前々からなんとなく思っていたことがある。女装は「競技」としての一面もあると。
いま、ロケットニュース24では、男性編集部員たちが本気で女装し、女装家である私(レイちゃん)を倒さんまいとするガチ企画が進行中……というか暴走中。
──負けたら即引退。
そう勝手かつノーテンキに銘打ったのは立案者のP.K.サンジュンであるが、挑戦者である編集部員たちのガチさたるや、当事者である私が「お前ら、落ち着け」と言いたくなるほど。
そんな私もガチであるが、相手がいるだけにいつも以上に真剣。そのうち殴り合いに発展しそうなくらい、まさしく切るか切られるかの真剣勝負な様相を呈している。
・初戦:Yoshi子
初戦はYoshio(Yoshi子)。メイク担当はYoshioの奥様。つまりYoshio陣営のセコンドは奥様であるが、この勝負はキッチリと勝たせていただいた。結果はこちらの記事を参照のこと。
あとあとYoshio奥様は「“つけま” とか、あんなに本気のメイクで来るとは思わなかった!」と悔しがっていたもようだが、甘い。女装の世界に “本気(ガチ)” 以外の言葉は存在しない。
先ほども書いた通り、それはありし日の侍 (サムライ)のごとく、常に生きるか死ぬかの真剣勝負なのである。
・次戦:砂子
そして迎えた第2戦。相手は砂子間正貫の化身「砂子(すなこ)」である。実に不気味。彼の性格上、普通に戦ってこないだろうと最初から思っていた。
例えるならボクシングの試合に五寸釘バットを持ってくるような人間である。しかもメイクは私と同じメイクスタジオ「RAAR」に頼んだという。さらに言えば同じ日の同じ時間に! 合わせてくんなや……。
なので警戒していたし、ふだん仕事してる時の会話中「絶対に砂子間さんは飛び道具で来るでしょ!」と探りを入れたりもしたが、「さあ、どうでしょうね……ヒュ〜(口笛)」と完全黙秘を貫くばかりだった。さすがは「正貫」である。
・それぞれ控室へ──
そして決戦当日。砂子間と共に女装サロンRAARの門をくぐり、私は長年タッグを組んできた、女装時のトレーナーでありセコンドでもある岡本めぐみ大先生が待つメイク室へ。
あえてダサめにチーム名をつけるとしたらキング・オブ・クイーンズ。女子プロレスで例えるならば、ブル中野&北斗晶くらい鉄壁の布陣である。負けは絶対に許されない。
対する砂子間は、岡本氏の弟子ともいえるナギサちゃんが待機するメイク室へ。なんでもナギサちゃん、専門学校を卒業したばかりという。さらに砂子間は初女装。言わばフレッシュコンビである。
かくして「ナウリーダー(ベテラン)」vs「ニューリーダー(ヤングライオン)」の戦いが始まった。
・急転直下の作戦変更
最初は、そこそこ余裕な会話をしていた私と岡本氏。「衣装はダズリンとシーインの二刀流で行こうかと思う」「となるとメイクは可愛い系かねぇ……」など、呑気な会話と共にメイクの準備をしていた。
しかし突如としてナギサちゃんがこちらのメイク室に入ってきて、“何かのメイク道具” を持って行った瞬間から空気がピリッと一変。そして次の瞬間、岡本氏が雄叫びをあげた。
「まゆをつぶしてくるよ!」
ま、ま、まゆをつぶす……!? 何事(なにごと)かと聞いてみると、「いまナギサちゃんが持って行った道具でやることといえば、“眉毛を潰すこと” 以外に考えられないっ!」と。
眉毛を描くのではなく、つぶす。すなわち消す。とはいえ、砂子間の面長な顔で「能面」みたいなことをしてくるとは思えない。面長で眉毛を潰すときたら……
羽鳥&岡本「ドラァグクイーンだ!」
「ヤバイかも……」と、一気に表情が曇る岡本氏。そんじょそこらの衣装とメイクでは、ドラァグクイーンのインパクトに負けてしまう……と。どうすっぺ、どうすっぺと、このタイミングで作戦会議。
そして出た結論が、「シーインorダズリンを捨て、急きょキャバ嬢で行く」という飛び道具であった──。
・最強の装備
キャバ嬢の服は「RAAR」でレンタルできるという。すぐさま衣装ストック室へ向かい、さまざまなキャバ服を吟味。たくさんある。ていうか、こんなに衣装があったのか。結果、良質なキャバ服を借りた。
さらに、ウィッグも私が持参した中途半端なメーカーのモノでは負けると判断。これまた「RAAR」に常備してあるレンタル用のウィッグを借りることになったのだが、なんとメーカーは「プリシラ」であった。
プリシラといえば、この道30年以上のウィッグブランド。一度でもプリシラを付けてしまうと、他のメーカーのウィッグがウソ臭く感じてしまうほど “自然” なのが特徴の、あのプリシラである! レイちゃんは、鉄の兜を手に入れた。
てな感じで、手ぶらでも女装できてしまうのが「女装サロンRAAR(ラール)」のスゴイところ。今度から私もレンタルで勝負していこうと思った。
さらに岡本氏は「思いっきり “可愛い” に全振りするよ!」と声高らかに宣言。のんびりした航海が、急な「まゆつぶし」という高波の出現により、岡本船長は面舵いっぱい! そんなこんなで急転直下の “キャバ嬢レイちゃん” が誕生したのである。
・しかし奴は、さらに予想を超えてきた
会社に戻り、しばし隠れるように待機していると、隣の部屋(編集部)からどよめきが。私もすぐさま部屋を飛び出し、歓声の中に入っていくと、震え上がるほど堂々とした佇まいの “砂子” がいた。
それはまるで「アメリカで武者修行してきました」くらいのふてぶてしい態度。言うなれば “凱旋” 的な雰囲気さえ漂わしていた。
さらによく見ると、我々の予想していたドラァグクイーンとは少し違う。
「テーマは、なんなの!」
恐れおののきヒステリックに叫ぶと、砂子は私を見下しながらこう言った。
「レディ・ガガ」──。
ことごとく予想の斜め上から攻めてくる砂子。第2戦目にして、早くも想定外の戦法で我々キング・オブ・クイーンズに下剋上をカマしてきたフレッシュコンビ。
砂子は「ナギサのために勝つわよ。」と言っているけど、私だって負けるわけにはいかないの。なにせ引退がかかっているの。勝ち続けなきゃいけないの。
女装界の那須川天心って言われるくらい、無敗でなければならないの。
絶対に、勝つ──。
執筆:レイちゃん(GO羽鳥)
メイク:RAAR(ラール)
Photo:RocketNews24
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