「知ってる」にも「知らない」にも共感がある・誰かのSNSからばんばん来訪が ~サイト運営の裏側2023年5月

デイリーポータルZ

旅先のことを事前にしっかり調べて行く「しらべ旅」の良さとPVから考える、「知ってる」コンテンツと「知らない」 コンテンツ。

SNSから突然どわーっとバックナンバーに人が来る理由……。

2023年5月のデイリーポータルZの試行錯誤を、ウェブマスター 林、はげます会担当 橋田、編集部 古賀の3人でかたりあいました。(編集:古賀及子) 

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「知ってる」前提のネットと、普通に「知らね―」世の中

橋田:5月が終わりました!

林・古賀:ガーン!

古賀:そろそろ2023年ももう終わるぐらいの覚悟をしないといけない。

橋田:ははは。本当にね。さて、今月も活動を振り返りましょう。まずは林さん。GW後の「しらべ旅」についてですね。

林:連休に旅行する、しかも旅先で動けるライターに参加してもらって、旅先についてしらべてから行く「しらべ旅」という企画をやりました。

古賀:事前に予習していくんですね。知識があることで「これがあの!」が体験できる。

林:歴史や地理にとくべつ詳しくないライターが参加してくれたのがよかったです。例えば高瀬さんは旅行の1週間前まで掛川にお城があることを知らなかった。ナオさんは最上義光の読みを知らなかった。

古賀:ああ、なるほど。知らない人がそのことを調べて書く、というのが記事として稀有なんですね。

林:そうそう。そもそも興味のない人は掛川のお城とか最上義光とか知らないですよね。でも最上義光のことを書く人って当たり前だけど知ってて興味があって、書きたいから書くわけじゃないですか。

橋田:たしかに。

林:インターネットの世界って、知ってることが偉くて、「知ってる」ことが前提でなんですよね。でも普通の暮らしとしては「知らねー」なんですよ。そことインターネットが分かれちゃってる状態なんですよね。

古賀:インターネットは知ってて当たり前、ですね。前に私と西村さんで配信した動画で、私たち二人とも「百人一首」のある一首のことを知らなくて、気づけなかったくだりがあったんです。そしたら「そんなことも知らないのか」と怒るコメントが付いたんですよね。知らないと怒られるか、「〇〇がない、やりなおし」ってからかわれる。

橋田:「この人たちは知らないけど私は知っている」って、優越感を感じるところだと思うんだけど、怒るんだ。もどかしいのかな。

古賀:世に出るものはすべて完全であるべき、という信仰がある気がします。知らない状態は、間違っている状態とは違うんですが、間違っているのと同じように受け取られるのかも。

 「知らね―」と言える仕組みが「しらべ旅」

林:「よく知っている」ことと「知らない」こと、どっちがいいか。教養のコンテンツなら後者じゃ困るけど、そうじゃない俺たちは「知らねー」って言ってるほうが素直じゃないですか。

古賀:「知らね―」というのはバイブスですよね。一体感。

林:もともとデイリーポータルZは、そういう人の読み物サイトでありたいなと思っていたんです。

橋田:怒られたりからかわれたりすると思うと「知らね―」って言うのも勇気がいるんですが、「しらべ旅」は、知らないのが前提だったのもよかったですね。「知らね―」って言える仕組みがある。

 古賀:たしかに!

林:今回のシリーズで一番おかしかったのが、高瀬さんが人んちの石柱見たくだりで。「何かだ」って書いてて。

橋田:ははは。こういうことって旅先で多いですよね。「絶対に何かだ」とは思う。

林:でも、何だかは分からないっていう。「何かだ」ブームが僕の中で来てますよ。知識がなくても分かる「何かだ」っていうのは良いですね。

古賀:勘、予感ですよね。テレビとか見ててもこのちょい役の俳優さん、誰かなんじゃない?って思う時ありますね。

林:確かな知識をはずして予感だけあるのがいいなと思わされました。いや、でも高瀬さんだって、本当はちゃんとしたインテリですよ。「何かだろう」というのが、インテリの余裕のような気がした。

橋田:知らないって言うのはね、勇気がいりますからね。

林:とはいえ、「しらべ旅」は「しらべた旅」だから、知識もちょいちょいあるんですよ。

橋田:そうですそうです。「へえ~」が、どの記事も多かったですね。

林:パーカーの原型だったり、芦ノ湖の遊覧船だったり。

「網走で本物のカヤックを見学する~しらべ旅」より
「箱根山戦争の跡を訪ねる~しらべ旅」より

情報と情緒の隙間に企画が落ちた

林:ただ、この企画はPVはわりと低かったです。情報/知識のある記事と、共感の記事、デイリーポータルの記事はおおまかにこの2つに記事が分類できますが、「しらべ旅」はそのちょうど中間だったからかなと思って。

古賀:中間……。

林:一見情報の記事っぽい。でもそこまでの情報はなくて、「知らねー」って共感がベースになってる。情報と情緒の隙間に企画が落ちちゃったんだよね。

古賀:上の図を見ると、情報にも共感があると。共感Aと共感Bのすきま、結局「知らね―」に共感がなかったんですかね。

橋田:しらべてから旅に出るみたいな旅はしないな、自分には関係がないな って思われたのかな? でもみんな旅に行く前に「るるぶ」とか買うよね?

古賀:あっ、なんか最近思ったんですけど「知らね―」ってレベルがありませんか?

橋田:レベル???

古賀:ベルリン在住のほりべさんが書いてくれる海外の記事で、たまに「知らないの域を超える知らない」っていうのが出てくるんですよ。セルビアのプラズマとか。

林:まったく知らないですよね。

古賀:そうそう。知らなすぎて、胸をはって「知らない」と言える。すると一気に「知らね―」のポップさが爆発するんですよね。知らないの共感が湧くんですよ。下手にちょっと知ってると、「◯◯かな」って思っちゃうわけですよね。

林:ああ~~。箱根山戦争って言われても、「古戦場かな」って思いますよね。西武グループと小田急グループの開発競争だと思わずにスルーされちゃう。

じっさいの、かいつまんで説明した「箱根山戦争」がこちら。
「箱根山戦争の跡を訪ねる~しらべ旅」より

古賀:そうそう!全く知らないと取っ掛かりなさすぎて何?って振り向くけど、「それって◯◯でしょ」が入っちゃうと弱いんですよね。

林:それで思い出したんですが、カンザスシティに行った時に、タクシーの運転手にこの辺は地層の関係で道路に石が転がってるんだって言われたんですよ。カンザスの地学とか想像したこともない。

古賀:「知ってる」「知らない」をコンテンツに落とし込む時のさじ加減ってあるんでしょうね。

 

 

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