断続的な頭痛に見舞われる片頭痛と、すい臓の機能の低下が原因となって引き起こされる2型糖尿病との間には、一見すると何の関係もないように思えます。しかし、頭痛を引き起こす原因となる物質がすい臓に及ぼす作用を調べた研究により、2つの症状の関係性が明らかになりました。この発見は、糖尿病の予防や治療法に関する研究に応用できるのではないかと期待されています。
How migraines protect against diabetes – American Chemical Society
https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/newsreleases/2021/august/how-migraines-protect-against-diabetes.html
これまでの研究により、片頭痛は若い女性に多いことや、女性の場合閉経後には片頭痛のリスクが下がることなど分かっています。また、フランス人女性7万4247人を10年間にわたり追跡調査した2018年の研究では、片頭痛がよく起きる人はそうでない人に比べて、2型糖尿病のリスクが低いことも明らかになりました。しかし、片頭痛と2型糖尿病との間にどんなメカニズムがあるのかは分かっていませんでした。
そこで、アメリカにあるテネシー大学のタン・ドー助教授らの研究チームは、片頭痛の痛みと関係が深い神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)という2つのペプチドに注目した研究を行いました。CGRPとPACAPは、神経系に存在するだけでなくすい臓にも存在しているとのこと。
片頭痛と関係が深いペプチドがすい臓に与える影響を調べるため、ドー助教授らの研究チームはマウスのすい臓にある少数のβ細胞を培養してデータを得る手法を開発し、実験を行いました。その結果、CGRPがインスリンの分泌量を低下させることが分かりました。マウスは、「マウスインスリン1」と「マウスインスリン2」という2種類のインスリンを持っていますが、このうちCGRPが抑制するのは人間のインスリンに似た「マウスインスリン2」の方だったとのこと。
インスリンは、β細胞を損傷させることで2型糖尿病の原因となるアミリンという別のペプチドと同時に分泌されるため、インスリンの産生が抑制された結果アミリンも減り、これによりすい臓のβ細胞が保護されると考えられています。
また、PACAPも2型糖尿病を防止する作用を持っていることが分かりました。紛らわしいことに、PACAPはCGRPとは逆にインスリンの分泌を促進しますが、β細胞の増殖を助ける働きも持っています。PACAPがβ細胞の増殖を促し、既存のβ細胞の疲弊を防ぐことで2型糖尿病が予防されるのではないかと、ドー助教授は推測しています。
この研究結果を2021年8月26日開催のアメリカ化学会の秋季大会で発表したドー助教授は、「糖尿病に対する良好な効果が確認されたにもかかわらず、CGRPやPACAPを糖尿病の治療薬として直接使用することはできません。なぜなら、これらのペプチドは片頭痛の痛みを引き起こすからです。しかし、これらのペプチドがインスリンの分泌にどんな影響を与えるかが分かれば、インスリンを制御しつつ頭痛は引き起こさないペプチドを開発できるでしょう」と述べました。
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