フランス料理をはじめとする海外の美味しそうな料理は、たいてい硬いパンと一緒に出てくることが多い。いつも思うのだけれど、あれってほかほかのご飯と一緒に食べたらもっと美味しいんじゃないだろうか。
今回は各国の美味しい物を、日本代表ほかほかご飯にのせて丼にしていただきました。
【目次】
丼片手に各国の美味しい物を探す旅に
今回のメンバーはライターの江ノ島茂道さんとデイリーポータルZ編集部安藤(筆者)。ご飯が大好きな2人組である。
ちなみにライター江ノ島さんと編集部安藤はデイリーポータルZ(https://dailyportalz.jp/)において「ハンバーグクラブ」という最高の活動をしている。
ハンバーグクラブの主な活動は、会社帰りに待ち合わせをしてハンバーグを食べに行く、というシンプルなものなのだが、つい先日の活動でもハンバーグと一緒に注文したのはもちろんご飯だった。理由は「それ以外に考えられないから」だ。
ハンバーグにご飯が合うことは言うまでもないとして(パンも美味しいですよね、すみません)、フランス料理とかって、だいたい硬いパンと一緒に出てくるだろう。そんなお洒落な食卓を目にするたび「これ、ご飯で食べたいな」と思ったことはないだろうか。
僕たちはあります。というか毎回思っています。
そこで今回、各国の美味しい料理を、我が国の誇る最高の主食「ほかほかご飯」にのせて、丼として食べてみることにしました。もしかしたら新しい食文化が生まれてしまうかもしれません。
丼の旅はベトナム料理店から
まずは的を絞らず、街にある美味しそうなものの中から、ご飯にのせたらさらに美味しくなりそうなものを探して歩いてみた。ルールは特にないが、カレーとか刺身とか、すでに丼としての美味しさが保証されているものは除く。
美味しそうなお店のならぶ通りで、前を行く江ノ島さんの足が止まった。
江ノ島 「安藤さん、これなんて絶対ご飯に合うと思うんですよね」
江ノ島さんが見つけたのはベトナム料理「旨辛スープのブン・ボー・フエ」。rice vermicell(米粉のビーフン)と書いてあるので、すでにごはんとの相性の良さが約束されているようなもの。迷わず買った。
上品なフレンチも丼にしたい
続いて取材班は上品なフレンチを扱うお店を発見。ケーキ屋さんと見まがうほどにおしゃれなディスプレイである。これは期待できそうだ。
名前だけでは何が何だかわからなかったので店員さんに聞いてみた。
店員さん 「パテドカンパーニュは代表的なフランスの家庭料理です。このままでもお召し上がりいただけますし、もちろんバゲットにのせても野菜と一緒にパンにはさんだりしても美味しいですよ」
江ノ島 「ご飯にのせてもいいんでしょうか。」
不意打ちである。一瞬、あたりの酸素が薄くなった気がした。
店員さん① 「それは、どうでしょうね(隣の店員さんに目くばせをする)」
店員さん② 「そういったお召し上がり方は、あまり聞いたことがないですね」
やはりこういった上品な料理は「ご飯にのせて丼にする」みたいなパワフルな食べ方はしないものなのかもしれない。そんなことしたら美味しすぎてたいへんなことになっちゃうのだろうか。その扉、開けてしまったらすみません!
このお店ではパテドカンパーニュのほかにも牛肉の赤ワイン煮込みを買った。そんなのご飯にのせたら確実に美味いと思ったから。
これで十分かと思われた矢先、江ノ島さんの目がひとつの瓶詰に止まる。
フォアグラである。伝説としては聞いたことがあるが、正直2人とも食べたことはない。そんなフレンチ食材の雄が瓶に詰められている。
お店の人に聞くと、フォアグラはわりとよく売れているらしく、これが最後の1瓶なのだとか。いつの間にみんなそんなにいいものを食べていたのか。自身の人生と世間とを照らし合わせてしまい、一瞬走馬灯みたいなものを見た。
しかも最後の1つと言われたら、これはもう買うしかないだろう。僕らを待つのは夢のフォアグラ丼である。興奮で頭頂部あたりの髪が逆立つのを感じた。
このフォアグラ、どうやって食べたらいいのか聞いたところ、しばらく置いて常温に戻してからクラッカー等に少量のせてお召し上がりください、とのことだった。言葉にしただけで上品である。
各国丼を作ろう
会社に戻ってほかほかのご飯をよそい、準備万端である。正直おなかが空いているのでこのまま玉子でもかけて食べてしまいたいところだが、今日の目的はごはんの新しい可能性の発掘である。
心して各国の美味しいもの丼を作っていきたい。
まずは初めて聞いたベトナム料理「ブン・ボー・フエ」から。単品での見た目はこんな感じ。
ブン・ボー・フエ、上にのせられたたっぷりの野菜をどかすと、美味そうなスープに米粉でできた細い麺と牛肉がこれでもかという量で待ちかまえていた。
それをそのままご飯にのせたブン・ボー・フエ丼がこちら!
かなりカオスな見た目になってしまったが、パクチーの香りがほかほかご飯の湯気と一緒に拡散されている。
もともとが麺を従えたスープなので、つゆだくにしてお茶漬けみたいにさらさらいくのが正解なのだろう。
いただきます!
ブン・ボー・フエ丼、これは美味い。美味いし食べやすい。酔って帰った後なんかに最高なのではないか。ちょっとピリ辛なのもご飯に合わせたとしか思えない。米粉でできた麺も、すき焼きでいうところのしらたきみたいに見える。
しかし食べ進めていくにつれ、徐々にご飯の甘さが前に出てきてしまい、つゆだくでもちょっと味が薄いなと感じてしまった。
途中でひとつまみの塩か、それとも一滴のナンプラーでもあったら最高だったかもしれない。
江ノ島さんいわく、ブン・ボー・フエは丼にする前にすでに味のバランスが完成されているので、ご飯を足すことでそのバランスが変わってしまうのでは、と。
僕ら日本人には、ご飯は主張しないもの、という認識があるが、外国料理と一緒に食べると実はきっちり主張してくるということがわかった。ご飯って甘いのだ。
こうなってくるとフレンチもちょっと不安である。調味料も揃えておくべきだったのか。
パテドカンパーニュ&フォアグラ丼
多少の不安もパテドカンパーニュを取り出した瞬間に霧散した。
肉をさらに肉で巻いてあるのだ。さすが食の巨人フランス人である。やることがとんでもない。
とんでもない、といえばフォアグラもすごかった。
瓶詰のフォアグラは美味そうな脂の中に肉がたくみに沈められており、これまたフランス人の食に対する怖いくらいの執念みたいなものを感じた。すごいぞフランス。
でも僕たちは日本人なので、この2つをほかほかご飯にどーんである。
完成したパテドカンパーニュとフォアグラの合い盛り丼は、見た目こそままごと感があるが、金額で言ったら2人で食べ放題に行けるくらいの価値がある。はたして味はどうなのか。
江ノ島 「安藤さん、これは上品な味ですよ。見た目がちょっとあれなんで油断してしまうんですが、この見た目からこの上品な味はちょっと予想できないです」
安藤 「江ノ島くん、これは複雑かつ上品ですね。僕らの語彙を越えてきてる」
江ノ島 「そうなんです。なんて言ったらいいのかわかんないんですけど、しばらくしてから振り返ると『やべーな』と思うんです」
フォアグラの食べ方としてお店の人が教えてくれた「常温にしばらく置いてからお召し上がりください」は、フォアグラの油分がとろけるからだと思うのだけれど、これがほかほかご飯にのせることで、丼にしみ込んでとんでもない風味を拡散してくるのだ。硬いパンとかクラッカーではこうはいかないだろう。こんなのばかり食べてたら現実に戻れないんじゃないか、そんな怖さすら感じる丼だった。
次もフレンチのお店で見つけたこちら。
牛肉の赤ワイン煮込み丼
牛肉の赤ワイン煮込みも、豪快にほかほかご飯にのせて丼にしてしまおう。ごめんねフランスの人。
これ、もう答え合わせする必要すらないんじゃないかと思うのだけれど、食べたいので一応食べてみた。
とろとろに煮込まれた牛肉は舌と上あごの圧だけでほぐれて広がる。濃厚なソースがほかほかご飯にからまって、もう言うことなしである。
江ノ島 「お腹いっぱいなんですけど、そんなこと言ってられない丼ですね。ちょっと笑っちゃいますよ。優勝でいいでしょう」
安藤 「でも江ノ島くん、いったん冷静になって味わってみてもらいたいんだけど、この牛肉のワイン煮込み、ご飯に合わせるにはちょっと甘すぎやしないですか」
江ノ島 「え!この丼に文句言える人なんています?」
文句ではないのだけれど、この牛肉のワイン煮込み、ご飯と合わせるにはちょっと甘すぎるように思うのだ。間違いなく美味しいんだけど、これに関しては正直ちょっとパンが欲しくなってしまった。
安藤 「ほら、パンってちょっと塩味があるじゃないですか。この甘味といっていいくらいの旨味を受け止めるのは、もしかしたらパンの塩味なんじゃないかなと」
ベトナム丼の時にも思ったが、ご飯というのは思いのほか甘味があるのだ。これは各国丼を作ってみて改めて気づいた。日本の天丼とか牛丼なんかがしっかり塩味なのは、ほっかほかのご飯の甘味とバランスをとるためだったのだ。
とはいえ牛肉のワイン煮丼は十分に優勝を狙えるくらい美味い。残りは江ノ島さんが一瞬にして平らげてしまった。
ポルチーニ入りカルボナーラ丼
最後はイタリアンである。ポルチーニ入り濃厚カルボナーラ。これを丼にしたら美味いはず、と江ノ島さんが確信を持って買ってきたメニューだ。理屈はわからんでもないが、炭水化物オン・ザ炭水化物である。なかなかそこまで攻めたメニューは世界中どこを探してもないだろう。
とはいえこれまでの経験から、塩味の効いた濃厚パスタはご飯に合うんじゃないかと思うのだ。
パスタを温めた瞬間から頬が緩むくらいいい匂いがしてきた。この時点で笑っちゃうのはもう勝利を確信したようなものなのだけれど、食べたらどうなっちゃうんだろう。
江ノ島 「安藤さん、これ笑っちゃうくらい美味いんですけど、同じく笑っちゃうくらいに食べづらいです」
ご飯の上にパスタがのっていると、どこをどう食べたらいいのかわからないのだ。ご飯の口とパスタの口とでは使い方が全く違う。
ポルチーニ茸の香り高い風味とチーズのこってりからんだパスタはご飯のおかずにもってこいなんだけど、ご飯と一緒に食べようとすると箸の使い方で混乱してしまうのだ。美味しいんだけど笑っちゃう、変な体験だった。
美味しいものはだいたいご飯に合う
今回のチャレンジでわかったことは、美味しいものはだいたいご飯に合う、ということだった。当たり前といえば当たり前なんだけれど、ごはんを主食にしている割合の少ない欧米の人にも、この事実をぜひ伝えていきたい。繊細で複雑な味付けのフレンチですら、丼でかきこむと幸せになれるのだ。
なにしろ美味しい料理を丼にして、箸でわしわし食べると、脳がびっくりするほど美味しいことは確かです。ほかほかご飯に各国料理、他にもいろいろ試してみてください!
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著者プロフィール
安藤昌教(あんどうまさのり)
愛知県出身。前職は国立研究所にて高速炉の研究に従事。その後、氣志團バックダンサー、コーヒーショップ経営、等を経てデイリーポータルZ編集部に。ものをむかずに食べる「むかない安藤」としても活動中。
Twitter:https://twitter.com/andomasanori
むかない安藤
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