基礎能力を確認したのです。
彼自身が「新庄はメジャーリーグでは通用しない」という下馬評を覆して米国で活躍できたのは、まさしく強肩と俊足があったからであり、その経験を踏まえ重要基礎能力をはかったといえそうです。この肩力と足力を、今の時代のビジネスモードに置き換えるなら、語学力とITリテラシーということになるかもしれないと思いながら、私はこの模様をニュース報道で見ていました。
日本ハム沖縄秋季キャンプで、野手の送球を見る新庄監督/共同通信社
②は、自身のレギュラー選手選びについて質問を受けた際に、「ホームランで打点1点のチーム貢献をするのも、捕殺で1失点を阻止するのも、同じ1点のチーム貢献。選手自身が持てる能力を活かして、どのようにチームに貢献できるかという目で評価したい」と答えたことです。
企業においても、得点にばかり目が行きがちな古い日本の企業文化に対して、ダイバーシティの重要性を説いているかのような回答ではないでしょうか。ステレオタイプ人材を作り続けてきた日本の大企業に対するアンチテーゼとも思え、欧米的マネジメントを実践しようという意欲の表れと受け止めました。
③については、視察最終日に全野手を本来のポジションとは異なるポジションで守備練習をさせたことです。この狙いについてビッグボスは、「自分のポジション(立場)からの見え方だけで物事を判断するのではなく、他のポジションからはどう見えるのか、どう感じるのか、それを理解することがチームワークを強くする」と話していました。
どの組織でもありがちなセクショナリズムを排するために、相互理解を深める施策を積極的に打つというのは、組織内意思疎通重視、コミュニケーション円滑化重視のマネジメントといえるでしょう。