姉から突然「2ヶ月かけてルーマニアの呪文を勉強する」というLINEが来た。
せっかく勉強するからには誰かに呪文をかけたいが、かける相手がいないので私にかけたいという。
状況はまったく飲み込めなかったが、とりあえず「いいよ」と言っておいた。我が家のルーマニア呪文プロジェクトの幕開けである。
■姉が突然ルーマニアの呪文を勉強を始めた
姉からいきなりLINEが来た。
突然のことで話がまったくわからなかったが、整理するとどうやらこういうことらしい。
多すぎる情報を処理できないまま、とりあえず「これ記事にした方がいいな」ということで編集の石川さんに相談。
下準備はこれで万端!次は何の呪文をかけるかを決めていこう。
中世のコンプライアンス意識は問題がありすぎる
姉がルーマニアの呪文をマスターするのは12月末。ちょうど正月前なので、実家に帰省したタイミングでやることにした。
姉が学んだ呪文は20個ほど。すべてがルーマニアの呪文というわけではなく、比較用に登場した古代ローマやベラルーシ等のものも含まれるそうだ。
その中から、事前にどれをやるかを絞り込んでいく。
どれもこれもダメだった。中世といまでは、状況が違いすぎるのだ。
時代の違いを感じつつ「法律にひっかからない」「重い病気やケガをしなくていい」という本当に最低限の基準でえらんだ結果、まず選ばれたのがこの呪文である。
「滅びの呪文」は響きこそ物騒だが、ヘビもコウモリもいらないのでかなり手軽な方である。
それに、悪いものを滅ぼすのなら特に問題はないはずだ。これを機に、日頃から滅んでほしかったものをサクッと滅ぼそう!
滅びの呪文をかけるときは踊ると趣きが出る
時は過ぎてお正月。
実家に集まった我々が、呪文で滅ぼすことに決めたのがこれである。
本当は家の害虫がいいかなと思っていたのだが、横で聞いていた父に「どうせなら庭の雑草を滅ぼしといて」と言われ雑草に決定。
家の草むしりの手伝い感覚で、呪文をやることになった。
滅びの呪文をかける前に、まずは前準備として「清めの呪文」をとなえていく。
急に姉が叫びながら踊りだしたので笑い死ぬかと思った。完全に新春初笑いである。
清めの呪文が終わったら、次は姉が「滅びの呪文」をかけていく。
最後は完全に「ハビアー!!」と叫んでいた。滅びの呪文にしては陽気である。
見た目には何も変わらないが、これで草は滅んだはずだ。
結果を待ちつつ、他の呪文を試していく。
恋占いをするにはまずは窃盗から
次は少し雰囲気を変えて「いつ結婚するか知りたい人のための恋占い」を試してみる。
この占いは、コンセプトのかわいらしさとは裏腹に「窃盗」が必須となってくる。
本当に他人の家のスプーンを盗むと住居侵入罪と窃盗罪で逮捕されるし、なにより意図がわからなさすぎて怖い。
やむを得ず、ここは友だちに我が家のスプーンを盗んでもらうことにした。
また、この占いは、スプーンを盗んだあと何を言われるかにかかっている。
事前に友達にどういう結果が出て欲しいか聞いたところ「そのうち結婚するかもしれないな〜ぐらい」と言われたので、なんとか父を誘導して「そのうち結婚するかもしれないな〜ぐらい」の結果を狙うことにした。
これで準備はととのった。それでは窃盗を始めよう!
父にめちゃくちゃ「これ何?」という顔をされたが、なにか言ってもらわないと始まらないので姉とどんどん誘導していく。
「しばらくは結婚しない」方の発言が出たので、あわてて姉と私で父が「出ていけ!」というように誘導尋問していく。
10分ぐらい誘導したが、なかなか「出ていけ!」と言ってくれない。
家族総出で占うものの、なかなか思い通りの発言がでない。
その後も散々誘導した結果、ようやく父が「あっち行きな」という一言を喋った。
これで占いの結果は狙い通りだ。正月から我が家に窃盗しに来てくれた友人に、悪い結果が出なくて本当によかった。
「痛み止めの呪文」は足に話しかけながらやる
最後は「痛み止めの呪文」である。
「痛み止めの呪文」にはいくつかバージョンがあるが、そこから手軽なふたつをチョイス。ひとつめは、「足腰の痛み止めの呪文」である。
足腰の痛みに効くというが、残念ながら私も姉も足腰はパーフェクトの状態だった。
しかたないので、ここでも友人を頼っていく。
「痛み止めの呪文」は、唱える前に足の痛いところに髪の毛を結ぶ必要がある。
結ぶのは「乙女の髪の毛」がいいらしいが、乙女の定義がわからなかったので自己申告制で私は乙女だということにした。
これで準備はばっちりだ!
友人は来月、バスケの試合があるという。それまでにはルーマニアの呪文の力でバッチリ治っているはずだ!
腹痛の呪文はわりと効く
「痛み止めの呪文」のふたつめのバージョンは「腹痛を治す呪文」である。
ここは、私が自分で自分にかける式でいくことにした。
正月の食べすぎでお腹が痛くなればちょうどいいと思っていたが、残念ながら万事絶好調だったので、やむなく家のまわりを走って腹を痛くする。
そのまま呪文を唱えるのだが、この呪文は「暖炉を持ち上げるふりをしながら」唱える必要がある。
純和風の実家に暖炉なんてあるわけないので、これを暖炉と呼ぶことにした。
ちょうどよく家にあったエアコンを「電気暖炉」として押し切っていく。
ぜぇぜぇ言いながら呪文を唱えて顔をあげたら、私以外の全員が腹をかかえて笑っていた。
ひとつわかったのは「この呪文の姿勢だと、腹痛が治りやすい」ということである。
しゃがんで背中を温めるというのも腹痛によさそうだし、呪文を唱えている間はどれだけ熱くても我慢をするので、子どもにやらせるのにもよさそうだ。
たぶん、この姿勢でいつもより腹痛が早く治った魔女がどこかにいたのだろう。
それが誰にでもわかる「呪文」という形になって残されていったのかもしれない。ヨーロッパの呪文、想像以上に奥が深かった。
呪文をかけたのは正月だった。1ヶ月ほどたったので、その後の結果をお知らせしたい。
両親いわく、草はちょっと枯れたらしい。勝手にオリジナルの踊りを入れたり、カタカナで適当な発音をしなければもっと滅ぼせたのかもしれない。
歴史が豊かなルーマニアには、まだまだ「おばあちゃんが魔女だった」「子どもの頃に教えてもらった魔女のおまじないを覚えている」という人達がいるという。
「冷水をかぶる雨乞いの呪文」などは、いまでも観光地で観れることがあるそうだ。ぜひ、ルーマニアに行く機会があれば、呪文にもチャレンジして欲しい。