11月初旬、地球環境を改善するための決死の試みとして、約120カ国の政府関係者が集まった国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれ、環境問題の重要性が強調された。
しかし、サステナビリティに関係する資格や信頼性を高める必要があるのは、世界のリーダーだけではない。企業もまたサステナビリティに関する信頼を獲得できなければ、人材獲得の厳しい競争において敗北するリスクがある。
実際、グローバル人材派遣会社ロバート・ウォルターズ(Robert Walters)の最新調査によると、英国のオフィスワーカーの34%は、採用企業の環境、サステナビリティ、または気候制御に関する価値観が自身の価値観と一致しない場合、採用を拒否するという。米国ではこの数字はさらに高く、41%である。フランスとチリ(いずれも53%)がトップで、僅差でスイス(52%)が続いている。
Advertisement
「取り組んでいるフリ」は逆効果
英ロバート・ウォルターズのマネージング・ディレクター、クリス・プール氏によると、「給与、福利厚生、トレーニング、キャリアパスに関する一般的な質問は今でも聞かれるが、「『X社はどのような価値観を信じているのか』という質問が増えている」という。
いまでは求人を受け入れる前に、人々は雇用主になる企業のソーシャルメディアでの投稿を注意深く検討し、ウェブサイトの「about us(弊社について)」ページとGoogleの最新ニュース記事をチェックして、企業の行動がその言葉と一致するかどうかを確認する。
「サステナビリティへの取り組みに関する信頼性を改善できない企業は、雇用にも波及効果があることを予期すべきだ」とプール氏は言う。「雇用者として環境に配慮するための方法はたくさんあるのに、この問題を無視する余地はあまりない」。さらに、「人材戦略として、ESG(環境[Environment]、社会[Social]、ガバナンス[Governance])は人材を引きつけ、維持するうえで競争上の優位性となっている」と付け加えた。
しかし、企業がサステナビリティに積極的に関わる姿勢は従業員にとって魅力的だが、形だけの「取り組んでいるフリ」をしている場合は、その逆になる。英国に本社を置くソフトウェア企業アドバンスト(Advanced)のCEO、ゴードン・ウィルソン氏によると、特に若い従業員はこれに敏感だという。同氏の最近のビジネス動向レポートによると、18歳から24歳の56%が「彼らの雇用者が『グリーンウォッシング(greenwashing)』を行っていると非難していている。グリーンウォッシングとは、本質的なサステナビリティへの取り組みを重要視せず、自社の事業にプラスとなるよう実際の取り組みよりも誇張することを意味する」という。
単なる仕事以上の価値を
「この世代は、それ以前の世代よりもはるかに自分の価値観や世界に自分たちが与える影響を意識している。この世代の意見を無視することはできない。これは未来のリーダーたちの声であり、彼らは固有の不信感を持ってビジネスの世界に参加している」 。
若者は、地球や社会にとって正しいことをしている企業と連携したいと考えており、ポジティブな変化に向かって努力している。「彼らはただの仕事以上のものを望んでいる」とウィルソン氏は付け加えた。
この洞察は、求職検索エンジンのアドズーナ(Adzuna)の共同設立者で経済学者のアンドリュー・ハンター氏の経験とも一致している。「強力なESG戦略を持つことは、ブランドにとって大きな才能の呼び水になる可能性がある。ただし、人々はグリーンウォッシングをますます意識するようになり、意見表明ではなく(企業の)行動に基づいて雇用主を判断するようになっている」と同氏は指摘する。
「これは、企業文化と信念が求職者にとってより重要になるなかで、金銭的な報酬は重要性を下げ、ワークライフバランスと幸福感が前面に出てきている、という大きなトレンドの一環である」。
サステナビリティを企業文化に
ハンター氏は、ESGの社会的要素はサステナビリティにも関係していると指摘する。前科歴のある人々に職場訓練と雇用機会を提供しているカリフォルニア州のホームボーイ・リサイクリング(Homeboy Recycling)のように、この分野で先行している企業の多くがBコープ(B Corp)の認定を受けている、と彼は述べた。Bコープは、グローバル非営利団体のBラボ(B Lab)が行なっている、環境や社会に関して公益性の高い会社に対する国際認証制度だ。
「ほかにも、ルビコン・ベイカーズ(Rubicon Bakers)は、社会の主流から取り残された(マイノリティなどの)労働力に対する機会創出に焦点を当てているBコープ認定企業のひとつだ」と彼は言った。「英国では、ボディ・ショップ(The Body Shop)がホームレスや低学歴の人々に雇用を提供することに焦点を当てている。これらの求職者セグメントが隙間から抜け落ちないようにすることはESGの取り組みの重要な側面であり、今後の成長を見越している」。
世界的な変革コンサルティング会社デア・ワールドワイド(DARE Worldwide)の創業者、リタ・トレハン氏は、COP26のためにグラスゴーを訪れた10代のスウェーデン人であるグレタ・トゥーンベリ氏が、サステナビリティ向上を求める若い労働者の運動の先頭に立っていると考えている。「グレタ・トゥーンベリ氏の『ベラベラ(とお題目を唱えているだけだ)』という(批判)メッセージは人々の心に響いた」と彼女は言った。「今日(若者たちが行う)会話は、より綿密で、よりシニカルで、政策と実際に及ぼす影響のあいだのギャップについて企業や政府に挑戦することに長けている」。
トレハン氏は、サステナビリティへの信頼を高めたいと考えている企業にとって重要なポイントを示す統計を指摘した。従業員の4分の3近くが、すべての労働者がサステナビリティの取り組みを支持・実行する責任があると考えている。それを企業文化に組み込む必要がある、と彼女は付け加えた。
慎重かつ積極的な関与を
しかし、ギキ(Giki:Get Informed Know Your Impact[知識を得て自分が及ぼす影響を知ろう])の共同創業者でデータサイエンティストのジェームズ・ハンド氏によると、取り組む企業も、グリーンウォッシングと非難されるのを避けるために、慎重に行動する必要があるという。ギキは、人々の持続可能な生活を支援するロンドンの社会的企業だ。「グリーンウォッシングにならないための『手っ取り早い成功法』はない」と彼は言った。
その代わりに、企業はすべてのステークホルダーを含め、自社の持続可能性に関する方針を示すために、自社の事業が二酸化炭素排出に与える影響を把握する必要があるとハンド氏は言う。「業務面での排出量を測定し、ネット・ゼロ・プラン(排出量を除去・吸引量が上回る実質ゼロの状態)を策定し、スタッフを取り込むためのプログラムを構築すれば、彼らの信頼度を増すことができる。さらに重要なことに、実際に(ポジティブな)影響を及ぼすことができる。排出量の約70%は個人からのものだが、組織は個人を集めて取り組むことで、この10年間で排出量を半減させることができる」と彼は付け加えた。
サンフランシスコを拠点とする気候変動対策スタートアップ、ウォーターシェッド(Watershed)の共同創業者であるテイラー・フランシス氏は、これに同意し、サステナビリティへの信頼性や関与を深めてている企業は、従業員の定着率が高いことを強調した。2020年のデロイト(Deloitte)のレポートによると、40%も高い。「従業員は、現在の雇用主に対して、より正確な排出量算定方法の導入、真のネットゼロを達成するためのより実践的で積極的な計画の導入に向けてプレッシャーをかけている」と彼は付け加えた。
COP26で議論されたことは、明らかに(溶けかけつつある)氷山の一角に過ぎない。
OLIVER PICKUP(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)