2022年12月上旬、中国は厳しい行動制限を伴うゼロコロナ政策を解除しました。その後は感染が急速に広がり、感染者数が累計で9億人に達したという報道も出ています。厳格な同政策への反発を受けての対処でしたが、多くの人は新型コロナウイルスに感染したいわけでもありません。医療体制の逼迫が深刻化する中、新型コロナ治療薬の1つである「パキロビッド」の争奪戦が起きています。通常1箱340ドルのところ、北京では7400ドルにもなっているそうです。
ネット詐欺師はこんな状況を見逃しません。感染者や不安を感じる人を標的に、まずはTwitterでパキロビッドの購入を持ちかけます。しかし、その後はWeChatやTelegram(テレグラム)に誘導し、クローズドでのやり取りを求めています。パキロビッドが山積みになっている写真も投稿しているのですが、それらのツイートの返信には、
「私は全てのお金を払い、約束の時間に箱を受け取らなかっただけでなく、何の連絡にも応答しませんでした」
「支払いは完了しましたが、今のところ箱が届いておらず、連絡にも返信がありませんので、ご注文の際はご注意ください」
などとネット詐欺師に騙された被害者と思われる人たちの書き込みが確認されました(いずれも原文は中国語)。人気の商品を売ると見せかけ、お金だけを騙し取るという、よくあるネット詐欺の手口です。2021年には新型コロナワクチンで同じような手口が広まり、本連載でも取り上げたことがあります。
参考記事:「新型コロナワクチンをネット販売? パンデミックに便乗するサイバー犯罪の手口」
ネット詐欺師との取引では、支払い後に完全に無視されるケースだけでなく、何らかの薬物が送られてくることもあります。しかし、偽物の可能性も当然考えられます。パキロビッドのパッケージに入っていたとしても、中身が何かは分かりません。そんなものを重症化している患者に飲ませるのはリスクが高すぎます。
ちなみに、パキロビッドは2022年2月に日本でも新型コロナ治療薬として特例承認されています。流通量が少なく、どの病院でもすぐに使えるような状況ではないようですが、それだけに、詐欺師が「希少な治療薬です。日本国内でも承認されているので安心して使えます」などと購入を持ちかけてくることがあるかもしれません。
怪しいところにお金を支払っても、本物が送られてくる可能性はとても低いのです。特に、暗号通貨での支払いを求めたり、やり取りをテレグラムで行おうとする場合は、証拠を残さないことが目的なので、ほぼネット詐欺と考えましょう。
もしかしたら上手くいくかもしれない、などと考えず、ネット詐欺の事例を知り、デジタルリテラシーを高めて自衛してください。日本国内でパキロビッドを販売するというネット詐欺は耳にしていませんが、これから広まるかもしれません。自分だけでなく、ご両親などネット詐欺に疎いシニアの方にも情報を共有してあげてください。
あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。
「被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー」の注目記事
高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。
※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと