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岸田文雄首相は8日、衆院の本会議で内閣発足後初の所信表明演説に臨んだ。
岸田首相は演説で、「まずは新型コロナウイルス対策に万全を期す」と強調した上で、感染者数は落ち着きを見せているものの「楽観視はできない」とし、「危機対応の要諦は最悪の事態を想定すること」だと語った。感染拡大が落ち着いている間に「病床拡大などを積極的に進めるなど国民の安心確保に努める」必要があると述べ、非正規労働者や子育て世帯に給付金を支給する政策にも意欲を示した。
経済政策については、「新しい資本主義の実現を目指す」とし、「成長と分配の好循環とコロナ後の新しい社会の開拓がコンセプト」などと語った。
また被爆地・広島出身の首相としては、「核兵器のない世界を目指す」と語る場面で語気を強め、「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たしていく。これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶という名の松明をしっかりと引き継ぎ、全力を尽くす」と誓った。
最後には「早く行きたければひとりで進め。遠くまで行きたければみんなで進め」ということわざを紹介して協力の重要性を訴え、「新型コロナの中にあってもなお、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙、新しい時代の種が芽吹き始めています。この萌芽を大きな木に育て、経済を成長させ、その果実を全員で享受していく明るい未来を築こうではありませんか」と呼びかけた。
【演説全文】
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第205回国会の開会にあたり、新型コロナウイルスによりお亡くなりになられた方々、そしてご家族の皆様方に心よりお悔やみを申し上げるとともに、厳しい闘病生活を送っておられる方々に心よりお見舞いを申し上げます。また、我が国の医療、保健、介護の現場を支えてくださっている方々、感染対策にご協力をいただいている事業者の方々、そして国民の皆様方に深く感謝を申し上げます。
新型コロナとの闘いは続いています。こうした中、私は第100代内閣総理大臣を拝命いたしました。私はこの国難を国民の皆さんとともに乗り越え、新しい時代を切り拓き、心豊かな日本を、次の世代に引き継ぐために全身全霊を捧げる覚悟です。
私が書き溜めてきたノートには、国民の切実な声が溢れています。1人暮らしで、もしコロナになったらと思うと不安で仕方がない。テレワークでお客が激減し、経営するクリーニング屋の事業継続が厳しい。里帰りができず1人で出産、誰とも会うことができず孤独で不安。今、求められているのはこうした切実な声を踏まえて政策を断行していくことです。
まずは新型コロナ対応に万全期す
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まず、喫緊かつ最優先の課題である新型コロナ対応に万全を期します。国民に納得感を持ってもらえる、丁寧な説明を行うこと。常に最悪の事態を想定して対応することを基本とします。また新型コロナで大きな影響を受ける方々を支援するため、速やかに経済対策を策定します。その上で私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。我が国の未来を切り拓くための新しい経済社会のビジョンを示していきます。国民の皆さんとともにこれらの難しい課題に挑戦していくためには、国民の声を真摯に受け止め、形にする、信頼と共感を得られる政治が必要です。そのために国民の皆さんとの丁寧な対話を大切にしていきます。
私をはじめ、全閣僚が様々な方と車座対話を積み重ね、その上で国民のニーズにあった行政を進めているか、徹底的に点検するよう指示していきます。そうして得た信頼と共感の上に、私は多様性が尊重される社会を目指します。若者も、高齢者も、障害のある方も、ない方も、男性も、女性も、全ての人が生きがいを感じられる社会です。
経済的環境や世代、生まれた環境によって生ずる格差やそれがもたらす分断が危機によって大きくなっているとの指摘があります。同時に我々は家族や仲間との絆の大切さに改めて気づきました。東日本大震災のときに発揮された日本社会の絆の強さ、世界から称賛されました。危機に直面した今こそ、この絆の力を発揮するときです。全ての人が生きがいを感じられる新しい社会を作っていこうではありませんか。
日本の絆の力を呼び起こす。それが私の使命です。
感染者数は落ち着くも「楽観視できない」
まず、新型コロナ対応です。足元では感染者数は落ち着きを見せ、緊急事態宣言は全面的に解除されました。菅前総理の大号令の下、他国に類を見ない速度でワクチン接種が進み、この闘いに勝つための大きな一歩が踏み出せました。前総理のご尽力に心より敬意を表します。しかし楽観視はできません。危機対応の要諦は常に最悪の事態を想定することです。感染が落ち着いている今こそ、様々な事態を想定し、徹底的に安心確保に取り組みます。与えられた権限を最大限に活用し、病床と医療人材の確保、在宅療養者に対する対策、徹底いたします。
希望する全ての方への2回のワクチン接種も進め、さらに3回目のワクチン接種も行えるようしっかりと準備をしていきます。経口治療薬の年内実用化も目指します。
合わせて電子的なワクチン接種証明の積極的な活用、予約不要の無料検査の拡大に取り組みます。これらの安心確保の取り組みの全体像を早急に国民にお示しするよう、関係大臣に指示しました。国民の皆さんが先を見通せるよう、丁寧に説明してまいります。同時にこれまでの対応を徹底的に分析し、何が危機管理のボトルネックだったかを検証します。そして司令塔機能の強化、人流抑制、医療資源確保のための法改正、国産ワクチンや治療薬の開発など危機管理を抜本的に強化いたします。
国民の協力を得られるよう、経済支援を行うことも大切です。大きな影響を受ける事業者に対し、地域、業種を限定しないで事業規模に応じた給付金を支給します。新型コロナの影響により苦しんでおられる非正規、子育て世帯などお困りの方々を守るための給付金などの支援も実行していきます。
最大の目標であるデフレ脱却成し遂げる
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次に私の経済政策について申し上げます。マクロ経済運営については最大の目標であるデフレからの脱却、成し遂げます。そして大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進に努めます。危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期します。経済あっての財政であり、順番を間違えてはなりません。経済をしっかりと立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます。
その上で私が目指すのは新しい資本主義の実現です。新自由主義的な政策については、富める者と富まざる者との深刻な分断を生んだといった弊害が指摘されています。世界では健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく、そうした新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。今こそ我が国も新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。
成長と分配の好循環と、コロナ後の新しい社会の開拓、これがコンセプトです。
成長を目指すことは極めて重要でありその実現に向けて全力で取り組みます。しかし分配なくして次の成長はなし。このことも私は強く訴えています。成長の果実をしっかりと分配することで初めて次の成長が実現します。大切なのは成長と分配の好循環です。
成長か分配かという不毛な議論から脱却し、成長も分配も実現するために、あらゆる政策を総動員いたします。新型コロナで我が国の経済社会は大きく傷つきました。一方で、これまで進んでこなかったデジタル化が急速に進むなど、社会が変わっていく確かな予感が生まれています。今こそ科学技術の恩恵を取り込み、コロナとの共生を前提とした、新しい社会を作り上げていくときです。この変革は地方から起こります。地方は高齢化、過疎化などの社会課題に直面し、新たな技術を活用するニーズがあります。例えば、自動走行による介護先への送迎サービスや配達の自動化、リモート技術を活用した働き方、農業や観光産業でのデジタル技術の活用です。ピンチをチャンスに変え、我々が子どものころ夢見た、ワクワクするような未来社会を作ろうではありませんか。
そのために新しい資本主義実現会議を創設し、ビジョンの具体化を進めます。新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です。
まず成長戦略の第1の柱は、科学技術立国の実現です。学部や修士、博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進します。世界最高水準の研究大学を形成するため、10兆円規模の大学ファンドを年度内に創設、設置します。デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など、先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制、実現していきます。またイノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて新たなビジネス、産業の創出を進めます。そして2050年、カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします。
第2の柱は、地方を活性化し、世界とつながるデジタル田園都市国家構想です。地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていきます。そのために、5Gや半導体、データセンターなど、デジタルインフラの整備を進めます。誰一人取り残さず、全ての方がデジタル化のメリットを享受できるよう取り組みます。
第3の柱は経済安全保障です。新たに設けた担当大臣のもと、戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自立的な経済構造を実現します。強靭なサプライチェーンを構築し、我が国の経済安全保障を推進するための法案を策定します。
第4の柱は人生100年時代の不安解消です。将来への不安が消費の抑制を生み、経済成長の阻害要因となっています。兼業、副業、あるいは学び直し、フリーランスといった多様で柔軟な働き方が拡大しています。大切なのは、どんな働き方をしてもセーフティネットが確保されることです。
働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、勤労者皆保険の実現に向けて取り組みます。人生100年時代を見据えて子どもから子育て世代、お年寄りまで全ての方が安心できる全世代型社会保障の構築を進めます。