もしも小惑星「ベンヌ」が地球に衝突したらどうなる? 157年後の話だけどね

0.04%の二酸化炭素濃度で人類の存続が危うくなるのを考えると、0.037%は低く感じなかったりします。

2182年9月24日、比較的大きめの宇宙の岩石が地球に衝突する確率が0.037%あるそうですよ。衝突の可能性は限りなく低いとはいえ、ベンヌは太陽系でもっとも危険性が高い小惑星のひとつとして知られています。万が一のときの備えはしておきたいところ。

そんなベンヌが実際に衝突した場合をシミュレーションした初めての研究によると、突然の寒冷化と世界的な食料不足を引き起こす可能性があるのだとか。

小惑星衝突で急激な気温低下と食料危機に

韓国を拠点とする研究者のグループは、ベンヌのような中規模小惑星が衝突した場合、地球の気候や私たちの暮らしがどう変化するかについてシナリオを作りました。

それによると、ベンヌの衝突は最大3〜4年もの間、甚大な混乱を引き起こす可能性があるとチームは指摘しています。

もっとも深刻なシナリオでは、数億トンものちりが地表に降り注ぎ、太陽光が大幅に遮断されて、世界的に気温が低下植物の生育にも影響が出るとのこと。

今回の発見は、小惑星衝突後の地球の気候をモデル化した初めての研究として、Science Advancesに掲載されました。

ベンヌは比較的小さな地球近傍小惑星で、だいたい6年おきに地球に接近します。科学者いわく、この岩石は7億年から20億年前に、もっと大きな炭素質の小惑星から分離して、ゆっくり地球へ近づいてきた可能性が高いそうです。

NASAの歴史的ミッションであるOSIRIS-REx(オサイレス・レックスまたはオシリス・レックスと呼ばれています)では、2020年10月に採取したベンヌのサンプルを、2023年9月に無事地球に持ち帰ることに成功しました。

このミッションのおかげで、研究者たちは太古の岩石を間近で調べられるようになり、ベンヌには生命の重要な構成要素が含まれていることが判明しています。

ベンヌが衝突した場合、その被害はかなり壊滅的なものになりますが、地球はそれ以上の衝突を経験してきているらしいです。

6600万年前には、幅が約10kmの小惑星が衝突して、恐竜をはじめ当時の生物の大半が絶滅しました。ベンヌは幅0.5kmくらいなので、それに比べるとかなり小型。でも実は、ベンヌのような中規模小惑星は、太陽系ではけっこう一般的なのだそう。

Asteroid danger by the numbers
Image: NASA

韓国の釜山大学校IBS気候物理センター(ICCP)のディレクターで、この研究の共著者であるAxel Timmermann氏は、メールによる声明で次のように述べています。

「中規模小惑星は、平均して10〜20万年に1回の頻度で地球に衝突します。つまり、私たちの初期の人類の祖先は、こうした地球規模の衝突を実際に経験していた可能性があり、それが人類の進化や私たち自身の遺伝子構成にまで影響を与えたかもしれません」

そう考えると、今を生きている私たちも、宇宙がもたらす偶然の産物って気がしてきますね。

身の毛もよだつシミュレーション結果

じゃあ157年後にベンヌが地球に衝突したらいったいどうなるのか? 研究チームはそれを調べるために、中規模小惑星の「理想化された」衝突シナリオをモデル化しました。とはいえ、ここでいう「理想化」はあくまで統計用語で、このシナリオが理想的な状況とは程遠いのは言うまでもありません。

研究チームによると、この衝突で1億〜4億トンものちりが上空に放出されるらしいです。その結果、地球全体の気候や大気の化学成分が変化し、陸上の植物の光合成や海洋プランクトンにも影響が及ぶ可能性があるとのこと。

ベンヌ級の小惑星が衝突した場合、最大のインパクトは、空を覆い尽くすくらい大量のちりが発生して、太陽の光を遮っちゃうことだそう(ちなみに、恐竜を絶滅させたチクシュルーブ小惑星の衝突についても、別の研究チームが同じようなシナリオを提唱)。

研究によると、地表に届く太陽エネルギーの減少によって、気温は最大で約4度下がり降水量は15%ほど減少。さらに、オゾン層が約32%破壊される可能性があるとのこと。なかなかシャレにならない影響ですね。4度も気温が下がるとちょっとした氷期になりますよ。

そのあたりについて、研究論文の主執筆者でICCPの研究者でもあるLan Daiは次のようにコメントしています。

「衝突後に訪れる急激な冬は、植物の生育に厳しい気候条件をもたらし、最初の段階で陸上や海洋の生態系における光合成が20〜30%低下する可能性があります。これによって、世界の食料安全保障に深刻な混乱を引き起こす恐れがあります」

つまり、私たちが知っている気候変動の影響どころの話じゃないレベルで食料事情がヤバくなる可能性があるってことですね…。

思わぬ恩恵も(だからといって衝突を望んじゃダメ)

とはいえ、悪いことばかりじゃないみたいですよ。小惑星の衝突で放出された鉄分のちりが成層圏を舞い、海洋の一部に沈着することで、ケイ酸塩を豊富に含んだ藻類がこれまでにないレベルで大量発生する可能性があるといいます。

さらに、陸地の植物は回復に2~3年かかるのに対して、海洋プランクトンは小惑星の衝突後約6カ月で回復し、その成長率は衝突前よりも高いレベルに達する見込みとのこと。

この点について、Timmermann氏は以下のように説明してくれました。

「私たちは、ちりに含まれる鉄濃度の変化を追跡することで、この予想外の反応を発見しました。シミュレーションでは、植物プランクトンと動物プランクトンが異常に増殖しましたが、これが生態系にとって思わぬ恩恵となる可能性があります。また、陸上の生産力低下が長引くことで発生する食料危機の緩和に役立つかもしれません」

万が一に備える科学者たち

ベンヌが地球に衝突する可能性はほぼゼロに近いとはいえ、研究者たちは地球の運命を自分たちの手でコントロールしようと本気を出しています。

NASAが2022年9月に成功させた Double Asteroid Redirection Test(DART)は、人類が小惑星の軌道を変えられることを証明。これは、宇宙から飛んでくる厄介な岩石から地球を守るための、超重要な第一歩になったそうです。

ベンヌよりもっと差し迫った問題もあるんですよね。最近発見された小惑星「2024 YR4」は、2032年に地球に衝突する確率が1.9%と発表されたあと、2月7日にはその確率が2.3%に上昇しています(時間の経過とともに情報が増えれば確率は低くなっていく見込み)。

今回の研究チームのシミュレーションが単なる想定で終わってほしいところですが、人類の未来を運任せにするわけにはいきません。人類が共通の脅威にどう立ち向かうのか、結局のところ、知恵と意志の強さが試されることになりそうです。

Reference: NASA

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