気候変動も金で解決か…。低品質で安すぎる「カーボン・オフセット」はグリーンウォッシュ?

安かろう悪かろうなのか…。

企業活動で避けられない二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を、他の場所で削減・吸収するプログラムを通じて埋め合わせる「カーボン・オフセット」を利用する企業が増えていますが、その中には非効率的なものがあったり、排出量が多いのにカーボン・オフセットを利用しない産業があったりするようです。

カーボン・オフセットとは?

カーボンオフセットは、企業が自社の温室効果ガス排出を相殺するために、他の場所での排出削減プロジェクトに投資する仕組みです。

「パリ協定」では、今世紀末までの気温上昇を産業革命前比で2度を大きく下回る1.5度を目指すという目標に国際的な合意がなされ、その目標達成に向けて、各国政府もCO2削減目標を定めています。また、各国の自治体や企業もまた、CO2削減目標を掲げて努力をしています。

しかし、企業が経済活動を行なう中で、現段階ではまだ削減目標を達成できないケースがあります。そういう場合に、排出量を埋め合わせるために、国や民間による植林や森林保護、再エネ推進、省エネ、炭素回収・貯留などの排出量削減に貢献するとされるプログラムの「クレジットを購入することで、自社の排出量を埋め合わせるのが「カーボン・オフセット」です。

ここで重要なのは、企業が排出量削減のための努力を最大限に行なうことと、カーボン・オフセット・プログラムが本当に排出量削減につながっているかどうかです。

気候変動対策よりもグリーンウォッシュにいそしむ企業

今回、フロリダ大学の財政学助教授で、持続可能な金融とコーポレート・ガバナンスを専門としているSehoon Kim氏らが発表した研究結果によると、多くの企業は低品質で安価なオフセットを購入して、実際の気候変動対策よりもグリーンウォッシングに注力しているそうです。

Kim氏によれば、2005年には事実上ゼロだったオフセットが、2022年には年間3,000万トンの市場に成長したとのこと。モルガン・スタンレーは、自主的なカーボン・オフセット市場は2030年までに1,000億ドル2050年までに2,500億ドル規模に成長すると予測しています。

研究チームは、2005年から21年における上場企業866社のオフセットプログラム利用状況を分析しました。その結果、大口機関投資家の利用比率が高く、ネットゼロ達成を公約している企業ほど、自主的なカーボン・オフセット市場を積極的に利用していることが判明しました。

具体的には、サービス業や金融業などの排出量が少ない業種ほどオフセットを利用する傾向が高く、目標に掲げている削減量をほぼすべてオフセットした企業もあったといいます。

Image: Kim et al. 2024 / The Conversation

上の図は、主な産業の排出量(Emissions)とオフセットの割合(Percentage of emissions offset)を表しています。

金融・保険・不動産・貿易などのサービス業は比較的少ない排出量の99.2%をオフセットしています。アパレル業界も排出量が少ない割に、オフセットは約70%とかなり努力しているといえます。

それに対して、石油・ガス(オフセット率0.4%)運輸(同1.2%)などの排出量が多い産業は、二酸化炭素排出量に対するオフセットの割合はごくわずかです。

こういった状況から、研究チームは自主的なオフセット市場の効果や、企業がオフセットを利用する真の動機について疑問を投げかけています。

企業がオフセットする理由、しない理由

カーボンオフセットは、排出量が少ない、いわゆるカーボン・フットプリントが小さい企業にとって、排出量を削減するために高額投資するよりも、オフセットを購入した方が安上がりなオプションになっていると研究チームは指摘します。

逆に、排出量が多い企業ほど、自力で排出量を削減する傾向が強かったそうです。毎年大量に排出する温室効果ガスをオフセットし続ける無限ループにはまると、とんでもないコストになりますからね。

低品質、低コストのオフセットが多い

また、企業が利用しているオフセットについて、格付け機関によって高評価を受けたプログラムは比較的少なく、オフセット・クレジットの70%以上が1トンあたり4ドル以下という低価格だったそうです。

バイデン政権は炭素の社会的コストを1トンあたり51ドルに設定しています。また、近年は1トンあたりの社会的コストを125258ドルとする研究結果が発表されています。

つまり、企業が利用しているオフセット・プログラムの多くは、気候変動対策として効果が小さいうえに、コストも低すぎるようです。

ということは、企業がその気になれば、オフセットの効果や価格についてよくわかっていない利害関係者や消費者に対して、低コストで環境に良い、地球にやさしい活動を行なっているとアピールできることになります。

カーボン・オフセットが、いわゆるグリーンウォッシュに利用される可能性があるというわけです。これでは確信犯ではないとしても、グリーンウォッシュ批判を避けられない気がします…。

研究チームは、低排出企業がわずかな排出量を相殺するだけで、ESGパフォーマンス(環境・社会・ガバナンスの各分野でどれだけ優れた企業であるか)に関して同業他社よりも優位に立てるようになることがわかったといいます。

自主的なオフセット市場の改革が必要

研究チームは、今回の調査結果を政策立案者や規制当局が自主的なカーボン・オフセット市場のルールづくりの議論をするうえで重要な意味を持つと述べています。

また、現在の自主的なカーボン・オフセット市場が低品質かつ安価なオフセットプログラムであふれているのは、透明性と信頼性を確保するためのガイドラインや規制の欠如が原因と指摘しています。

脱炭素とネットゼロ達成のために、オフセットによる気候変動対策などを通じて、よりよいコミュニティーづくり、よりよい社会づくりに貢献したいとまじめに取り組んでいる企業や事業主も少なくないと思うんですよね。また、そういった取り組みをしている企業の商品やサービスを応援する一般の人々もいるはずです。

企業には、オフセットを利用する前に排出量削減のための努力をしてもらうとして、気候変動解決には多くの企業や人々との協力と、ありとあらゆる手段が必要なので、気候変動や環境のことを考えている人たちにとって、わかりやすくてフェアなカーボン・オフセット市場をつくってほしいですね。

カーボン・オフセットと炭素税をセットにすれば、排出量も早く減らせて、気候変動対策に必要な原資も確保できるんじゃないの、と思いますけどね…。

Source: Kim et al. 2024 / SSRN, The Conversation

Reference: Scientific American, Carleton and Greenstone 2021/ SSRN, <a href="https://www.nature.com/articles/s41467-021-24487-wBressler 2021 / Nature Communications