そういえば、ちくわを自分で作ろうと思ったことがない。
たぶん、生魚をミンチにすれば作れるはずであるが、片づけや生臭さのことを考えると、どうにも作る気がしない。なにしろ近所のスーパーで88円で買えるのだ。
そこで、ちくわである。
ちくわには、ちくわに含まれる全ての成分が含まれている。
ならば、ちくわを材料にちくわを作ることだってできるはずではないか。
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一応、普通の作り方も調べておこう
ちくわを作ったことは無いものの、作り方も材料もなんとなく想像ができる。
念のため調べてみたところ、ちくわを作る際は白身魚のすり身に、卵白や片栗粉を加えた上で、棒に巻き付けて焼くらしい。YouTubeで検索すると、ちくわ工場の製造現場の動画まであった。(THE MAKING (217)ちくわができるまで)
生地の練り方、火の入れ方など、細かい工夫を積み重ねて作っているのが分かる。これを家庭で再現するのは、たしかに大変そうだ。
でもまあ、要するにすり身を棒に巻き付けて加熱すれば、ちくわになるはずである。
魚のすり身も、ちくわのすり身も、すり身に代わりはあるまい。
よっしゃ、やってみようではないか。
ちくわをすり身にすると魚の面影が見える
それでは、実際にちくわを作っていく。
「車輪の再発明」という慣用句が一瞬頭をよぎったが、車輪を最初に再発明した人だって、きっと車輪を最初に発明した人と同じくらいテンションが上がったに違いない。
僕は竹輪を再発明したいのだ。
まず初めに、すり身を手に入れるためにちくわをミキサーにかける。
ちくわのほどよい弾力のせいで、すり身の3歩手前くらいの状態からミキサーだけでは潰せなくなってしまった。
ちくわ100%では無くなってしまうが、ここからは少しずつ水を加えていくことにする。
蓋を開けると、白身魚の芳醇な香りが立ちこめる。タラだ、タラの香りだ。
ちくわだったころよりも、濃厚に魚っぽさを感じる。そうか、そういえばお前、スケトウダラだったのか。
いくぶんペースト状になってきたが、やはりちくわ本来の弾力感のせいでこれより小さくすることは難しそうだ。
ここからはヘラでブチブチと潰していくことにする。
最初と比べると、なんとなくすり身っぽさが増したと思う。
あとは、このすり身を棒に巻き付けて焼くだけだ。
口の中に広がる味そのものは、ちくわのままである。
ただ、やはり食感が違うから、このペーストだけでちくわを連想するのは難しい。
おとといの夜に見た夢を思い出そうとしているときのような、そういうもどかしさがある。
ちくわをちくわに成型しよう
割り箸にちくわのすり身を巻き付けて、ちくわの形に成型していく。
せっかく自分好みの大きさのちくわが作れるのだ、肉厚で大きなちくわにしてしまいたい。
すごい!本当にちくわっぽくなってきた!
うどん屋さんのちく天くらいの大きさだ。やった。大勝利ではないか!
と思ったのもつかの間、自重でずるずると崩れてしまう。
おそらく水を含ませたのがよくなかった。やはり、ちくわ100%で作るべきだったのだ。
しかし幾度目かの失敗のあと、ふいに現われた断面に救われた。
見よ、この斜めの断面に見えたちくわらしい穴を!
まだ焼く前だというのに、こうして穴が見えるとちくわらしく見えてきた気がする。
やはりちくわだ。これはちくわなのだ。
すり身の量を減らしたり、力加減を調節してみたりと試行錯誤してみたものの、やっぱり崩れてしまう。
最終的に、片栗粉の力を借りることにした。ちくわの本来の作り方でもでんぷんが使われるらしいが、その理由もよく分かる。
現に、片栗粉を入れたあとのほうが、圧倒的に成型しやすかったのだ。
ちくわ100%で作ってるとは言いにくくなったが、まあ多少片栗粉が入っていても味に支障はないはずだ。
ひき肉100%をアピールするハンバーグがあるけれど、普通のハンバーグを食べて「むむ、パン粉の味がする」と思ったことがあるわけでもないし。
もっとも、これでもまだ自重で崩壊する恐れがあったため、最終的にはやや細長い形状とすることにした。
あとは、このちくわを180度に余熱したオーブンで片面20分ずつ焼いていく。
ちくわを作ったことが無いので、このあたりは感覚である。まあ、火が通らなくてもそのまま食べれるんだけど。原料がちくわだから。
ちくわで作ったちくわがついに完成!
さて、こうして出来上がったのが、こちらである。
たしかに、我々の常識から言うと、これはちくわでは無いかもしれない。
だがそもそも、ちくわの歴史は古く、平安時代にまで遡る。当時は植物の蒲の穂に似ていることから「蒲鉾(かまぼこ)」と呼ばれていたそうだ。
なるほど、今回のちくわを改めて見ると、たしかに蒲の穂のようではないか。
そう、我々はちくわでちくわを作ることによって、1000年前のちくわの原点に回帰したのだ!
見た目はいささかプリミティブなルックスだが、味はきっと悪くないはずである。
だって、原料はちくわである。ちくわの味がするはずだ。
口元に近づけたかぎりは、ちくわの香りである。なんなら表面を炙った香ばしいちくわである。
それが口の中に入った途端に、たちまちにちくわ味の虚無に変わるのだ。
ちくわの歯切れのいい弾力がない。そして、しっかりとすり身にしたはずなのに、舌触りがやけにごろごろとしている。
普通のちくわが4K画質であるならば、このちくわはファミコンのドット絵を磨りガラス越しに見ているようである。そういう意味では、やはり味もプリミティブと言えなくもない。
ちくわはすごい
ちくわの再発明に失敗して、改めて痛感した。ちくわはすごい。
いろんな料理で主役から脇役までそつなくこなすし、そのまま食べても十分美味しい。
オフィスグリコみたいに、オフィスちくわがあればいいのに、と常々思っている。
今回、最終的に焼いたちくわは少し独特な形になってしまったが、
ちくわをすり身にしていく過程では、ちくわの新しい食べ方を発見できた気がする。。
タラの風味はシーチキンやアンチョビとはまた違った味わいだし、生魚をペーストにするよりも調理はずっと簡単だ。
あのちくわのすり身をベースに、マヨネーズや醤油を加えていけば絶対美味い。
もしかしたら何百年も愛されてきたちくわの可能性を、少しだけ広げられたのかもしれない。