2025年2月3日、東京大学グローバル教育センターで開催されたDialogue at UTokyo GlobEに、来日中のOpenAIのCEOサム・アルトマン氏が登壇。学生たちと対話を行いました。参加した学生の専門分野も医学、哲学、工学から、経済学までさまざま。ディスカッションは多様な質問を軸に行われ、教育、技術、倫理、そしてチームビルディングと内容は多岐に及びました。
結果、今後のビジネスを見るうえでも個人のキャリアを考えるうえでも、東大生のみならずすべてのビジネスパーソンにとってヒントが詰まった内容でした。
世界最高水準の教育を誰もが受けられる未来へ

アルトマン氏は「生成AIの活用により世界中のすべての人が最高の教育にアクセスできる未来を実現したい」と話します。
これまでの教育システムでは、学習環境や指導方法に大きな地域差があり、能力や背景にかかわらず均一な学びを実現することは困難でした。
しかし、AIによるパーソナライズされたチュータリングは、学習者一人ひとりの理解度やニーズに合わせた最適な指導を可能にします。
わたしたちの技術で教育をパーソナライズすることができます。今後、AIが個々の学習スタイルに合わせ、足りないことを補うこともできるのです。誰もが自分のペースで、世界最高水準の知識にアクセスできるようになります。(アルトマン氏)
また「技術の恩恵を最大化するためには、システムへのアクセスをできるだけ無償で提供することが重要だ」とも。教育やそのほかの公共サービスにおいて、技術の格差が新たな社会的不平等を生まないよう、企業や政府が協力して取り組むべき課題だと話しました。
急速に進化するAI技術、ビジネスへの影響

AI技術の進化のスピードの加速は止まることがありません。
「10年後、30年後、100年後はどうなる?」という問いかけに対しては「100年後どうなるかは全く想像できない」とアルトマン氏。
しかし、AIモデルの進化により、これまで何時間もかかっていたタスクが、数分、あるいは数秒で完了する時代が来ると考えているそう。
2035年は2025年とは全く違ったものになることは確実でしょう。世界は大幅にかわります。いまの科学の進歩や実験の速度は10倍くらいになる。もしかしたら100倍になる。世界の経済を牽引する。生活の質はものすごく上がる。宇宙探査なども進むかもしれない。(アルトマン氏)
AIが切り拓く新たなスキルと知識の領域
「これからどんなスキルが求められるのか」という質問に対しては「AI、数学者、プログラマ、AIそのものや物理学。こんなものを特別扱いする必要はない。全ての人が最高の会社を経営している状態になるわけです。ビジョンをつくるとか、これまではAIでやらなかった新しいことが重要になるでしょう」とコメント。
定型的な知識ではなく、創造性や新たなテクノロジーに対する柔軟性が大切だと話しました。
同じく同社CPOのケヴィン・ウェイル氏は「まず今重要なのは、使い方を学ぶこと。これはAIをつかうとどうなるのか?と自問しながら新しいテクノロジーを学んで。ベストの使い方を理解するのがよいでしょう」とコメントしました。
強化学習とマルチエージェントシステム
アルトマン氏は「AIの研究開発においては、強化学習やマルチエージェントシステムといった先端技術が、今後のイノベーションの原動力となる」と話します。
これらは従来のアルゴリズムを超え、環境に適応しながら自律的に学習・進化できるシステムを実現するという考えだそうです。
今後、AIは単なるツールを超えて、ビジネスプロセスや製品開発における革新的パートナーとなるだろう。(アルトマン氏)
ハードウェアの検証にAIを役立てられるのか、という学生の問いにも「次のモデルではいろんなことができます!」とポジティブな返答が。
パートナーとしてのAIの役割は大きなものになりそうです。
ディープリサーチとエージェントプログラム、今後のリサーチ展望

対話では、具体的なプロトタイプとして、ディープリサーチやエージェントプログラムの開発にも言及がありました。
これらは、インターネット上の膨大な情報を瞬時に処理し、従来は数日かかっていた調査や解析作業を数分で完了する能力を持っています。
AIを活用することで、私たちは今までにないスピードで課題を解決できる時代に突入している。(アルトマン氏)
「今後のリサーチの計画は?」という問いに対しては、このように解答しています。
OpenAI o3-miniをローンチしたところだ。今後の研究については半年から1年先くらいまでの見通しがある。数論モデルで最高速のものができている。
オンライン上の情報をAIモデルに収集させる「Deep research」もローンチした。
これで完了できるタスクは人間だったら、インターネット上で何時間も何日もかかるというのがすぐにできる。真のエージェントの役割を果たしてくれる。
コンピュータを最大限活用して、難解な問題を解く、科学的、自律的にアルゴリズムを働かせながら問題解決をすることができる。
倫理的なAI
AIの社会実装における倫理的な側面は避けては通れないテーマ。学生からもさまざまな倫理的な課題があがりました。
アルトマン氏は「透明性の高いガイドラインが必要である」と話し、技術が持つ潜在リスクと社会的影響と真摯に向き合う姿勢を強調します。
「『技術は常に進化するもの。使えば使うほど、より良いシステムへと成長していく』との考え方が、今後のAI実装の鍵となる」とも。
ブロックマン氏は「みなさんのご意見をできるだけたくさんお聞かせください。わたしたちはフィードバックやリクエストを求めています」と話しました。
チームビルディングと起業家精神
起業を目指す学生からは「起業やチームづくりにおいて、どのような人材やマインドセットが求められるのか」といった質問が投げかけられました。
アルトマン氏は、チームビルディングにおいては、専門知識以上に「やる気」と「エネルギー」、そして柔軟性が重要だと語りました。
新たな市場や技術の進歩に直面するなかで、固定概念にとらわれず、チャレンジ精神を持って取り組む姿勢こそが、チームの成功の鍵となる。
Source: 東京大学グローバル教育センター, OpenAI