なぜ若者はネットでの出会いに抵抗がないのだろうか。大人世代では、ネットを通じた出会いには抵抗がある人が多いだろう。「危ない一部の人がするもの」という認識の人も多いはずだ。一方で、若者たちは当たり前のようにネットで出会っている。
10年ほど前に渋谷の女子高生対象に調査したときのことだ。「ネットの友達と会ったことがある」割合は、聞いた範囲では100%だった。「もうネットで知り合った人と会うことは当たり前なのだ」と強く実感した。
最近は、大学生の間でマッチングアプリの利用や出会いが当たり前となっていること、SNSを通じて普通の学生たちが交友関係を広げており、抵抗がない世代であることを強く感じる。若者たちのネットでの出会い実態と抵抗がない理由について見ていきたい。
リアルの友達もネットの友達も友達
小学校高学年から高校生を対象としたデジタルアーツ「第13回未成年者の携帯電話・スマートフォン利用実態調査」(2020年4月)によると、ネット上だけでコミュニケーションを取る友達(ネット友達)がいる割合は、未成年全体で40.1%。高校生では51.0%に上る。
ネット友達と会った、または会いたいと希望する割合は、未成年全体で40.3%。高校生女子に至っては65.5%にもなる。知り合うきっかけはさまざまなSNSやウェブサービス、オンラインゲームなどであり、“趣味垢”などを通じてネットでの交流で親しくなることも多い。
SNSが生まれて既に18年経った。若者の多くは生まれた頃からSNSがある、SNSネイティブ世代だ。SNSの利用が当たり前であり、リアルの友達とオンラインの友達に差がないという感覚の子は多い。「リアルの友達もネットの友達も友達に変わりがない」という感覚なのだ。
「趣味友とライブに行くと盛り上がる」
ある女子学生は、「趣味垢で仲良くなった人と一緒にライブに行った。最初から趣味が合うことがわかっていたから、話がめちゃくちゃ盛り上がって最高に楽しかった」という。このように、趣味垢を通じてイベントやライブに一緒に出かける例はとても多い。
「同じ学校とかにはなかなか同じ趣味の子はいないから、ネットを使ったほうが見つかりやすい。会うまでにずっとやり取りしているから、信頼できることもわかっている。だから会ってすぐに盛り上がる」。ネット経由で何度もさまざまな人に会ったというその女子学生は、学業には非常に熱心で成績もとても良い。自称オタク趣味の持ち主で、ネットは主に同じ趣味の友達との交流に使うことが多いそうだ。
かつてはネットでの出会いは珍しく、特別なものだったかもしれない。「ネットで出会った」ということは言いづらいことだっただろう。しかし、今はごく普通の子達が会っており、「ネットで会っている」ことを堂々と公言しているのだ。
コロナ禍が後押ししたマッチングアプリの普及
大学生を対象としたエンカラーズの「マッチングアプリに関するアンケート調査」(2022年10月)によると、大学生のマッチングアプリ利用経験は26.5%と4人に1人に上り、10人に1人以上が現在でもマッチングアプリを利用している。
事実、マッチングアプリを利用していること、マッチングアプリを通じて異性と会ったことがあることを、教員である私に公言している学生もいる状態だ。「周りにもマッチングアプリを使っている友達は多い。マッチングアプリでカップルになった子もいるし、みんな使っている」と学生たちは口々に言う。
マッチングアプリの普及は、コロナ禍が後押しをした面がある。学校や会社などに行く機会が減り、知り合う機会も減ってしまったため、マッチングアプリを利用するしかなかったという。コロナ禍では、SNSなどのネット経由での交流も増えている。「これまでネットを通じて会うなんてと思っていたけど、学校に行けないから友だちを作るのが難しかった。単位をとったりするのに情報とかほしいし、SNSを通じて友達を作るしかなかった。SNSで交流して、学校に行けるようになってから直接会ったことがある」とある大学生から聞いた。
ネットだけで言える本音と相談
若者たちは、TwitterやInstagramでは複数アカウントを使い分けている。1つだけしか使わないほうが少数派で、多くは大学に入学したら“大学垢”を作り、それまでの高校時代とはアカウントを分けて利用する。そのほかに“趣味垢”や“裏垢”などもあることが普通だ。
アカウントが複数なのは、テーマや人間関係ごとに使い分けたほうが便利なのもあるし、顔を使い分けたいからでもある。失敗した時に居場所を完全に失うことを恐れ、うまく顔を使い分けているのだ。しかしその結果、自分をすべてさらけ出す場がなく、本音を言える相手がいないという事態も起きてしまう。
彼らが本音を言ったり相談したりする相手は、ネットで出会った人のことも多い。利害関係がないからフラットな意見が聞けるし、しがらみがないので言いやすいという。YouTuberに相談したり、ネットで知り合った友達に相談したりするという若者もいる状態だ。いざというときにはアカウントを消したり、ブロックしたりすればいいと考えて、ネットだけで本音を出し、弱音を吐く。しかし、心を打ち明けることで相手との距離は縮まり、相手を好きになったり、信頼したりしてしまうことにもつながる。
現実世界に居場所がない若者たちは、ネットで弱音を吐き、相談に乗ってくれる優しい人の言うなりになってしまいがちだ。この心理を悪用されて、悪意ある大人に呼び出されて誘拐被害にあったり、性被害につながったりする事態も起きている。
若者たちはネットでの出会いをうまく活用し、情報を得たり、交友関係を広げたり、恋愛をしたりしている。しかし一方で、純粋で信じやすいため、悪い大人に悪用されて被害に巻き込まれることもある。周囲の大人は、彼らを見守ってあげてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
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