インクルーシブ を広告はテーマとすべきでないのか? ブランドは反発と賛同の板挟みに

DIGIDAY

社会の不公平に対して目を背けないことを示していた「ウォーク(woke)」という言葉が、「過剰なポリティカルコレクトネス」を揶揄する表現として使われるようになってしばらく経つ。

今、ミラー・ライト(Miller Lite)アディダス(Adidas)などのブランドが打ち出した「インクルーシブ(包括性)」がテーマの広告キャンペーンやパートナーシップ、そして広告イメージが、バドライト(Bud Light)に続いてウォークだと一部保守層から批判され、反発を受けている。このような状況が続くことで、今後マーケターはウォークと見なされる可能性のある広告について再考するかもしれない。

とはいえ、何がウォークと見なされるかを予測するのは難しいだろう。反発の範囲は、トランスジェンダーの人々を広告でこれまで以上に取り上げようとする努力(バドライト、アディダス)や、女性史月間の風刺広告(ミラーライト)まで幅広い。マーケターやエージェンシーの幹部は、「リスク回避を重視するブランドやマーケターのあいだで、同業者がどのような状況にあるのかを観察しつつ警戒心を高め、同じことが自分たちに起こらないようにする方法を探す動きが高まっている」と述べている。

バランスを取ることの難しさ

「マーケターは小さなことでも恐怖を感じている」と、ザ・アンド・パートナーシップ(The&Partnership)の北米担当CCOであるハンナ・フィッシュマン氏は言う。「マーケターはもっと大人しくなるかもしれない。物議を醸すのを避けるため、挑戦的なことはしないだろう」。

独立クリエイティブエージェンシーであるリトル・ハンズ・オブ・ストーン(Little Hands of Stone)の共同創設者でCCOのマイケル・ボイチャック氏も同じ気持ちをメールに記した。「広告主は反発を避けたく、それは彼らの広告についての考えに影響を与えるだろう」と同氏は書く。しかしながら、「クライアント側で働いていたとき、アーンドメディアが引き起こすさまざまな悩みや辛さを目の当たりにした。広告主は、会社として顧客や従業員にとって重要な大きな社会イベント、たとえばプライド月間に参加することが期待されている。そして、エンゲージメントを促進をめざし、目立つためにより新しい動きを見せることを期待されている」と記す。

また、「一方で誰も自分のブランドの話題で(ボイコットという言葉を)聞きたくない。このバランスは非常に困難だ。姿を現さないことにはリスクがある一方で、火中に踏み込んでしまう危険もある」と続けた。

板挟みとなるブランド

より多くのマーケターがウォークと評される可能性のあるものを一切避けて、潜在的な反発やボイコットを避けようとした場合、「ブランドも何か(社会的な問題に対して)主張すべきだ」と唱えてきた近年の「目的(パーパス)」マーケティングを広告活動の中心に置くという取り組みから、一歩後退になるだろう。ブランドが180度方向を変えるというわけではないが、自分たちが唱えていた価値に見合った取り組みをしていなかったブランドや、より包括的なメッセージを後押しする意志がなかったブランドは、おそらく撤退すると見込まれる。

しかしながら、「ブランドが社会的な意識を持つことを期待されるのは、ブランドにとって厄介な道だ」と、ワンダーマントンプソン(Wunderman Thompson)の北米担当CSOであるエリー・バンフォード氏は指摘している。とくに若い消費者と繋がるためにブランドが社会的な問題に関する主張をし、それに見合った行動をとることが期待されるようになると、「ブランドが道徳的なコンパスの役割を持つことになる」とバンフォード氏は言う。そして、「それはブランドにとって危険だ」と続ける。

ブランドたちは何かを主張し続けることを消費者から期待されると同時に、一方でさまざまな社会的・政治的問題について声明を出すことを止めるように要求されるという事態と、対峙し続けることにだろう。この瞬間を乗り切るには、引き続き危険が伴うといえる。

対処方法はあるのか

ブランドがこの状況にどう対処すべきかについて問われ、POVエージェンシー(POV Agency)のマネージングパートナー兼COOのピラール・テリー氏は「適切な人々を(会議の)部屋に入れ、発言権を与えること」と述べている。

加えて、「特定の(社会問題に)関連性のある人生経験と文化的知識を持つリーダーの話に積極的に耳を傾けること。そうすることで消費者へのアプローチに関する判断材料を大いに与えてくれる。こういった人々はあなたのブランドを宣伝するのを助けるだけでなく、守るのも手助けしてくれる。リーダーたちはあなたが考えすらしない問いを投げかけたり、答えを与えてくれたりする。変革とは、そういったかたちで実現できる。単純な仕組みだ」と話した。

一方でエージェンシーの幹部は、「これからはリスキーな仕事が少なくなり、マーケターは反発を避けようとするだろう」と予測する。 とくに、バドライトのような売上が前年比23%減と報告されているようなケースでは、現在の状況がさらに対処しにくいものとなっているからだ。

「これは広告についての問題ではない」と、匿名を条件に取材に応じたある広告業界のエグゼクティブは言った。続けて、「これはアメリカの公衆を分断しようとする政治戦略だ。会社やブランド、人々の集団がアメリカを変えようとしており、『ウォーク集団を止めなければすべてを失う』と一部の人々を説得するための政治戦略だ。残念ながら、2024年の政治シーズンに向けて、これは増えるだろう」と言い添えた。

[原文:Marketing Briefing: Marketers closely watching backlash to ‘woke’ advertising from Bud Light, Miller Lite and Adidas]

Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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