ゲーム業界 の2023年1Q、 上場12社の決算報告から読み解く

DIGIDAY

今年はゲーム業界とeスポーツ業界にとって注目すべき1年となりそうだ。とくに株式市場からは目が離せない。コロナ禍を契機に株式公開や企業買収が相次ぎ、ゲーム業界の上場企業の価値はかつてないほど高騰している。ゲームが現代の娯楽の支柱となりつつあるいま、ゲーム企業の経営者たちはこのおいしい状況がいつまでも続くことを切望している。

しかし、ゲーム業界の日の出の勢いは2023年第1四半期に失速を余儀なくされた。ブランドも消費者も、迫り来る不況への不安から、この分野への支出を控えはじめたからだ。年初に相次いだ人員整理に続き、ゲーム企業は新たなビジネスモデルへの転換を迫られている。この四半期も投資家たちを満足させつづけるためには、AIやメタバースなど、より広範な文化的トレンドを模索しなければならない。

2023年におけるゲーム企業各社の立ち位置を探るため、ゲームおよびeスポーツ業界の上場企業12社が発表した直近の決算報告から経営幹部のコメントを引用し、若干の背景説明を加えて以下にまとめた(アルファベット順)。

アクティビジョンブリザード(Activision Blizzard)

4月26日の会社発表で、ボビー・コティックCEOは「コール・オブ・デューティ(Call of Duty)」を「主要な成長ドライバー」と呼ぶ一方、「キャンディクラッシュ」のゲーム内アイテム課金の売上高が前年比で11%伸びたことから、開発元のキング(King)を高く評価した。

コティック氏は、「マイクロソフトによる690億ドル(約9兆6671億円)規模のアクティビジョン買収計画が世界各地の市場、とりわけ英国で競争や消費者、雇用創出に恩恵をもたらすことを確信している」と述べている。

しかし、この決算に関するプレスリリースが出されたまさにその日、英国の競争市場庁(CMA)はマイクロソフトによるアクティビジョンブリザードの買収計画を阻止する方針を決めた。同氏はこのプレスリリースで、「マイクロソフトと積極的に協力して、CMAの方針に異議を申し立てる」と述べている。

カプコン(Capcom)

カプコンの辻本憲三CEOは、2023年第1四半期においてカプコンの社運に及ぼすデジタル販売の影響について語り、「過去1年間の売上のうち、40%超がデジタルを占めた」と指摘した。ゲーム開発企業がこぞってゲーム内広告や無料プレイというビジネスモデルに軸足を移すなか、2023年内にこの数字はさらに拡大するものと思われる。

5月10日に行われた決算発表で、辻本氏はこう述べている。「近年、PCでのデジタル販売が普及したことにより、ゲーム専用機のない国や地域でも当社のゲームを販売できるようになり、当社の販売地域は大きく拡大した。前年度には、過去に販売したゲームを含め、230の国と地域で307種類の商品を販売。このうち、PCでの販売量が40%超を占めている」。

コルセア(Corsair)

周辺機器メーカーのコルセアが5月10日に行った決算報告に、非常に興味ひかれる情報があった。あるアナリストの質問に対する回答のなかで、「カジュアルエントリーレベル」と呼ばれる50ドルから100ドル(約7000〜1万4000円)の価格帯の市場から撤退するとの発表があったのだ。今後はより高価な「エンスージアスト(熱心なゲームファン)」市場に注力するという。この方針の背景には、不況の足音が近づくなか、周辺機器メーカーたちがゲーマーの消費習慣の変化に対応しようとする姿勢が見てとれる。

「100ドルから250ドル(約1万4000〜3万5000円)の価格帯はプロシューマーやヘビーゲーマー向けで、ここには大きな問題は見られない」とアンディ・ポールCEOは述べている。

エレクトロニックアーツ(Electronic Arts)

EAはゲーム内にコミュニティを構築することに注力している。この方針は、消費者がソーシャルゲームプラットフォームで過ごす時間や使う金が増えるなか、「FIFA」や「ザ・シムズ」のようなタイトルの重要性を強く示唆するものだ。5月9日、CEOのアンドリュー・P・ウィルソン氏は投資家たちに向けて3つの柱から成る将来計画を説明した。

3つの柱とは、大規模なオンラインコミュニティのニーズに合わせてゲームを開発すること、コミュニティの「増幅」を支援するクリエイターツールを作成すること、コミュニティの関心を維持するために高品質のゲームとストーリーを制作することだという。

「ゲームは未来のソーシャルネットワークだ」とウィルソン氏は話す。「コミュニティの力を増幅させるために、私たちはゲームの内外で革新的なソーシャルツールやクリエイターツールを開発している。私たちの戦略はプレイヤーが新しい友人を作り、ソーシャルネットワークを構築し、コミュニティを創造するのを支援することだ」。

エンスージアストゲーミング(Enthusiast Gaming)

エンスージアストゲーミングのようなゲーム系またはeスポーツ系のデジタルメディア企業は、いまもなお、よりまとまりのあるアイデンティティを模索している。5月15日のオンライン決算説明会でも言及されたが、多くのゲーム企業と同様に、同社も流行の最先端であるAIを活用して投資家の関心を集めようとしている。

CEOのニック・ブライエン氏は、「私たちはゲームメディアとエンターテインメント業界において、いわゆるウォールドガーデンを運営する大手ハイテク企業の傘下になく、独立系のゲーム企業としては最大手だ」と話し、さらにこう続けた。「この立ち位置のおかげで、私たちのコミュニティに集うヘビーゲーマーや、私たちと提携して必勝のブランドアクティベーションや効果的な広告キャンペーンを展開したいマーケターのために、集中してAIに取り組むことができる。売上を伸ばし、ROIを改善し、ユーザーの新規開拓を進めるために、あらゆるAIツールを試す意向だ」。

ロジテック(Logitech)

ロジテックのブラッケン・P・ダレルCEOは、5月8日に行われたロジテックの決算説明会で業界が直面する課題全般について率直な見解を述べたが、通期の見通しに大きな変更はないと明言した。

「2023年度の業績に影響を与えたマクロ経済や地政学的な問題のほとんどは、いまもなお続いている」と同氏は話す。「中央銀行はインフレ対策のために金利を引き上げており、消費意欲は一向に上向かず、企業の需要も全体的に低調なままだ」。

エヌビディア(NVIDIA)

米半導体大手のエヌビディアは、ここ最近のAI特需からもっとも大きな恩恵を受ける企業のひとつである。最高財務責任者(CFO)のコレット・クレス氏は、5月24日の決算発表でこの点を強くアピールし、結果的にAI銘柄の株価急騰を招いた。

「ジェネレーティブAIは計算要件を指数関数的に増大させ、エヌビディアのアクセラレーテッドコンピューティングへの移行にも拍車をかけている。アクセラレーテッドコンピューティングは、AIの訓練や導入へのアプローチとしては、汎用性やエネルギー効率がもっとも高く、TCO(総保有コスト)はきわめて低い」と、クレス氏は説明する。「AIは当社製品の価値と需要を急伸させ、世界の市場で事業機会と広範な成長をもたらしている」。

ロブロックス(Roblox)

5月10日の決算報告で、ロブロックスのデヴィッド・バズーキCEOは同社の新たな広告商品「ポータルズ(Portals)」について語った。この広告フォーマットに関しては、5月初めに米DIGIDAYが報じている。

「今年第2四半期には、多少なりとも広告収入を獲得する計画だ」とバズーキ氏は話した。また、「NFLは私たちの広告システムについて、『ポータルズのおかげで、新しいユーザーにリーチし、そのうちの多くをNFLのエクスペリエンスに誘導できた』とコメントしている。私たちもポータルズには大いに期待している」とし、「画像や動画を補完する新しい広告フォーマットで、没入感が高く、ロブロックスにネイティブなフォーマットでもある」と説明した。

テイクツーインタラクティブ(Take-Two Interactive)

テイクツーインタラクティブがモバイルゲーム大手のジンガ(Zynga)を買収してからほぼ1年が経つ。少なくとも5月17日の決算報告でストラウス・ゼルニックCEOが述べたところによると、この買収は奏功しているようだ。ゼルニック氏は、当四半期の売上高を53億ドル(約7426億円)に押し上げた立役者として、ジンガとの合併を高く評価した。

また、「ジンガとの統合は順調に進んだ。この買収は我々の事業に付加価値をもたらすプラスの買収となった。実際、この買収は新たな収入機会をもたらし、1年目にして期待を上回るコストシナジーを発揮した」とし、「厳選したいくつかの買収を通じて、我々のモバイルプラットフォームは強化されている」と述べた。

テンセント(Tencent)

テンセントのマー・フアテン(馬化騰)CEOは、5月17日に報告した2023年第1四半期決算で当期の業績を「堅調な売上増」と評価し、とくに広告収入の「急成長」を強調した。そしてほかのゲーム企業のCEOらと同様に、AIを持ち上げるリップサービスも忘れなかった。

「我々はAIの基盤モデルがもたらすさまざまな機会を活用するために、AI機能とクラウドインフラに投資を行っている」とフアテン氏は話し、さらにAIを「成長の乗数」と呼び、「これを活用することにより、ユーザー、顧客、社会全体によりよいサービスを提供したい」と期待を語った。

ユービーアイソフト(Ubisoft)

ユービーアイソフトのフレデリック・デュゲCFOは5月16日の決算報告で、現在ゲーム業界全体が厳しい経済的逆風にさらされていると認めながら、同社で将来的に人員整理が行われたとしても、「現在進行中のプロジェクトに大きな支障をきたすことはない」と述べた。

「合わせて厳格な採用管理も行う。もちろん、重要な職種については採用を続けるし、制作部門には十分に人を配置するつもりだ」と、デュゲ氏は話す。「優秀な人材の新規雇用は継続する。また、数カ月前から始めていることだが、的を絞ったリストラを進める考えだ」。

ユニティテクノロジーズ(Unity Technologies)

ユニティテクノロジーズのジョン・S・リキテロCEOは、5月10日に発表された業績報告のなかで幾度もAIに言及し、「ユニティのプラットフォームの性質上、AIに関しては持続可能な競合優位を持っている」と語っている。

リキテロ氏はさらにこう続ける。「我々のプラットフォームは、本質的にAIツールやAIによるコンテンツ作成の恩恵を受けやすい。また、クリエイターが世界を活気づかせ、デジタルツインの実現や活用に弾みをつける活動を、これまで不可能だった方法で支援できる」。

[原文:Gaming industry execs chime in on changing consumer habits and the the rise of AI in Q1 2023

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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